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結界師への転生  作者: 片岡直太郎
第七章 クリミアーナ教国編
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第百八十八話 リノスの隠れた才能

「・・・それにしても恐ろしいですね。何のためらいもなく、クリミアーナ教の人々に人体実験の立候補を募ろうなどと言い出すとは」


ドン引きをしながら、半ば呆れたような声を出しているのは、ポーセハイのローニだ。公開質問会の一日目は無事に終了し、俺たちはヒーデータ帝国の船まで帰ってきている。既に日が暮れつつあり、海を見ると、水平線の彼方に夕日が落ちていく見事な景色が広がっている。


「おそらく、クリミアーナ教に心酔している羊獣人であれば、何のためらいもなく手を上げると思います」


メイが悲しそうな目で呟く。


「だから宗教ってのは恐ろしいんだ。簡単に命を捨てることを決意できてしまうし、命を捨てられるんだ。喜んで死ぬ奴はまだいいとして、一番悲惨なのは、神の名において無理やり生贄にされる奴らだ。自分が死ななきゃ家族がえらい目に合うし、生きててもえらい目に合う。そんな環境に置かれてしまって、仕方なく手を上げるようなヤツもいるだろう。教皇の話に割って入って正解だったな」


俺は腕を組みながら全員に視線を送りながら話をする。皆の顔が強張っている。


「全く、再現実験をしたいと手を上げておったのに、あの教皇め・・・我がドワーフを無視しおってからに!」


プリプリと怒っているのは、ニザ公国の使節団の一員であるピタンだった。


「まあ、クリミアーナとしてみれば、クリミアーナ教の影響が少ない国が増えては困ると考えたのでしょう」


ヴァイラス殿下が、これも呆れたよう顔をして話をしている。


「それにしても、チワン、ローニ、すでに病気に侵されている人たちを確保しているとはさすがだな。それぞれ一人くらいは確保すると思っていたが、十五人も確保するとはな」


俺はチワンとローニを交互に見ながら話しかけた。


「いえ、意外と簡単に見つかりました」


「え?チワン、そうなの?」


「はい。メイ様とローニを始めとして、アガルタの獣人村で診察に携わった者が、診察する際に聞き取り調査を行ったのです。彼らは色んな地域からやって来ましたからね。キリスレイやガイッシャ、ルロワンスに似たような症例を発症した者はいなかったかと、聞いてみたのです。すると、かなり多くの情報が寄せられました。あの病気は特徴的ですし、罹患すればまず動くことは困難ですからね。その情報をもとに調べましたら、十五人がそれぞれの病に罹患していることがわかったのです」


「さすがはポーセハイ。やはり、モノが違うな」


「まあこう申し上げては何ですが・・・。クリミアーナは、知識は豊富ですが、圧倒的に経験が足りません。我々ポーセハイは知識はもちろん大切ですが、それと同じく経験も大切にしております。そうでないと、現場で患者と対した時に、効果的な治療ができませんから。それに、知識と経験がなければ知恵は生まれてきません」


「チワン・・・お前、大人になったな」


「やめてください、リノス様」


俺たちは船の上で笑い合った。取りあえず、今日の質問会が無事に終了したことを労いあって、明日の本番に備えることにした。明日は羊獣人の胆汁とともに、罹患している病人も運び込む予定なのだ。そして、それに合わせて、クリミアーナ側からは、特効薬を作るのに必要な酸液を提供される予定だ。


「さてと。それじゃ、人体実験に使う獣人たちを確保しに行くか・・・」


俺は一旦自分の姿が見えなくなる結界を張って船外に出る。そしてマップを駆使しながら「盗賊」と表示されたヤツがいる場所に向かう。何とそこは学校だった。


「うまいことを考えたな。学校に潜伏したか。確かに夜の学校は誰も居なくなるわな。逆に、学校の金を盗もうってか?いやいや、そもそも学校に金なんざあるのかね?」


そんなことを言いながら俺は潜伏している盗賊の下に向かう。


奴らはでかい教室の中で絶賛休憩中だった。そいつらを結界に閉じ込めて、それごと外に連れ出す。


「ぎょ~さんいるな。二十四人?まあいいか。で、必要なのは、猫獣人、犬獣人、狼獣人っと。おお、いるいる。何だお前ら、全員呪いが付いてるじゃないか。LV2多いな。マジでロクでもないなお前ら」


盗賊どもは何かを叫んでいるが、一切無視する。俺は機械的に対象となる獣人を選別する。


「何だ・・・。六人しかいないじゃないの。取りあえずこいつらは確保っと」


残りは結界に閉じ込めたまま、六人の獣人を伴って船に戻る。内訳は犬獣人四名、猫獣人二名だ。さすがにこれでは足りないので、俺は一足先に帝都の屋敷に転移する。


「ソレイユ、帰っているか?」


「はーい。何でしょうか?」


「森の精霊に悪~い犬獣人と猫獣人と狼獣人に心当たりがないのか聞いてみてくれない?」


「ええ~??」


ソレイユはかなりビックリしていたが、やがて精霊たちに俺の要求を伝え始めた。


「・・・ッ。ちょっと待って・・・。ええと、ヒーデータに狼獣人二名、カルワルアに犬獣人が・・・」


「ああ、そりゃ俺が行ったことのない場所だ。ポーセハイたちの力も借りなきゃな」


こうして俺は、ポーセハイたちの力を借りながら、対象となる呪い持ちの獣人たちを確保することに成功した。よくしたもので、全員が男で、見るからに悪そうな連中が揃っていた。捕らえた連中はヒーデータ帝国の船に転移させ、船底に閉じ込めた。


「お前たちには、約二週間、病人の看病をしてもらいながら、オーガーと同居してもらう。相手は力自慢で食いしん坊だ。食われないように全力で自分の身を守れ。頑張って生きろ。健闘を祈る」


そんな俺の短い説明に、彼らは大反発だったが、それを華麗にスルーして奴らを二重の結界に閉じ込めた。


作業を終えた俺は、メイ、そしてチワンとローニの四人で一旦船内の部屋に入り、そこから帝都の屋敷に転移した。そこでふと、俺は羊獣人の胆汁のことについて気になったので、チワンに聞いてみる。


「ところで、羊獣人の胆汁は大丈夫なのか?」


「ええ。今夜手術しますので、その時に採取してきます」


「お前たちは・・・徹夜明けで明日を迎えるのか・・・」


驚く俺に、ローニはぴょこんと頭を下げる。


「いえ、手術自体は他の者が担当しています。我々は胆汁を採取するだけです。ですので、今晩も・・・その・・・夕食を・・・」


「あ、ああ。それを聞いて安心した。じゃあ今日はローニに世話になったから、ドラゴン肉を出そう。チワン、ローニ、明日も頼むぞ」


「「はい」」


二人とも実に元気な声で返事をしてくれた。屋敷に入ると、既に皆の夕食は終わっていたが、俺たちの分は取り置いてくれていた。今日は、マイタケのようなキノコを使った炊き込みご飯だった。さすがにこれと肉は合わなかなと思いつつ、ドラゴン肉のカツを作る。あとはサラダとスープ、そしてかぼちゃの煮つけというメニューだったが、意外と美味しかった。


食事が終わると、チワンとローニはどこかに転移していった。俺は早速ダイニングで、ロール紙に取ったメモを広げ、別の紙に書き写していく。


「リノス様、何ですかそれは?」


フェリスが興味津々で覗き込んでくる。


「ああ、これか。今日の議事録だ」


「ギジロク?」


「今日の会議で、誰が、何を喋ったかを記録しているんだ。後々に言った言わないっていうことにならないためにな」


「でもこれって・・・ヘンな記号が書いているだけですよね?」


フェリスが俺のメモを見て不思議がる。リコもメイも皆がメモを見る。


「リノス・・・これは何の模様ですの?」


「私も・・・ご主人様が何を書かれているのかわからないです」


リコもメイも子供を抱っこしながらメモを見るが、全く読めないらしい。


「吾輩もはじめて見る文字でありますー。何語でありますか、これはー」


「ゴン、これは速記だ」


「ソッキ、でありますかー」


「ああ。人の喋った言葉を記号であらわす文字だ。知っていると便利なんだが、まさかここで役に立つとは思わなかったな」


「ごっ、ご主人はいつこのような文字を身に付けられたのでありますかー」


「ああ、昔な」


俺は遠い目をして、懐かしい、甘酸っぱい記憶を思い出す。高校生の頃、大好きだった女の子が速記でノートを取っていたのを見て、俺も勉強したのだ。話をするきっかけは作れ、仲良くはなれたのだが、結局その恋は実ることはなかった。まあ、相手に彼氏がいたというお約束の終わり方だったのだが。


「しかし、この速記っていうのは意外に使えるんだぞ?ライブなんかで、MCをメモって文字化してやると、ツレが喜ぶんだこれが」


「らいぶなんかでえむしーをめもってもじか?何でありますかー?」


「ああいや、こっちの話だ。ハハハハハ」


「バーサーム家ではそのようなことまで教育されるのですね。どうりで亡きバーサーム侯爵が優秀だったわけですわ」


リコが妙に感心している。俺は再び笑ってごまかす。


「俺はこの作業があるから、まだまだ遅くなる。みんな、明日もあるだろうから、先に寝てくれ。マト、今日は遅くなるから、リコと一緒に風呂に入って、寝てやってくれるか?」


「わかった」


予定では今日はマトと一緒に寝る日だったのだが、予定を変更してリコと一緒に寝てもらう。マトには今度、たっぷりお礼をしようと思う。


そして俺は、メモの文字起こしをしながら、議事録の作成にかかった。ついでに言うと、出来上がった議事録の複写はゴンが手伝ってくれた。この世界は活版印刷も木版印刷すらなく、全て手書きだ。ゴンは一字も間違うことなく、見事なスピードで書き写して見せた。お陰で朝を迎えるまでに、議事録が四部も出来上がった。何と優秀な白狐だろうか。


二時間ほど仮眠を取り、朝を迎える。いつの間にかポーセハイのチワンとローニも屋敷に戻って来ていた。二人ともよく寝たようで、ローニには目やにが付いていたが、敢えて何も言わなかった。


朝食はサンドイッチとサラダ、そして昨日のドラゴンのカツだ。それぞれ、好みのものをパンに挟めるようになっており、カツの他に、オルレイン(マグロ)を焼いてほぐしたもの、いわゆるツナ、卵焼き、ハム、ポテトサラダ・・・など、多くの種類が用意されていた。リコとペーリスが全力でかかれば、このくらいはすぐにできてしまう。当然味は、今すぐ店が出せるレベルだ。


ローニは無表情のまま黙々と、ガツガツとサンドイッチを食べている。耳がピクピクと動いているので、どうやら美味しいらしい。最後に残ったドラゴンのカツをしれっとゲットしていったのは、見なかったことにする。


食事が終わり、俺たちは再び帝国の船の船室に転移する。チワンとローニは、病人を迎えに行ったため、遅れて転移してくるようだ。俺は船室で議事録にサインをしていく。ついでに、「作成人は僕、リノス。僕ちゃんの許可なく内容を書き加えたり、修正したり、付け足したりしちゃだめだからね」という内容をもっともらしい文章にして記入する。


そしてそれらを抱えてデッキに上がると、ちょうどクリミアーナからの迎えの馬車が到着したところだった。


「さあメイ、行こうか」


「はい、ご主人様」


俺たちは意気揚々と馬車に乗り込んだ。

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