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結界師への転生  作者: 片岡直太郎
第六章 アガルタ国編
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第百六十六話 転ばぬ先の杖

フェアリードラゴンのサダキチ達をラマロンに偵察に出してから、次々に俺の下に報告が寄せられた。どうやら奴らは、皇都の北西にあるレイニーという都市に駐留して、各地の軍を吸収しているようだ。そして全員が騎馬隊であり、その総勢は五万を超えるという。しかも国境に近い街や都市には、それなりの数の軍勢が配置されているが、それ以外の街は最低限の兵士しか残していないことも分かった。


「これで、ダイタス村の討伐の可能性は消えたな」


地図を見ながら呟くのはマトカルだ。俺たちは昨日開いた会議の内容を確認しつつ、次々に寄せられる報告を分析していた。お陰で俺は、昨日の夜から執務室に泊まり込んでいた。本来ならば、アリリアをメイと二人で風呂に入れ、そのままアリリアの寝顔を見ながら、メイを抱きしめて寝る予定だったのだ。俺の楽しみを奪うラマロンには、鉄槌を下さねばならない。


「そうだな。あの標高の高い山を馬で登るのは困難だ。狙いはダイタス村ではなく、アガルタかヒーデータだろうが、ほぼ確実にアガルタだな」


ラファイエンスが笑みを浮かべながら頷いている。また、戦闘に参加できそうなので、うれしくて仕方がないらしい。


そんな話をしている最中に、サダキチが現れた。


『ご主人様。敵の一部が動き始めました。数は多くないようです。山の方に真っすぐ向かっています』


『ご苦労』


俺は、サダキチからの報告を皆に共有する。


「それはダイタス村への牽制だな」


「間違いない」


マトカルとラファイエンスが夫婦漫才のように、間の合った受け答えをしている。ネタ合わせでもしているのだろうか?


「と、いうことは、奴らの狙いはアガルタってことか・・・?」


「先ほどのリノス様からのお話によると、全軍が騎馬隊だという。おそらく、国境まで兵を進めて、そこから一気に騎馬隊の機動力を活かしてアガルタの街、もしかすると、都を一気に突いてくるのかもしれないな」


「マト、ラマロンは新しい装備を開発してたりはしないのか?」


「いいや・・・。魔法をレジストする鎧を開発することに全力を挙げていた。他の装備を開発する余裕はなかったはずだ。それに、一年やそこらで、五万人分の新装備を用意するなど不可能だ」


「はあああ・・・。と、なると、ラマロンの司令官は、何も知らないんだな」


「どういうことだ、リノス様?」


俺はマトカルやラファイエンス、そしてそこに集まった者たちに視線を移していく。そして、気が付いた。


「ああ・・・。マトや将軍・・・そしてクノゲンは、ジュカの人間じゃなかったな。わからないのも仕方がないかな。おい、セオダルやウェルネたちは・・・わかるよな?」


セオダル達、ジュカ王国出身の者たちは、苦笑いを浮かべている。


「リノス様、すまないが、私にもわかるように説明してくれないか?」


マトカルが目を白黒させている。


「結構大変なんだよ、この時期にアガルタに攻め込もうとすると」


「ああ、そうか!これは私としたことが!そうだそうだ。確かにラマロンがアガルタを攻めることは難しいな」


苦笑いを浮かべながら、悔しそうに話しているのは、ラファイエンスだ。その様子を隣のクノゲンは不思議そうな顔をしてみている。


「将軍。私にもわかりかねます。どういうことでしょう?」


「クノゲンは、ジュカとの戦いに参加したことは・・・なるほど。若い頃に一度だけか。しかも、小競り合いだな。それではわからんだろうな」


ラファイエンスは満足そうに頷いている。マトカルやクノゲンはよくわからないような顔をしている。


「マトとクノゲンは後で将軍に教えてもらえ。ところで、ラマロン軍が国境に着くのは何日後かな?」


「明日出発するとして・・・おそらく、早くて明後日、遅くとも明明後日には到着するだろう」


「なるほど・・・。じゃ、明日の昼、出撃するぞ。準備を整えておいてくれ」


「リノス様は、夜のうちに国境付近の森に兵を潜ませて、皇国軍を迎え討とうと言うのか?」


マトカルが、それやめた方がいいんじゃない?という顔で俺と見つめている。


「いや、俺たちの目標は国境ではない」


「えっ・・・?皇国軍を迎え討つのではないのか?」


マトカルは目を見開いて驚いている。


「ああそうだ。俺たちはラマロンの裏をかく。これはアガルタの都にいる全兵力をもってあたる」


「何をしようとしているのかわからないが、リノス様、全兵力はまずい。せめて守備隊を・・・」


俺はマトカルに皆まで言わせず、言葉を遮る。


「それじゃマト、都の守備隊はお前に任せる。今すぐ、腕の立つ者100名を選抜しろ。よし、本日の会議はこれまでだ。将軍、クノゲンは残ってくれ。明日の打ち合わせをしよう」


「私は・・・」


「守備隊を指揮するには、優れた司令官でないとダメだ。今回は、指揮能力が一番高いマトが担当してくれ」


マトカルは納得いかない顔のまま、他の者と一緒に部屋を後にした。そして俺たちは、明日からの作戦の打ち合わせを始めた。


その夜は一日ぶりに屋敷に帰った。相変わらずエリルとアリリアは泣いているか、寝ているかのどちらかだ。そして、夕食前に明日の昼から出撃すること、夜は帰れないかもしれないことを家族に伝えた。


夕食後は、俺はペーリスとキッチンのことについて色々と相談する。家族が増えたことと、作る料理の種類が増えたので、食器と器具が増えてきた。そこで、水屋(食器棚)を増やそうということになり、どのようなものにするのかを打ち合わせたのだ。既にリコなど、料理をする主だった者たちから意見の吸い上げは終わっており、俺はそれを聞きながら自分の希望を伝えつつ、話を詰めていった。


その間に、リコとメイは二人でそれぞれの子供を抱えて風呂に入ってしまい、その他の者も、自分の部屋に帰るなどして、思い思いの時間を過ごしている。


水屋の打ち合わせを終え、リコとメイが風呂から上がって来たので、俺も風呂に入る。今日はコンシディーと一緒に入る日だ。彼女は俺と風呂に入る日は何故か、食事が終わるとすぐに部屋に帰ってしまう。俺も不思議に思っていたので、そのことを聞いてみることにした。


「・・・その・・・準備を・・・」


「準備?」


シディーは湯船の中に体育すわりをしながら、恥ずかしそうに話をしている。


「だって・・・。リノス様の背中をどうやって洗うとか・・・。あと、髪を整える薬も・・・」


シディーは一見、ストレートの髪質に見えるが、実は髪の量が多く剛毛である。これはドワーフの特徴らしいのだが、シディーはサラサラストレートヘアに憧れており、特製のコンディショナーを使用している。それをわざわざ、俺と風呂に入る前には必ず、準備していたのだという。


「作りたての時が、一番いい香りがするので・・・」


普段のシディーからは想像もつかない、奥ゆかしいことを言う。その時、風呂のドアが静かに開いた。その瞬間、シディーは湯船の深くに体を沈めてしまった。口から下が完全に湯船に隠れてしまっている。


「・・・一緒に、入っていいか?」


遠慮がちに風呂に入ってきたのはマトカルだった。シディーに大丈夫かと聞いてみたら小さく頷いていたので、一緒に入ることにする。マトカルは素早く体を洗い、風呂に入ってくる。


「珍しいな、マトが入ってくるなんて」


「いや・・・遠慮しようとは思っていたのだが・・・」


マトカルはちらりとシディーを見る。シディーは元の体育すわりに戻っていた。マトカルは大丈夫のようだ。


「今日の昼にリノス様が言っていた、皇国がアガルタに攻め込めない理由を・・・教えてほしいのだ」


「うん?ラファイエンスに教えてもらったんじゃなかったのか?」


「それは聞いたのだが・・・。将軍は・・・その・・・ベッドの中で教えてもらえと」


「エロジジイめ・・・」


「ただ、その・・・今日はシディー殿となので・・・それで・・・」


「風呂で聞こうと思ったのか?飯食っている時でもよかったじゃないか?」


「計画段階での戦術や作戦は、なるべく秘匿するものだ」


「ああ、うん。わかった。なに、簡単なことだ。春になるとジュカ山脈やルノア山脈の雪が解ける。それが雪解け水になって流れてくるんだ。で、アガルタの川は春になると増水する。その川の水は、イルベジ川に注いでいる。だから国境地帯は、春になると増水して川幅がかなり広くなるんだ」


「川が増水することは知っていたが、まさか行軍が困難になるほどとは・・・」


「ラマロンもヒーデータも、イルベジ川が増水したところでほとんど被害はないから、あまり気にしないのだろう。ただ、川の深さが増し、流れがいつもより急になるから、あそこを馬で渡ろうとすると、かなり苦労すると思うぞ?ラマロンは、事前の準備を怠ったな」


そんな話をしている中、シディーがゆっくりと立ち上がった。膨らみかけたような胸や、体が露になる。


「シディーどうした?」


「のぼせそうです・・・。あがりませんか?」


俺とマトカルは苦笑いしながら、風呂からあがろうとする。


「シディー殿はうらやましいな」


「どうして?」


「きれいな体をしているではないか」


「きれい?私の体が?」


「ああ。リコ様には及ばないが、私のように傷があるわけではなし、ソレイユ殿のように体のあちこちにホクロがあるわけでない。整った、きれいな体をしているぞ?」


「・・・ありがとう」


この日以来、シディーは俺と風呂に入る時は、恥ずかしがりはするものの、極端に体を隠すようなことはなくなったのだった。

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