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結界師への転生  作者: 片岡直太郎
第六章 アガルタ国編
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第百六十二話 こちらにおわす方をどなたと心得る

龍王は上空から、笑い声を上げる俺を睨みつけている。その時、俺の顔に何かがポロポロと落ちてきた。


「何だこりゃ?」


見ると銀色の、メタリック調の、金属のようなものだった。ツルツルしていて、とても肌触りがいい。


「あああ!何ということだ!何ということを!!」


龍王が絶叫している。見るとヤツは自分の腕を見ながらワナワナと震えていた。


「我の・・・腕の鱗が・・・」


どうやら俺の顔に落ちてきたのは、龍王の鱗らしい。黒刀が当たった時に、どうやら傷がついたらしい。


「人間如きに体を傷つけられるとは・・・。許さん・・・許さんぞ!!」


龍王の体から光が放たれる。そしてそこには元のドラゴンの姿に戻った龍王が居た。しかも体が真っ赤になっている。ゴルルルルと雷のような鳴き声を上げながら、ゆっくりと地面に降りてくる。先ほどとは違い、かなりの殺気を帯びていて威圧感が半端ではない。これはマジでヤバそうだ。


俺は龍王に向けて神結界を張る。どんなドラゴンでも破れない硬度を持った結界だ。それを縮小させていき、龍王を圧縮して潰そうとする。


・・・パーン。小さな風船が割れるような音がした。見ると、龍王に張った神結界が粉々に砕けている。しかもそれは消えずに、まだ龍王の周囲に漂っていた。


「グワアァァァッ!」


龍王がぐるりと首を大きく回すと、周囲に漂っていた結界の破片が俺たちに向かって飛んできた。反射的に思わず腕で顔を覆ったが、あらかじめ張ってあった結界のために、俺たちは全員無傷だった。しかし、その周囲は、結界の破片で地面のあちこちが抉れていた。


「神結界を破りやがるのか・・・。なかなか面倒くさいヤツだな。コロコロと色を変えやがって・・・上等だ。こうなりゃ肉弾戦だ。ボッコボコにしてやんよ!」


俺は黒刀を握り締めて龍王の下に近づく。それを見たヤツは大きく息を吸い込み始めた。


「ブ、ブレスを吐きやがるか!」


俺は全力で周囲に結界を張ろうと、魔力を集中させる。その時、


「静まれ」


落ち着いた子供のような声が聞こえた。ふっと声のする方を向くと、そこには白いローブを着た神龍様が立っていた。


「静まるのら」


いつの間にか俺の隣に移動していた彼は、落ち着いた声で話しながら、俺の左足にそっと触れる。その瞬間、俺の体が硬直する。ドラゴンは既にブレスを吐く直前の態勢で、口の周囲に銀色の光が集まっていた。


「あ・・・ブレス・・・ブレス・・・」


喘ぐような声を出す俺を尻目に神龍様は、スタスタとドラゴンに近づいていく。そして、ゆっくりと人差し指を天に向ける。


「静まるのら」


その瞬間、ドラゴンの動きが止まる。口の周りも光を失っていく。


「ゴ・・・ゴア・・・こ・・・この・・・気配は・・・」


「静まるのら、二人とも」


その声を聞いた直後に、体が軽くなり、身動きができるようになる。それはドラゴンも同じようで、首をゆっくりと左右に動かしながら俺たちを観察している。


「バカな奴らー。こんなところでブレスを吐くと、ここらが焼け野原になるのらー」


「ま・・・まさか・・・神龍様?なぜ・・・」


「私が召喚しました!」


ソレイユが俺たちの傍に走ってくる。


「すみません、ご主人様。思わず神龍様を召喚してしまいました」


「いや、いいソレイユ。それにしても神龍様、申し訳ありませんでした。こんなところに呼び出して」


「気にしなくていいのらー。我もこの姿になるのに時間がかかったのらー。許すのらー」


のほほんと話している神龍様にドラゴンがズシンズシンと足音を立てながら歩いて来る。そして顎を地面につける。どうやら平伏のポーズを取っているようだ。


「神龍様・・・。お目にかかれまして光栄でございます」


「おー。久しぶりなのらー」


「この度は、我が失態・・・。弁解の余地もございません」


「うーん?何の話らー?」


「その・・・。シンジョの一人を逃がしてしまい、そのまま捨て置きましたことを・・・」


「それは初めて聞いたのらー。我はただ、契約した主に呼ばれて出てきただけなのらー」


「け・・・契約、と仰いますと?」


「うーん。そこのサイリュースと契約してやったのらー。我の主らー」


「し・・・神龍様が契約・・・。主・・・?その・・・サイリュースが・・・?」


ソレイユは申し訳なさそうな顔をして、ペコペコと頭を下げている。


「で、お前と戦っていたのが、我の主の主らー」


「え?神龍様の、主の主???」


「おーう。とても美味いものを食わせるのらぞ?おい主、また前のアレを食わせるのらー」


神龍様は俺の方を向いて笑顔を見せる。


「はい、いつなりとも喜んで!」


俺は直立不動で返事をした。このドラゴンがここまでビビる相手なのだ。俺がどれだけ頑張っても勝てない相手なのは明白だった。


神龍様が人化しているのに、ドラゴンが何もしていないのは失礼だと思ったのか、ヤツも人化する。ゴンやフェリスも人化することができるが、人化をした直後は基本的に全裸なのだが、この二人は何故か服を着ている。後で聞いたら、魔力で服を作れるのだそうだ。これはソレイユに言わせると、何千年の時をかけて魔力を錬成しないとできないスキルなのだとか。試しに俺もやってみたが、全く出来なかった。


そして俺は、神龍様の仲介の下、なぜ今になってこのドラゴンがフェアリを取り戻しに来たのか、その理由を聞くことができた。


このドラゴン=龍王は、既に年齢は300,000歳を超えているらしい。コイツは神龍様の姿を直接見ることができ、その上、神龍様の言葉を聞くことができる。その「神託」を伝えるのがこのドラゴンの役目であり、さらにこのドラゴンの声を聞くことができるのが、彼らの言う「シンジョ」と呼ばれるドラゴンたちである。


神龍様は、天候と大地、その中でも特に水を操ることが得意な精霊であり、その水の流れを中心とした大地の動きと風の向き、雲の流れなどから、天変地異を知ることが出来るのだという。神龍様は事前に察知した天変地異をこのドラゴンに伝え、そして、彼は天変地異が起こる場所の近くに住まうドラゴンたちにシンジョを通して情報を伝えていたのだ。


龍王と呼ばれるドラゴンの声を聞くためには、フェリスらが持っている「念話」のスキルでは聞くことが出来ず、さらにレベルの高い「思考転写」のスキルが必要なのだという。それには膨大な魔力が必要であるため、「シンジョ」の才能を持つドラゴンはひたすら、魔力を上げる修練を課されることになるそうだ。これは俺も経験があるが、本当に辛いのだ。気絶するまでMPを使い、起きて、またMPを使い切る・・・。今、それをやれと言われると、俺は全力で拒否したいくらいにツライものなのだ。


ちなみに、「思考転写」というスキルは言葉だけでなく、鮮明なイメージを伝えることが出来るのだという。送られてくるイメージは、MPの量に比例して鮮明なものになるらしく、そのために、「シンジョ」と呼ばれるドラゴンは、できるだけMP容量を大きくすることが必須になるのだ。どうりで出会った頃のフェアリのMPが、年の割にケタ外れに多かったのは、そのためだったのだ。


「うーん、まあ、そのシンジョは主の主のところにいるので、心配ないのらー」


「しかし、神龍様。そのお言葉を賜ることが出来るのは、私だけかと存じます。私の思念転写は、龍族の張る結界内でしか、シンジョたちは聞くことができません。従って、この男のもとにいるシンジョは、フェアリー族に一旦返して貰わねばなりません」


「ああ、それならば心配ないのらー。我の言葉は主を通して伝えるのらー」


「お、恐れながら神龍様。神龍様のお言葉をこのサイリュースが賜りますと、肉体が崩壊するかと存じますが・・・」


「うん?我がこの姿になって伝えれば、問題ないのらー」


「そんな・・・何と恐れ多い・・・」


ドラゴンは元々薄青かった鱗をさらに青くして、恐縮している。神龍様が人化してお出ましになること自体がとんでもないことのようだが、よく考えると、下手をすれば俺とソレイユがエロいことをしている最中に、いきなり現れる可能性もあるということだ。それは、できれば、避けたいものだ・・・。


「よいのらー。この者たちは、美味いものを食わせる。よいのらよいのらー」


俺たちの心配をよそに、神龍様はケラケラと笑っている。こうして見ると、見た目は白髪だが子供っぽくてカワイイ。


なお、この龍王は、フェアリが逃げ出したことについては把握していたという。しかし、ドラゴン族の中では最弱に近いフェアリー族のシンジョである。彼からしてみれば、シンジョも守れぬドラゴン族はドラゴン族ではないという考え方であったそうで、結局フェアリードラゴンたちを罰することもなく、特に何もしようとしなかったらしい。


しかし、数か月前、この龍王は神龍様の気配を感じた。何事やあらんと緊張してお言葉を待っていたそうだが、待てど暮らせど神託は降りてこなかった。彼はおそらく近いうちに神託があるだろうと予想していたが、しかし、その時になってフェアリー族のシンジョがいないということが万が一、神龍様にバレると、自分は神龍様の信頼を失う。そうなる前に、フェアリを奪還しようと考え、血眼になって探したところ、飼い主の俺を発見したというわけだ。


最初、龍王は帝都の屋敷を襲おうと考えていたそうだ。しかし、強力な結界が張られているのと、クルルカンのフェリスの気配と、ジェネハをはじめとするハーピーたち、挙句にはベリアルであるペーリスの気配を感じたので、断念したのだという。これだけの戦力を相手にするには、いかに龍王と言えど手こずることは目に見えており、その間に俺に連れ去られてしまえば、全てが水の泡になるのだ。


そこで龍王は、この結界を張っている俺を先に抹殺しようと、機会をうかがっていたというわけだ。


「何だそりゃ?龍王のくせに、意外と気が小さいんだな」


「貴様、誰にものを言っているのだ!」


龍王が鱗を赤くして怒っている。


「その方こそ、誰にものを言っているのら?この者は、我の主の、主になる者ぞ?」


「くっ・・・ははっ」


龍王は悔しそうに頭を俺に下げる。


「いや、俺に気は使わないでくれ。それにしても、神龍様の神託っていうのは、そんなに頻繁に出るものなのか?」


龍王はぷいっと横を向いたまま、口を開く。


「最後に神託を賜ったのは、数年前だ。その前の神託は・・・17年前に賜った」


「数年前の神託って・・・?」


「おー。ジュカ王国でとんでもない邪悪な魔物の気配を感じたのらー。我でも手こずりそうな相手らったので、全てのドラゴンに縄張りから出ることを禁止したのらー」


「確かに、あの時の邪気は、凄まじいものがございました」


懐かしそうにその時の話をする二人。そして、ソレイユも、そうだったですわね~とその会話に参加している。俺はその三人を見ながら、心の中で静かに手を合わせて詫びるのだった。

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