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結界師への転生  作者: 片岡直太郎
第六章 アガルタ国編
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第百五十四話 仕事納め

トン、トン、トン、トン・・・。


ゆっくりと指で机を叩く音が、会議室の中に響いている。それは、音を鳴らしている人物の苛立ちを十分に表していた。


「で?」


目を少し見開きつつ、大きなため息をつきながら居住まいをただしているのは、ラマロン軍統括司令官のケーニッヒ公爵である。その彼に対し、硬い表情を一切崩そうとせず視線を向け続けているのは、ラマロン皇国第三軍の軍団長であるアーモンドであった。この日は、年内最後の、幕僚たちが集まっての会議だったのだが、例年になく荒れた展開になっていた。


「もう一度言います。ダイタス村を占領するべきです」


ケーニッヒ公爵は、ヤレヤレという顔をしながら首を振る。


「だから、それはさっきから言ってるじゃないか。意味がないと」


「意味がない、と仰る意味が分かりかねます。アガルタは戦わずして国境を進めたのですぞ?」


「いや、僕が聞いているのは、本当にダイタス村が寝返ったのかってことだよ。僕が聞いたところによると、村長以下、若い者たちがアガルタに侵入して食料を運んできただけだそうじゃないか。それだけで寝返ったというのは早計じゃないか?アーモンド司令官?」


「運んできたと仰いましたが、敵側から支援を受けておるのです。これを裏切りと言わずして、何と言うのですか!」


「まあ、それが裏切りであったとしても、今すぐ討伐の必要はないだろう。第一、皇国軍には兵糧がない。たかが150名程度、しかも、ほとんどが老人と女子供の村に討伐軍を編成するのか?食料の無駄だよ。それならば、収穫の時期に行けばいい。それに、バンザビ山の周辺はこれから雪に閉ざされる。ヒーデータが侵攻してくることはないだろう。もちろん、アガルタもね」


「しかし!・・・敵はイルベジ川を越えてバンザビ山を占拠できるようになります。あの山を抑えられると、皇都までは遮るもののない一本道です。バンザビ山を敵に渡してはなりません!」


声を荒げるアーモンド司令官に、ケーニッヒ公爵は顎を少し上げ、アーモンドを指さす。


「じゃあ聞くが、皇国軍はダイタス村の連中に敗れると言うのか?」


アーモンド司令官は背筋をピンと伸ばす。


「そんなことは、あろうはずがありません」


「なら、今は別にいいだろう。無駄なことはやるべきではない。兵を送るとしても、春まで放っておけ」


そう言い捨てて、ケーニッヒ公爵は足早に部屋を後にした。そして、廊下を歩きながら彼は呟く。


「全く、バカばっかりだな。どうしてこうもムダなことばかり考えるかな」


「仰る通りです。統括司令官殿」


副官が後ろから付いて来ながら追従する。公爵は足を止めて振り返る。


「あの村一つで何かできるとは思わんが、一応、監視は緩めるな」


副官にそう命じて、彼は自室へと戻っていった。



一方、会議室ではアーモンド司令官が机に両手をついて、その苛立ちを隠そうともせずに大きく息を吐き出していた。


「全く、何と言うことだ・・・」


「アーモンド」


声がした方に目をやると、そこにはカリエス将軍が、目を閉じたまま椅子に端座していた。


「将軍!なぜ何も仰らないのですか!」


カリエス将軍は、無言のまま微動だにしない。


「・・・あの村は、何か嫌な予感がします。根拠はありません。軍人としてのカンです。私の本能が、あの村は捨て置いてはならないと言っているのです!」


そう言い捨てると、アーモンドは足早に会議室を出て行った。カリエス将軍以下、残った司令官たちは、どうすることもできずにただ、成り行きを見守るしかなかった。そんな中でカリエス将軍は、ゆっくりと目を開く。


「無駄なことをするな・・・か。さすがは皇太后陛下のご一族にあらせられる御方だな。言うことがいちいち陛下とよく似ておられる。・・・アーモンドが、暴走しなければいいのだがな」


カリエス将軍は深くため息をついた。



アガルタの都は、地面がうっすらと雪に覆われるようになった。この世界ではクリスマスというイベントは存在しない。従って、サンタクロースという存在もない。しかし、俺の前には、真っ赤なお鼻の大工のゲンさんが、満面の笑みで立っている。


「すまないな、ゲンさん。年の瀬で忙しい時なのに」


「トシノセ?何にも乗せるもんなんざ、ありゃしねぇやな。で、用って何だい?」


「ああ、それのことなんだが・・・」


俺はゲンさんに注文の品を告げる。


「・・・そんなもん、すぐにでも作ってやらぁな。ヘタすりゃ大将てぇしょうでも作れちまうぜ?」


訝しがるゲンさんに、俺は笑顔で答える。


「いや、丈夫なものを拵えて欲しいんだ。ちょっとやそっとじゃ潰れない、丈夫なものを頼みたいんだ」


「まあ、北の森に行きゃ、カルワサンの木がたんと生えてらぁな。ありゃクソ固ぇからよ。あいつを使ゃ、そりぁ丈夫なもんが出来上がるってぇもんよ」


「まあ、暖かくなるまでに仕上げてもらえばいい。急ぎじゃないから、ゆっくりやってくれ。取りあえず、一つ出来たら見せてくれないかな?」


「おう、任せときな!」


ゲンさんは、いつもの白い歯をニッと見せて笑う。


「俺たちは今日で今年の仕事は終わりにする。ゲンさんも無理しないでくれな。よいお年を」


ゲンさんは、ヘヘヘと笑い、ピラピラと手を振りながら部屋を後にした。


「さて・・・。どうなるかな・・・」


俺は誰に言うともなく、独り言をつぶやいた。そして、ちょっと早い時間だが、そのまま俺は帝都の屋敷に転移した。



屋敷に帰ると、何やら馬小屋の方が騒がしい。気になったので行ってみると、そこにはいつもの、ジェネハとイリモがおり、その周囲にハーピーとフェアリがいた。何をしているのかと思って近づいてみると、


「海を越えると、真っ黒な大地があってな。その真ん中に火を吐く山があったのじゃ」


「ジェネハ様、それは我らが住んでいた島にあった、あの煉獄魔鳥が住んでいた山のことでしょうか?」


「おおそうじゃ。その山じゃ」


「その火を噴く入口の近くに、あの石があったのじゃ」


「それでそれでー?」


「うむ。私は灼熱の大地に降り立って・・・」


ジェネハの武勇伝を聞いて皆で盛り上がっているらしい。俺は思わず笑みを漏らす。そして、話の邪魔にならないように、そっと屋敷に入った。


ダイニングには、リコとソレイユがいた。もう臨月に入ろうとしている彼女は、基本的に屋敷にいるのだが、誰か必ず彼女の側にいることにしているのだ。


「リノス、おかえりなさい」


「おかえりなさいませ、リノス様」


二人が笑顔で出迎えてくれる。リコとソレイユの二人は、当初はあまり合わないのかもしれないと心配したが、蓋を開けてみれば意外に二人は話の合う仲だった。どちらもオシャレが好きなので、その話題でよく盛り上がっているみたいだ。


ソレイユは椅子から立ち上がって俺を出迎えようとする。


「ああ、いい。そのままそのまま」


そう言って俺はキッチンに向かう。リコは椅子に腰かけたまま、


「リノス、手伝いますわよ?ソレイユ、手伝ってあげてくださいな」


とソレイユにお願いしている。


「いやいい。今日は俺が晩飯を作るって言っただろ?ソレイユはリコの側についてやっててくれ」


「・・・わかりました」


ちょっと戸惑いながらソレイユはリコの隣に座る。そして俺は、久しぶりにキッチンで野菜の下ごしらえにかかる。そうしている間に、ゴンが戻ってきた。


「いや~遅くなったでありますー」


「ゴン、すまないが肉を薄く切ってくれ。たくさんな!」


「了解でありますー」


ゴンはカースシャロレーの肉を丁寧に薄切りしていく。それを見ながら俺は、豆腐を火にあぶって、焼き豆腐を作る。その火加減を見ながら、大量の白菜とねぎをきざみ、さらに、しいたけに切り込みを入れていく。


その間に次々と皆が帰ってくる。そして最後に、メイとコンシディー、そしてフェリスが帰ってきた。フェリスは大きな鍋を二つ、肩に担いでいる。


「ただいま戻りましたー」


フェリスは元気良く屋敷に入ってくる。その後に続いてコンシディーとメイが入ってきた。メイもお腹がふっくらとしてきた。お腹の子供も動いているようで、こちらの出産も今から楽しみだ。


「ご主人様、出来上がったご注文の鍋を取ってきました」


「ああ、ありがとうメイ。それにしても、ドワーフはさすがだな。注文して一週間で完成させるとは、これは恐れ入ったな」


「みんな、かなり気合を入れて作っていましたので、いいものが出来上がっています」


そう説明してくれたのは、コンシディーだ。彼女はドワーフの様子を折りに触れて見に行っているが、最近ではずっとメイの側にいてくれて、彼女の体を気遣ってくれる。実にありがたい。


「そうか、それじゃフェリス、担いでいる鍋をテーブルに置いてくれ。あ、俺が土魔法で作った卓上かまどを出して、その上にな。置けたら火を起こして鍋を温めておいてくれ」


「ご主人様、油はどうしますか?」


「カースシャロレーの油の塊があるだろう?それを鍋に塗ってくれ」


フェリスが準備している間に、俺はパスタを茹でる。そしてそのまま俺は肉を持ってダイニングに行く。


「よーしみんな、今日は俺の特製のスキヤキだ!」


俺は肉を鍋に放り込み、砂糖と醤油で味付けをする。肉はすぐにおいしそうな匂いと共に、グツグツと音を立てる。


「さあ、まずは肉を食ってくれ。あ、ハーピーの卵があるだろう?それを割って、かき混ぜて、それに肉を絡めて食べてくれ」


皆、不思議そうな顔をして肉を食べる。


「あ、おいしい!」


「おいしいですわ!」


「おいしいですね!」


「ナニコレ、おいしい!」


どうやら好評のようだ。その匂いに誘われたのか、フェアリも帰ってきた。


「肉を食い終わったら、もう一度肉と野菜を入れるからな。これは火が通るまで待ってくれ。あ。パスタも入れなきゃな」


そう言って俺は再び肉を入れ、具を入れて再び砂糖と醤油で味付けをする。具材に火が通るまでの間に、もう一つの鍋で肉を焼く。


「ゴンこっちへ来て食おう!フェアリ、お前も食え。フェリス、お前足りないだろ?こっちの分も食え!」


こうして俺たちはスキヤキを堪能したのだった。最初はスキヤキにパスタってどうよ?と思ったが、食べてみると意外に美味しかった。コック長のペーリスは早速スキヤキの改良を考えているようだ。マトカルは一言も言わず、ひたすら食べ続けていたので、美味しかったのだろう。


俺がひとかかえするほどの大鍋で作ったため、予想以上に余ってしまった。それについては、ジェネハとハーピーたちにおすそ分けをした。彼女らもとても気に入ってくれ、俺としても大成功だった。今度は、おひいさまかサンディーユにお供えしてみようと思う。


こうして、俺たちの年は暮れていった。

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