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結界師への転生  作者: 片岡直太郎
第一章 ジュカ王国編
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第十四話  黄金鳥をゲットせよ!

王太子殿下の無茶ぶりから二日後、俺は黄金鳥を狩るべく屋敷を出た。出発の前日、俺は再びエルザ様の部屋に呼び出された。


「今回は大変な任務を与えますが、何としても成功させてほしいの。頼むわね、リノス」


完全に退路を断たれた後、エルザ様から3つの装備品を与えられた。一つは下賜、二つは貸与、なのだが。


貸与されたのはバーサーム家の家宝だ。一つが言わずと知れた「無限収納」。もう一つが「千里鏡」。望遠鏡のようなものであり、魔力を通すと、魔力量に応じて遠方の景色がみられるというもので、それこそ俺の魔力では千里先まで見える代物だ。


そして下賜されたものは、黒色のフード付きのローブだ。以前俺が狩ったカースシャロレーの皮をなめして作ったものらしく。とても薄い生地だが、防刃性と防魔法性はかなりのものになる。俺の12歳の成人のお祝いにと、エルザ様がわざわざ作らせたのだそうだ。もっとも俺には結界があるので使用することはないだろうが、ただの奴隷ごときにここまでの心配りがありがたい。エルザ様が手ずからくれた逸品である。大切にしようと思う。


ちなみに、千里鏡も試しに覗いてみた。湖の対岸にある屋敷に狙いを定めて魔力を込めると、運よく使用人同士が逢引している現場を見つけることが出来た。大チャンス!とばかり魔力をさらに込めてみたが、やりすぎたらしく、ピンク色の芋虫のような物体が見えたかと思えば、同じような物体がぶつかり、グチャッと潰れていく場面が見えてしまい、思わずギャァ!と悲鳴を上げてしまったのは、ナイショの話である。


黄金鳥が狩れるまで、俺は帰還しない。狩の最中はMPをかなり消費するだろうとの師匠の助言により、現在かけている屋敷とエルザ様、バーサーム侯爵、王太子殿下の結界を解くことになった。さすがにそれでは危険、とのことで、俺が戻るまでの間は、師匠と共にエルザ様も王宮に入り、バーサーム侯爵の執務室で過ごすことになった。エリルは、当然屋敷の警備である。


屋敷を出た俺は、まず北門の城壁に向かった。城門の兵士に無理を言って城壁の上に上がると、そこからルノアの森がよく見える。


森に向けて丁寧に魔力感知を行う。黄金鳥は魔力こそ低いが、群れで行動しているので、小さな魔力が密集しているはずだ。そう考えながら探っていると、見つかった。城壁の前を流れる川を渡って、北東に約20㎞。ルノア山脈の麓に魔力の塊がある。ゴブリンやオークの集落かと思ったが、どうも彼らの魔力とは質が違うようである。おそらくここであろうと当たりをつけ、俺は城壁を降りてルノアの森に入った。


森に入ってすぐ、人の気配を探知する。これはエリルだ。追いかけてきやがったな。


このまま撒こうとも思ったが、あとが面倒くさいので待つことにする。


「お屋敷の警備を放り出してしまって大丈夫なのですか?」


「大丈夫よ。メイドたちはあれでも優秀なのよ?まず、お屋敷で何かが起こることはないわ」


「本当ですか?」


「アラ、あなたが来る前までは、メイドが鎧を着て叔母様の警護をしていたのよ?だから大丈夫よ。それより黄金鳥よ!多めに狩って、私たちも食べるのよ!」


やっぱり食い気か・・・。仕方がないので、エリルも連れていくことにする。


エリルを連れて行ったのは、結果的に大成功だった。何せ、魔物が出るなり問答無用でブッた斬るのだ。その殺気と威圧感で、魔物の方から接触を避けるのである。コイツもかなり強くなっているようだ。


MPを節約する必要があるので、結界の運用も最小限だ。もっとも、結界を活用することは全くなかったのだが。


森で一夜を明かし、朝から注意深く歩き続けること数時間。ついに俺たちは黄金鳥の群れと思われる小さな魔力が集まる場所に到達した。あとは黄金鳥の姿を確認するだけだ。


警戒心が強い鳥とのことなので、万全を期してちょっと遠目から群れを観察する。エリルと共に木に登り、千里鏡を使って覗いてみる。


・・・いた!黄金の嘴と羽を持つ鳥が何十羽と木々の間に犇めいている。しかし範囲が広い。これを結界に閉じ込めてしまうと、他の魔物も巻き込む可能性がある。さて、どうしたものか・・・。


思案に暮れていると、一羽の黄金鳥がこちらに向かって飛んでくる。どうやらエサを探しているらしい。注意深く森の中を見ている。


「黄金鳥よ!!早く捕まえましょう!リノスが風魔法で落として、その下で私が止めを刺すわ」


「静かにしてください。そんなことしたら群れに気づかれますよ」


むーんと頬を膨らますエリル。おお、ちょっと可愛い。


俺たちに気付くことなく黄金鳥は近づいてくる。エサに気を取られている間に、素早く黄金鳥に結界を張る。退避行動を取る時に結界に衝突して死なれては困るので、鳥の形きっちりに収まる結界を作る。そして鳴き声が漏れないよう、結界を厚くしていく。そのまま俺たちは木から降りて、黄金鳥を閉じ込めた結界を手元に引き寄せる。


逃げようと必死にもがく黄金鳥。しかし体が動かないのでどうすることもできない。俺は少しずつ結界を薄くしていく。すると、黄金鳥の鳴き声が聞こえ始めた。


「キェーッ!!キエエェェェェェェェェェェーッ!キキキェーーーーーーー!」


どうやら仲間に危機を知らせているらしい。これが群れに聞こえては不味い。俺は再び木に登り、群れを観察する。今のところ、群れに変化はない。まだ仲間が捕まったことを知らないようだ。


「ねぇ、この鳥どうするつもり?先に食べちゃう?それとも、この鳥に群れまで案内させる?」


「いや、逃げられたら追いかけられませんよ。私に考えがあります」


黄金鳥の魔力を探る。先ほどの飛んでいる時に纏っていた魔力とは違う。どうやら魔力の質を変えることで仲間に情報を伝えているらしい。そうであれば、仲間に、ここが良い場所、素晴らしい場所だという情報を伝えれば、仲間の黄金鳥が集まるのではないか?そう考えた俺は、結界の中を黄金鳥が、居心地のいい空間になるよう作り変えていく。


温度や匂い、明るさや音、様々な環境を変化させ、あらゆるパターンを試してみること3時間。ついに黄金鳥の鳴き声が変わった。


「ピーヨロロロロロロロー。ピピーヨロロロロロー。ピリリリリー」


よし、随分とリラックスしている。いや、リラックスしすぎているようにも見えるか。ともあれ、黄金鳥の「好み」は分かった。あとは仲間がこの声を聞いて飛んでくるかだ。


「お嬢様、黄金鳥の群れを呼びます。私がいいというまで、他の魔物が来たら撃退してください。お願いしますね?」


エリルは茫然と黄金鳥を見ている。結界の中でトロンとした目をしながら、嘴から涎を流しながら鳴き続けている黄金鳥にショックを受けているようだ。しばらくして俺の視線に気づいたエリルは、剣の柄に手を添えて臨戦態勢を取る。そして俺は、黄金鳥の結界を薄くして、鳴き声が遠くに響き渡るように調整をしていく。


結界内の黄金鳥が鳴き続けること数十分。ついに群れの一部が動いた。おそらく斥候部隊なのだろう。数羽の群れがこちらに向かって飛んでくる。そして、鳴き続けている黄金鳥の近くに降りてくる。その瞬間、俺はそれらの黄金鳥を素早く結界に閉じ込めて、鳴き続けている鳥と同じ環境を作る。しばらくするとこの黄金鳥たちも


「ピーヨロロロロロロロー。ピピーヨロロロロロー。ピリリリリー」


と鳴き始めた。数が多いのでかなりの音量だ。しばらくすると今度は、群れの大半がこちらに移動してるのが感じ取れた。こうなってはこちらは大忙しである。片っ端から結界に閉じ込めて環境を作る、という作業を繰り返していく。どのような結界を作るのかがわかってしまえばイメージがしやすい。ほぼ流れ作業だ。黄金鳥はまさか仲間が捕らえられているとは思わずに、気持ちよく鳴き続ける仲間を観察している間に、気が付けば自分も捕えられていく。そうして俺は、瞬く間に数百羽の黄金鳥を捕らえた。


さすがに群れを全滅させてしまうと、種の絶滅を招きかねないので、およそ100羽は逃がしてあげた。夢から覚めた黄金鳥は本当に一瞬でいなくなった。キラリと光ってスッと消える。そんな見事な逃走劇だった。


そしてエリルは捕らえた黄金鳥を早速試食し始めた。首を落とし、血を抜き、羽を毟る。ものの数分でそれを完了させ、俺に丸焼きを作るように催促してきた。言われるがまま俺は黄金鳥の丸焼きを作る。調味料は何もないのだが、食べてみるとマジで美味い。ジューシーで、濃厚な旨味が口いっぱいに広がり、いくらでも食べられた。俺とエリルは、黄金鳥の鳴き声の中、数十羽を瞬く間に平らげたのだった。しかも、嘴の中に金を含んでいる個体もあり、ゲットした金はありがたくいただくことにした。


結界に閉じ込めた大量の黄金鳥であるが、さしもの「無限収納」も生き物は収納できず、今回はこいつを使うことはできなかった。お蔭で俺は、数百羽の黄金鳥を運ぶハメになったのだ。鳴き声がうるさいので、眠らせる。その間にエリルは一旦屋敷に帰り、荷馬車を仕立てて戻り、黄金鳥を全て運び込むという離れ業をやってのけた。一度歩いた道は絶対に忘れない特技があるとはいえ、屋敷との往復、しかも森の中を荷台付きの馬で走るという悪条件にもかかわらず、わずか8時間で輸送を完了させたエリルを、俺は心から尊敬したのだった。


幻の鳥が数百羽も運び込まれたバーサーム家と王宮は大騒ぎとなり、俺は晩餐会まで黄金鳥の世話に四苦八苦することになる。


当然ながら、晩餐会は大成功に終わり、王太子殿下とバーサーム侯爵は、大いに自らの権威を高めることに成功したのだった。


ちなみに、王宮内において黄金鳥を調理する際に見つかった金については、その半分がバーサーム家に下賜された。そして、エルザ様は迷うことなくその全てを俺に下賜された。その数、112個。日本円にして約1億円である。12歳の奴隷であるにもかかわらず俺は、大金持ちになったのであった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] リノスめっちゃ有能だな エリルも脳筋で良いキャラ [一言] 登場人物たちの詳細な容姿の記述が欲しいところ そのあたりは書籍版で確認できるんだろうね
[一言] エリルがウザ過ぎるなぁ これが10代半ばのお嬢様なら可愛げがあるで済まされるけど、アラサーで警護の仕事すっぽかして食欲優先するって救いようがないでしょ
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