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結界師への転生  作者: 片岡直太郎
第五章 新・ジュカ王国編
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第百三十話  論功行賞

ヒーデータ帝国の宮城きゅうじょう 内にある、皇帝の私室。そこに5人の男たちが顔を揃えている。一人を除いて全員が眉間にしわを寄せている。


「ムチャクチャですよ、それ」


「そうかの?名案だと思ったのだがな」


俺はため息をつく。陛下から出された案があまりにも荒唐無稽な話だったからだ。


「宰相様はどう思われます?」


「うーん。前代未聞ではあるが・・・。名案と言えば名案ですな」


「そうであろう?」


「いやいや、やっぱりムチャクチャですよ!」


もう一人の参加者である北方軍軍団長のラファイエンスは、黙ったままニヒルな笑みを絶やさない。


ラマロンとの国境での戦いを終わらせてすぐに、俺とラファイエンスは陛下の下に戦況の報告に来ていた。そこに陛下は宰相閣下とヴァイラス殿下も呼ばれ、この5人での会議となったのだ。


話の内容は専ら論功行賞だった。こういうことは陛下たちで勝手に決めてくれればいいのだが、何故か俺とラファイエンスも同席させられて、従軍した連中の褒賞についての会議に巻き込まれていた。そして、そこで陛下の荒唐無稽な案が発表されて、俺は腰を抜かすほどに驚いているのだ。


「フム。まあ、ライッセンが率いる南方軍が帰還するまで、まだ間があろう。それまでゆるりと考えようではないか」


陛下はニヤリと笑みを浮かべている。


「ところでリノス殿。リコレットはどうしている?」


「リコ・・・レットですか?今はクルムファル領の管理をしていますが・・・」


「いやなに、余から少々相談があっての。近いうちにリコレットと話をしたいのだ」


「わかりました。いつがよろしいでしょうか?」


「早ければ早い方が良い。今日、これからでも構わん」


「今から・・・ですか?」


陛下はゆっくりと頷く。俺は驚きながらも取りあえず部屋を出て、クルムファルの館の執務室に転移する。幸いにして誰もおらず、リコ1人だった。さすがにいきなり現れた俺を見てリコは驚いている。


「・・・一体どうされたのです!?」


「すまんリコ。今から帝都に行くことは出来ないか?」


「どうしたのです?」


「さっき陛下にラマロンとの戦況報告に行ったんだ。そしたら陛下が、リコに相談したいことがあると言うんだ」


「まあ、兄上が?」


「今からでも相談できるなら、したいそうだ」


「兄上がそこまで急がれるとは・・・何かあるのですわね。わかりました。今から参ります。ちょっとお待ちくださいませ」


リコは部屋を出ていったかと思うと、すぐに部屋に帰ってきた。これから外出することを館の者に伝えてきたのだそうだ。


「ところで、戦況は・・・」


「ああ、問題ない。ラマロンは撤退したし、帝国軍も撤退中だ。一応、帝国軍の勝利だよ」


「まあ、それはよかったですわ!さあ、参りましょう」


俺たちは再び陛下の私室近くの場所に転移した。


「・・・リコレット、久しいの」


「陛下に置かれましては、ご機嫌も麗しゅう・・・」


「よい、固い挨拶は抜きじゃ。済まぬな、突然に呼び出して。忙しかったのであろう?」


「いえ、問題ございません。陛下のお召しとあればいつ何時でも」


「余とそなたの間柄だ。兄上でよい」


「はい・・・」


「済まぬがリコレットと相談がある。皆の者は席を外してもらいたい。二人にしてくれ」


「陛下、私もですか?」


「ヴァイラス、お前もだ」


「・・・畏まりました」


皆が部屋を後にする。俺は最後に部屋を出ようしていたところ、陛下に呼び止められる。


「話が終わればリコレットはすぐに帰す。よければここに転移結界を張っておくがよい」


「わかりました」


俺は屋敷に直通する転移結界を張る。当然、俺とリコ以外は発動しないようにする。いきなり陛下が屋敷に来られても困るしね。


「それでは、失礼します」


俺は転移結界に乗って、屋敷に帰った。


リコが屋敷に帰ってきたのは、夜もだいぶ遅くなってきてからだった。心配だった俺はメイやゴンと共にダイニングで待っていたのだが、リコは驚くほどに疲れていた。


「リコ、夕食は?」


「大丈夫ですわ」


フラフラとリコは離れに行ってしまった。俺はリコを追いかける。


部屋に入るなり、ベッドにバッタリと仰向けに倒れたリコは、ボーッとした表情をしている。こんな表情を見るのは初めてだ。


「リコ・・・大丈夫か?」


「大丈夫ですわ」


よろよろと起き上がったリコは、俺の胸に顔をうずめた。


「リノス・・・私のこと、好き?」


「大好きだよ」


「ずっと・・・ずっと・・・傍に居てくださいませ」


リコは泣いていた。俺は敢えて涙の理由は聞かなかった。そして、一晩中リコに腕枕をしてその背中を撫で続けた。


あくる朝、リコのキスで俺は目覚めた。まだ夜明け前で何事かと思ったが、リコは風呂に入りたいと言う。そういえば風呂に入っていないことを思い出し、一緒に朝風呂に入ることにした。


いつ見てもリコの肌は美しい。全ての動きが洗練されているので、風呂に入る姿も何か優雅な舞を見ているようだ。


「リノス・・・」


一緒に湯船につかっていると、不意にリコが話しかけてくる。


「これから先、私が年をとっても、老女になっても、ずっと傍に居てくださいますか?」


「もちろんだよ」


「年をとっても、腕枕をしてくださいますか?」


「リコとは死ぬまで離れるつもりない。リコが俺を嫌いになるまで、一緒にいる」


リコは俺に抱き着き、再び涙を流した。


風呂から上がり、朝食を食べる頃にはいつものリコに戻っていた。何か吹っ切れたようにキビキビと動いている。


朝食が終わると、リコから一通の手紙を渡される。陛下に渡してほしいのだそうだ。俺は何も言わずそれを受け取った。リコはいつもの通りかわいらしい笑顔を俺に投げかけて、クルムファルに転移していった。


俺は陛下の下に行き、リコの手紙を渡した。読み終わると陛下は、ふうとため息をつき、天を仰いだ。


「・・・一体どのような話をされたのか、伺っても?」


「いや、あくまで余の個人的な相談なのだ。事が動くまで何とも言えん」


「それは・・・いい話なのでしょうか?」


「それも何とも言えんのだ」


俺は釈然としない気持ちを押し殺して、部屋を退出した。


陛下の部屋を退出した俺は、その足で帝都ホテルに向かった。そしてそこに捕虜となっているサイリュースのソレイユたちに、ラマロンとの戦闘が一旦終了したことを伝えた。彼女たちは俺に丁寧に礼を言い、近いうちにぜひジュカにある集落に来てほしいと何度も頼まれた。あそこに行くにはまた、賢者・リノスにならないといけないのだが、それはまた後で考えるとしよう。


彼女たちは名残惜しそうに、荷物をまとめて帝都ホテルを引き払った。何故か大量の荷物を持って転移していったが、あれはいつ買ったのか・・・?まあ、詮索することはよしておこう。ちなみに、彼女たちの滞在費は俺が全て支払った。とりあえず、請求された金額を見て、二度ほど数字を数えたことだけは特記しておく。さすがは一流ホテル、である。


国境地帯に遠征していた南方軍が帰還するまでの一週間。俺はジュカの国を飛び回った。再びラマロンの侵攻の懸念があったので、サダキチらフェアリードラゴンたちに斥候に出てもらっていたが、特に大きな動きはなかった。


その間、宰相閣下と俺の論功行賞について話をしたが、俺に望みはなく、宰相閣下に一任することにした。とにかく俺は、平和に暮らしたいのだ。今の家族と今の暮らしができれば十分なのだと宰相閣下に伝え、陛下の荒唐無稽な話に乗らないようにと釘を刺した。宰相閣下も俺のよいようにすると返答してくれたので、この話はこれで打ち切ることにした。


帝国軍の凱旋が行われてから五日後、早くも論功行賞の発表を兼ねた、陛下主催の晩餐会が行われた。煌びやかな衣装を纏った貴婦人たちや、体中にイヤというほど勲章をぶら下げた軍人たちの中、俺もリコも正装してそこに列席した。


やはり、全力で着飾ったリコは周囲を圧倒するほどの美しさだ。リコが通ると必ず男性は振り返る。夫として何とも鼻が高い。


陛下との会談以来、リコは前にも増して俺を求めるようになった。それと比例してか、最近リコの美しさに磨きがかかったようにも感じる。ちなみに、リコのドレスに隠れた部分には俺のキスマークがついているのは、誰も知らない秘密だ。


貴族同士の社交辞令満載の挨拶が、ある程度終わった頃を見計らって陛下が登場し、晩餐会が始まった。


そしてその最中に、ラマロン皇国との戦勝報告がなされ、いよいよ論功行賞が宰相閣下より発表された。


基本的に兵士を出した貴族の家には報奨金が下賜され、功績のあった家には、報奨金の他に陛下から感状が授けられた。さらに、将官クラスには階級の昇進が告げられていく。


「さて、これから先の勲一等の功績を上げたものについては、陛下が直接褒賞を授けられる」


会場中が緊張に包まれる中、陛下がおもむろに玉座から立ち上がる。


「この度の戦功、朕は大いに満足である。中でも十万余の南方方面軍を率い、ラマロン皇国の侵略を阻止しただけでなく、敵に甚大な被害を与え、なおかつ味方の損害を最小限に抑えた、類まれなる指揮能力を発揮した、ライッセン・フレイラップ将軍と、わずか数百の軍勢でジュカ王国の王都を陥落させ、敵部隊を壊滅せしめた、バーサーム・ダーケ・リノス名誉侯爵の軍功は、特に帝国をして、その名声と国威向上に多大なる功績であると認むる。よって、両名は勲一等の功績があると認め、朕より特に褒賞を与える」


俺とライッセンは促されて陛下の前に出る。ライッセンは意気揚々と鼻の穴を膨らませている。


「ライッセン・フレイラップ将軍。その方には、勲一等ニヒキ勲章を授与し、元帥の称号を与える。さらに、終身現役武官としての待遇を行う。そして、その指揮能力の高さを認め、現在の帝国南方方面軍軍団長の任を解き、新たに帝国北方方面軍軍団長に任ずる」


「つ、つ、謹んで、お、お、お、お受けいたします」


ライッセンはよほど嬉しいのか、どもりながらもお辞儀をし、張っていた胸をさらに張って、背中を反り返らせた。あれ、腰を傷めないか?


「そして、バーサーム・ダーケ・リノス名誉侯爵。その方に、勲一等ニヒキ勲章を授与し、ジュカ王国の旧領を与え、新たなる国を建国することを許す。それに伴い、国王の称号を名乗ることを許す」


会場中がものすごい騒めきに包まれる。俺は口をあんぐり開けたまま呆然とする。いやいや、陛下の元の案のままですやん。何も変わっていませんやん。話が違いますやん・・・。


「新しき国を建国するに際しては、帝国の人材を活用することを許す。朕からは、国家の柱石たる宰相と軍総司令官には、余の妹にして、そなたの妻である、ヒーデータ・シュア・リコレットと、元帝国北方方面軍軍団長の、ラファイエンス・オーグ将軍を推挙しておく」


会場内がさらにざわついている。リコとラファイエンス?聞いてないよ・・・?目の前が・・・真っ暗だ。

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