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結界師への転生  作者: 片岡直太郎
第五章 新・ジュカ王国編
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第百二十六話 プライドが邪魔をする

リコから新品の下着を借りたマトカルが席についたのを確認して、俺たちは夕食を食べ始める。いつものように、ワイワイガヤガヤとした食事風景だ。しかし、マトカルの喰いっぷりはよくない。


「マトカル、遠慮するなよ?食え食え」


マトカルは目をキョロキョロとさせている。


「・・・この家の食事は、騒々しいのだな」


「うん?皆でにぎやかに食った方が美味くないか?」


「リノス、大抵の貴族の家では、食事は静かに食べるものですわ。侯爵家でパーティでもないのに、にぎやかに食事をしているのは、我が家くらいのものですわ」


リコがフォローを入れてくれる。


「そうか?じゃあ、静かに食べるか?」


「いいえ。これはこれでいいものです。最初はちょっと驚きましたが、慣れれば皆で食べたほうが、私は好きですわ」


「と、いうことだ」


「まさか、敗軍の将が敵軍の将の屋敷に呼ばれて、このように歓待されるとは・・・前代未聞だ」


「歓待?ただ、メシ食っていけって言ってるだけじゃねぇか」


「いや・・・そうはいっても・・・」


「固いこと言うな。ほらぁ、お前がヘンなこと言うから、から揚げ無くなってるじゃねぇか!」


「私のせいでは・・・」


「大丈夫です。まだありますから。マトカルさんもどんどん食べてくださいね」


そんなこんなで夕食は終了し、俺はリコと共にマトカルをジュカに送り届けた。



数日後、ヒーデータ帝国の国境地帯に布陣していたラマロン軍に、ある一報が届いた。


「何?ジュカ王都の帝国軍が南下しているというのか?」


「だ・・・大魔王の軍が動き始めたのでしょうか?」


「そうなれば・・・我らも・・・」


「ええい!我らがそのようにうろたえてどうします!」


気後れする将兵たちに一喝を入れたのは、第三軍を統括するアーモンド軍団長だ。


「たとえ大魔王と言え、我ら皇国軍が総出でかかれば、引けを取るものではありません!それよりもまず、眼前の敵を叩かねば!」


「アーモンド、待て」


言葉を挟んだのは、総司令官のカリエス将軍である。


「大魔王の軍勢がいかなるものかを見分けなければ、味方の被害が拡大することもありうる。斥候を放ち、よくよく奴らの力量を測らねばならない」


「将軍はいつもそうです!そのようにのんびりしておっては、兵の士気にかかわります!」


アーモンドは腹の底から怒っていた。なぜ、目の前の敵を打ち破って、さっさと皇国に凱旋しないのかと。


皇国最精鋭のマトカル部隊がジュカを落とした後、ヒーデータから10数万の軍勢が国境付近に押し出してきた。それはいい。当初の予想通りの展開だったからだ。皇国はすぐさまカリエスを総司令官として10万の軍勢を差し向けた。


元々、国境に差し向けていた5万の軍勢を合わせて15万の軍勢となったラマロン軍は、国境であるイルベジ川を挟み、ヒーデータ軍と睨み合う形で布陣を完了した。イルベジ川は山間の川であり、帝国と皇国の両軍が川を挟んだ山の中に布陣し合うという、山岳戦の様相を呈していた。


ラマロンは、軍勢の中から1万を援軍としてジュカに差し向ける予定であった。そこに届いたのが、マトカル部隊の壊滅と大魔王復活の報である。すぐさまカリエスはこれからの作戦の凍結を決定し、戦線は膠着状態になっていた。


アーモンド以下、従う幕僚たちの思いは一つである。一旦、兵を皇都まで引くべきであると。しかし、そのためには、目の前のヒーデータ軍が邪魔である。大魔王の対応と相まって、ここ数日は何度も軍議を重ねているが、有効な策は出てこない。


アーモンドは焦っていた。今、皇国が布陣している場所は、ヒーデータとジュカの二つの国境が接する場所なのだ。ここにジュカから大魔王の軍勢が現れると、ラマロン軍は囲まれる形になる。そうなれば、どう考えても皇国が不利になる。


総司令官のカリエスとしても、何も手を打たなかったわけではない。大魔王復活の情報をヒーデータ側にも流し、魔王軍に対抗するため停戦を打診したこともあった。しかし帝国側はその使者を鼻で笑い、大魔王はいないとさえ言い切り、提案は破談となったのである。


もっともそれは、皇国側の高圧的な物言いによる、売り言葉に買い言葉のような形となってしまったものであり、実情としては、ヒーデータ側も早く撤退したいという思いは同じであった。


「・・・しかし、ラマロンは動かんな」


ヒーデータ帝国の南方軍司令官、ライッセンは幕僚たちに呟く。


「数の上ではあちらが上。しかし、バーサーム名誉侯爵がジュカの王都を落としています。今少し待てば、ヤツらも撤退すると思うのですが・・・」


「大魔王が復活してここに攻めてくるから、先に国に引けなどと・・・そのような話を受けて撤退しては、我らは後々まで嘲りを受けることになる」


「早く撤退すれば、我々も撤退できますのに」


「うむ。しかし、奴らのことだ。我らに向かって突撃してくるかもしれんし、背後に回り込もうとするかもしれん。警備を厳重にしろ」


こうして、両軍双方が相手方の出方を待つ姿勢を取っているため、戦線は膠着状態が続いていたのである。



「・・・ということだ」


「膠着状態か・・・」


俺は王都の北門の隣にある兵舎の一室で、老将軍とクノゲンとでお茶を飲んでいる。


ラファイエンスと共に南方の地に救援物資を届けに行って3日、帝国軍とラマロンが睨み合っている国境がこの近くにあると聞いて俺は、一足先にイリモに乗って空から戦線を観察した。そこは戦いが行われた形跡はなく、両軍、川を挟んで睨み合っていただけだった。


「これって、誰かが仲裁に入った方がいいんじゃないでしょうかね。俺が行ってみましょうか?」


「いや、リノス殿が間に入っては話がややこしくなる。仮にも貴殿は皇帝陛下の義弟と言う身分だ。仲裁に入るのであれば、ヒーデータとラマロンにあまりかかわりのない人間でないといかん」


「そういうもんですかねー?」


「察するところ双方、引くに引けぬ状況なのだろうな。どちらかが撤退すれば撤退するであろうが、双方国のメンツがかかっておるので、おいそれと撤退できぬのだろう」


「下らないですね」


「まあ、そう言うな。戦略的に見ても、山岳での撤退戦はかなり入念に準備せねば甚大な損害を被ることもある。撤退の最中に攻撃されないという保証はないからな。それができる人間と言うのであれば、クノゲンならできそうだな?」


「私では無理ですよ、将軍」


「お前ならどう撤退する?」


「うーん。さも帝国軍が山にいるかのように装い、夜陰に紛れて撤退しますね」


「なるほど。しかし、それでは敵前逃亡をしたとラマロンから嘲りを受けぬか?」


「そんな奴らは放っておけばよいのです。むしろ、一夜にして華麗に撤退したほうが、帝国軍の練度の高さを証明することにはなりませんか?」


「・・・クノゲンは前向きだな。私はその考えは嫌いではない。しかし、南方軍にそこまでの練度はあるだろうか。夜中、物音ひとつ立てずに山から撤退していくのだ。それができれば確かに称賛ものだが、なかなか難しいな。私の親衛隊でも・・・どうかな?」


フフフと老将軍は笑う。


「では将軍、あなた様でしたら、どうなさいます?」


「うむ、私か。私ならば・・・敵にある程度の損害を与え、反撃の目を摘んだ後、撤退をしたいところだが・・・。すまん、その損害をどう与えてよいのか、私にも思いつかん。おそらく最終的に私も、クノゲンのような作戦を採るだろうな」


「むしろ、敵さんにこの策を教えてやれば、逆に撤退するかもしれませんよ?」


「そうかもしれんな、ハハハハハ」


二人は豪快に笑う。


「しかし、だ。このままでは兵士たちが疲弊する。その前に何らかの手を打つ必要があるのは確かだ」


老将軍が真面目な顔をして言う。俺はじっと腕を組みながら、考える。どうすれば一番被害が少なく、両軍を撤退させることができるか・・・。


「一つ、策を思いついた。成功するかどうかわからないが・・・」


俺は二人に思い付いた作戦の内容を話す。


「面白い!それはやってみる価値はあるぞ!さすがはリノス殿だ。前代未聞だな、それは」


「では、私は早速準備に入りましょうか?」


「クノゲン、早速準備に入れ。急いだ方がいい」


「あの、ラファイエンス将軍、これはあくまで案なのですが・・・」


「いや、十分だ。私がライッセンに手紙を書いてやる。いや、陛下から勅命をいただいた方が良いかな?」


俺を完全に無視して老将軍は嬉々として根回しを考え始めた。


「いやぁ、長生きはするものだな。まさか、こんな面白い作戦が立てられるとは。これは、面白そうだ。面白そうだ。フフフフフ」


・・・やっぱりこの爺さんは、戦闘狂かもしれない。

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