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結界師への転生  作者: 片岡直太郎
第五章 新・ジュカ王国編
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第百二十四話 おいしいところを持っていかれる

兵士たちの談笑を耳にした市民たちが、少しずつ姿を見せ始める。それを見たクノゲンが、


「みなさん、もう大丈夫ですよ。済みましたから」


と、気軽に答える。皆一様にホッとした表情を浮かべる。他の人々にも伝えてほしいとお願いすると、蜘蛛の子を散らすようにいなくなった。


「襲ってきた敵は一体誰だったんですか?その騎士たちは・・・」


話しかけてきたのは、王都民の集まりの中で代表格になりつつあるドーキという壮年の男だ。


「敵についてはこれから調べる。この騎士たちはヒーデータ帝国の騎士たちだ。彼らの助勢なくしては、この完全勝利はなかった」


「・・・この王都をお守りいただき、感謝いたします」


「礼なら、あそこにいるラファイエンス将軍に言ってくれ。あのお方の采配で勝てたようなものだ」


ドーキはラファイエンスの下に行き、丁寧に礼を言っている。老将軍は大テレに照れながら手を振っている。割かし、照れ屋でもあるのかもしれない。



怪我人の治癒も終わったところで、フェリスとルアラには炊き出しを命じ、俺たちは捕虜の尋問に向かう。場所は、王国軍本部のあった建物だ。ちなみに、マトカル一行もここに軟禁されている。


建物に入ると、手を後ろ手に縛られた男たち5人が跪いている。その中の一人が俺の姿を見て声を上げる。


「おい貴様ぁ!何をしている!頭が高いだろう!跪け!跪かんかぁ!」


予想外の言葉をかけられたので、思わずキョトンとなる。


「言葉が分からんのかぁ貴様!礼を知らん無礼者めが!大人しく跪けぇ!!」


「・・・何だコイツは?自己紹介をしているのか?」


「・・・リノスぅぅぅ。よもや、私を見忘れたわけではあるまい!私に対して、無礼であろうがぁ!」


「・・・ごめん。誰?」


「私だぁ!忘れたとは言わさんぞ!」


「・・・ありとあらゆる方向から考えてみたが・・・俺の記憶にはない」


「大馬鹿者ぉ!シゲア・ブリアン様だ!ブリアン様だぞ!」


「ブリアン?」


俺はしばし考える。


「シゲアって言ったな?もしかしてカルギの一族か何かか?」


「シゲア・カルギ元帥の息子だ!王宮警備隊長をしておっただろうがァ!」


「・・・そういえば、そんなイカついオッサンがいたな。あれ、お前だったっけ?ごめん、あんまり覚えてないや」


ぐぬぬぬぬ・・・とブリアンは歯ぎしりをしている。


「で、ブリアンとやら。王都を襲ったのは何故だ?」


「奴隷の分際で何という口の利き方をする!立場をわきまえんか!」


「・・・貴公、いかんな」


ラファイエンスが、甘いバリトンボイスで割って入る。


「こちらのお方は、バーサーム・ダーケ・リノス殿だ。ヒーデータ帝国皇帝の義弟にして、帝国侯爵のお方でありますぞ?以前の身分はいざ知らず、現在は帝国皇帝陛下のご一族に繋がるお方。貴公は今、捕虜である。お父上のカルギ元帥の御名は我らも存じている程の名将だ。そのような態度は、お父上の名声を傷つけますぞ?貴公が吐かれている言葉はそのまま、貴公に当てはまりますぞ?」


落ち着いた、しかし、一言一言に重みと迫力のあるラファイエンスがこの場の空気を圧倒する。ブリアンは歯が割れるのではないかと思うくらいに、歯を食いしばっている。


「・・・貴様は、何者だ」


「私は、ヒーデータ帝国北方軍団長、ラファイエンス・オーグと言う」


「まさか、名将、ラファイエンス・・・」


ニヤリと老将軍は笑う。この爺さん、いちいちカッコイイ。


「さて、お前たち全員に聞く。この王都を襲った理由は一体何だ?返答によっては今後の対応を考えてやってもいい」


しばらくの沈黙が続く。


「・・・さらわれた娘を・・・取り戻しに来た」


「何?」


「ラマロンの軍勢は、我らの領地から食料と女を奪っていった。食料はいい。作ればまた手に入る。しかし、家族は・・・」


「なるほどな」


詳しく話を聞いていくと、ブリアン以外の4人はいずれも、ジュカ王国貴族に仕えていた人々であり、彼らが雇っていた傭兵団の団長だった。王国が崩壊した後、内乱状態になった王国で、いち早く領内をまとめ、これまでその領土を守ってきた者たちだった。雇い主の貴族は、ある者は逃亡し、ある者は領土にとどまりながらも邪魔ばかりする厄介者となり、ある者は、軟禁状態なのだという。


内乱状態からようやく脱却しつつあり、領内も落ち着き始めたその時に、ラマロン軍が侵攻してきた。彼らはほぼ、問答無用で食料を略奪し、領民を殺し、女たちを攫っていった。圧倒的な軍事力の前になす術もなく蹂躙された彼らだったが、そのラマロン軍が壊滅したと聞いて、すぐさま行動を起こそうとした。そこに付け込んだのがブリアンだった。


ヤツは領主たちをそそのかし、連合軍を組織して王都の掌握を狙ったのだ。しかし、全く統率が取れていない軍であったため、作戦も何もあったものではなかった。結果的に彼らは獲物を見つけた獣のように、王都に殺到し、俺たちに易々と返り討ちにあったという次第だ。


「まあ、この戦いの最大の敗因はブリアン、お前の統率力のなさだな」


「おかしいと思ったのです。斥候を出すわけでもなく、王都を包囲するわけでもなく、政治的な策略を仕掛けてくるわけでもなかったですからな。なるほど、烏合の衆ならば、愚かな突撃作戦になってもおかしくないでしょうな」


「まあいいだろう。ブリアン以外のヤツらは縄を解いてやれ。攫われた娘たちを連れて帰るといい。そして、食料も持って帰らせてやれ。あと、炊き出しももうすぐ始まるだろうから、飯を食って帰れ。クノゲン、任せてもいいか?」


「ええ、お任せください」


縄を解かれた4人の捕虜たちは、俺たちに一礼をして、その場を去っていった。


「さてブリアン。お前はこれまで、盗賊と変わらないことをしてきたな?」


俺は既にブリアンの鑑定を完了していた。


「・・・」


「王国が滅んでから、領内をまとめたのはいい。しかし、その周辺の領地に侵攻してはダメだろう。ジュカの内乱はお前が起こしたと言っても過言ではない。お前はラマロンのフルチン野郎と同様、しばらく頭を冷やせ」


ブリアンは俺たちにものすごい憎悪の眼差しを向けたまま、引き立てられていった。


「ラマロンと言えば、精鋭部隊の隊長が捕らわれていると聞くが?」


不意にラファイエンスが口を開く。


「ええ、この上の部屋で軟禁しています」


「一度、話をしてみたいな」


「と、仰ると?」


「わずか3000、装備が充実していたとはいえ、ジュカ王国の王都をこの短期間で陥落させたのは、かなりの優れた指揮官だと思うのだ。敵であろうと、こうした優秀な者との会話は、自分自身を成長させる。リノス殿、迷惑になるようなことはせぬから、会わせてもらえまいか?」


「はあ・・・」


これだけキラキラした目で言われてしまっては、嫌とは言えない。俺はラファイエンスを伴って階段を上がり、マトカルたちの部屋に案内する。


「戦いはどうなったのだ?」


俺の姿を見るなり、マトカルが話しかけてくる。彼女は男物の冒険者風の服を身に付けている。一見すると、そこいらにいる若いアンちゃんのようだ。


「ああ、一人の死者も出すこともなく、問題なく排除できた」


「また、一人の死者も出さずに・・・どうなっているのだ、貴様らの軍は?」


「いや、今回は俺たちではなく、ここにいるラファイエンス将軍の援軍のおかげだ」


「ヒーデータ帝国のラファイエンスだ」


甘いおじさまボイスが耳に心地いい。


「こちらが、ラマロン軍の司令官、マトカルです」


「ほう、かなり若いのだな。この若さで3000の軍を率い、ジュカの王都を陥落せしめるとは、なかなかのものだ」


マトカルは俯いている。


「リノス殿、マトカル殿の処遇は如何になされる?」


「まだ考えておりません」


「ならば命は取らず、このまま生かしておくがよかろう」


「と言うと?」


「これだけの将器のある軍人、しかも若者だ。この命を奪うのは惜しい」


「私の一存では決めかねますので・・・」


「まあ、それはそうだ。マトカル殿の処遇は私からも陛下に相談してみよう」


「私に対して、情けは無用です!」


毅然とマトカルが言い放つ。


「まあ、そう仰るな。私とて、貴殿の身分を保証できるものではない。その話はまた後にしよう。そういえば腹が減らぬか?ここの食事は美味しいと聞く。私もそれを愉しみに来たのだ。よければ、メシなど食いながらよもやま話などしようではないか」


さりげなくラファイエンスは腰の剣を俺に預け、目配せをした。俺は剣を持って部屋の外に出て、炊き出しを取りに、北門付近の王侯軍兵舎内に設置してある転移場所に転移した。


マトカルたちの炊き出しを手に、再び部屋の前に転移する。すると扉の中から女たちの笑い声が聞こえてきた。


「うふふ、いやですわ、将軍様」


「いやいや、私も若い頃は捨てたものではなかったのだぞ?」


「それでも・・・イヤですわ。アハハハハ」


俺はそっと扉を開ける。声をかけるのが憚られるほど、会話が盛り上がっている。俺は傍にあった小さな机の上に食事を置く。それを察してラファイエンスはゆっくりと振り返り、俺を見てウインクを投げた。テーブルに掛けた女たち、マトカルの顔でさえも笑みがこぼれている。俺は静かに一礼をして、部屋を出た。


「でも、将軍様・・・」


「いやいや、これから私のことは将軍様ではなく、オジサマと呼んでおくれ」


「わかりましたわ、オジサマ」


女たちの笑い声が部屋から漏れだしてきた。


何とも言えぬ思いを胸に建物の外に出た俺は、そこで繰り広げられた光景に目を見張った。何と、ラファイエス部隊の兵士たちが、王都の女性たちに囲まれているのだ。よくよく見ると、兵士たちは皆、イケメン揃いだった。


「やっぱり世の中、イケメンなんだな。なーんか、全部、ラファイエンスたちに持っていかれたなー」


無性に、リコとメイが恋しくなった。

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