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結界師への転生  作者: 片岡直太郎
第五章 新・ジュカ王国編
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第百二十話  ひきこもり女、出て・・・来ちゃった

「ご主人様、この森の土を調べたのですが、ここの土はダメです」


メイが何とも言えない顔をして帰ってきた。


「どうしたんだ?」


「ここの土は細かいのに加えて、ジメジメしています。それに団子状になっている部分も多いので、これでは作物は育ちません」


「何とか手はないのか?」


「そうですね・・・方法はなくはないのですが、森の木々を伐採する必要があります」


「それは・・・絶対に出来ぬことです」


後ろからヴィヴァルたちサイリュースが帰ってきた。再びリコの手に力が入る。


「そんなことをすれば我らを守りし森と森の精霊の怒りを買います。我らは森の木々を切り倒す時には、精霊を通じて木たちに相談をするという条件でこの地に留まらせていただいています」


「う~ん、難しそうだな」


「この土の水分が無くなれば、耕作を行うことができます。あとは排水がうまくできれば、問題なく耕作ができるのですが・・・」


「俺が毎回土魔法で耕すというのも、非効率的だからな・・・」


「イリサルが悪いのです。あの者が精霊をうまく扱えないからですわ」


俺とメイが悩んでいるところに、サイリュースの一人が声を上げる。


「お黙りなさい、サキトラ。イリサルを責めてはなりません」


ヴィヴァルが窘める。


「イリサル?」


「我が一族の中で唯一土精霊と契約できる者です。ラマロンでは問題なく土精霊と契約で来ていたのですが、こちらでは契約はできても、なかなかうまく使役できていないのです」


「なるほど。で、そのイリサルさんは・・・」


ヴィヴアルは俯く。そして、申し訳なさそうに


「イリサルは・・・自分の不甲斐なさに絶望して、家に閉じこもっているのです」


どうやらここにもひきこもりがいるらしい。


「イリサルが土精霊を使役していたころは何とか作物も採れたのですが、今では全く実らなくなってしまったのです」


「なるほど。それで俺のところに・・・」


取りあえずイリサルの家に行ってみることになった。彼女の家は木の中だという。


「この、すでに枯れた大木の中でイリサルは暮らしています。ここ数ヶ月は全く姿を見せません。元々好奇心の強い子で優秀だったのですが、こんなことになるとは・・・。族長として責任を感じております」


そういうとヴィヴアルは、枯れた大木の下に行き、腰を折って座った。どうやらあそこが家の入口のようだ。


「イリサル。バーサーム様がいらして下さいました。あなたの助けになると思います。一度、お話ししてみてはいかがですか?イリサル?イリサル?」


木の中からは全く反応がない。完全なるひきこもりがいるようだ。


「バーサーム様、本当に申し訳ございません。私の育て方が至らぬばかりに・・・」


「いえ、族長さまの育て方は関係ないと思いますよ?」


「と、おっしゃいますと?」


「う~ん。上手く言えないですけど、持っていき方次第だと思うんですが・・・」


俺はズカズカとイリサルの住まいに進む。よく見ると、小さなドアが見える。どうやらここが入り口で間違いなさそうだ。


「え~オホン。折角ですから皆さんに、一つ昔ばなしをお話ししましょう!」


俺はあえて大声を出して喋る。サイリュースたちは呆気にとられている。



むか~しむか~し、ある所におじいさんとおばあさんが住んでいました。おじいさんは山に柴刈りに行き、お婆さんは川に洗濯に行きました。おばあさんが川で洗濯をしていると川上の方から大きなモモがどんぶらこ~どんぶらこ~と流れてきました。おばあさんはそれを見て大喜び。早速家に持って帰ったのでした。


家に戻ったおじいさんは大きなモモを見てビックリ!


「おお婆さん、何と大きなモモじゃ」


「川で拾ったんですよ、おじいさん。二人で食べましょう」


おばあさんが台所から大きな包丁を持ってきて、桃を切ろうとしたその時、


「ばあさん、待て。・・・お前、ばあさんではないね?・・・誰だえ?」


「フッ、フフフフフフフフフ・・・流石は『疾風の権蔵』、騙されぬか。しかし、雉も鳴かずば撃たれまいに!!!」


おばあさんの体がドンドン大きくなっていきます!何とおばあさんが巨大な鬼になったではありませんか!ど~なるおじいさん!!!


続く!to be continued!!



「・・・さて、この続きは、あちらで申し上げることにしましょう」


スタスタと俺は歩き出す。


「待て!待って!!」


振り返ると、大木の幹から、かわいらしいサイリュースが顔を出していた。


「おじいさんは、どうなったの~~~!!!」



「・・・お前がイリサルか?」


「・・・おじいさんは?」


女は木の幹の穴から顔だけを出している。


「俺の質問に答えたら、教えてやる」


「・・・」


「土の精霊が言うことを聞いてくれねぇのか?」


プイッと女はそっぽを向く。


「まあ、そうだとしたら、気持ちはわかる。俺もあった。どれだけ誠意を尽くし、どれだけ説明しても言うこと聞いてくれないヤツがな。そんな奴と話するのは疲れるわな」


女に反応はない。


「そんな奴とは付き合わないって選択肢があるぞ?他の土の精霊いないのかよ?」


「・・・ノームだから無理」


「ノーム?」


ヴィヴアルに言わせると、ノームは土の精霊の中でも最上位の精霊なのだそうだ。


「ほう、そんな最上位の精霊を従えるなんざ、えれぇじゃねぇか。お前さんすごいじゃないの」


「・・・ヘタクソとかバカとか言われた」


「そうか~一生懸命やってんのに、それ言われたらキツイわな。一生懸命やってるけど、バカだなんだと言われるとヘコむよな~俺もあったあった」


俺はファルコ師匠との修行のことを話してやる。


「で、お前さんはおそらく、この一族に負い目を感じているんだろう?」


再び女は俯く。


「優しいな。お前さんは」


「優しい?」


「優しいじゃないの~。一族のことを考えて頑張って頑張って頑張ったんだ。それで自分が不甲斐ないと思ったんだろ?族長様たちがやさしい言葉をかけてくれたけれど、それも負い目になったたんじゃないか?そこまで自分の責任としてしょい込めるのは、優しい証拠だわな」


「・・・」


「もしかして、土の精霊とこれからうまくやっていく自信がないんじゃないのか?」


ギクッとした表情を女は浮かべる。


「だよなぁ。わかるわかる。不安だわな。でもな、その不安が無くなる方法があるんだが・・・聞く?」


女はしばらく考えた後、コックリと頷いた。


「以前な、色々なことを考えすぎて不安に苛まれている人がいた。その人もすごく優しい人だった。まあ、心が繊細だったんだな。優しくて繊細な分、不安を感じやすかったんだ。で、その不安に負けていたんだ。その人はな、ひたすら自分に「強気で行くんだ」って声をかけたんだ。するとどうだ、今はとても強気になって、不安に苛まれることが無くなったんだ。優しさと強さを兼ね備えた、すばらしい人物になってるんだ」


女はキョトンとした顔で俺を見ている。


「お前さんは優しい。だけど、不安に負けてしまう弱さがある。強い言葉を言い続ければ強くなれるもんなんだよ。まあ、俺の言うことは絶対じゃない。別に俺の言うことが受け入れられなくても構わない。お前さんの信じる道を行けばいい。まあ、参考になればいいってところかな」


俺はヴィヴアルの方に振り返る。


「族長様。彼女がひきこもったのは、族長さまのせいではありません。この人と土の精霊が合わなかっただけです。きっとこの人に合う精霊があるんじゃないですか?その精霊を操らせてみてはどうでしょう」


「たっ、確かにイリサルは火の精霊も操れますが・・・」


「ならば一度、火の精霊を本格的に操らせてみてはどうでしょう?よければそれでよし、ダメならば別の手を考えればいいのです。彼女は今の精霊との仕事はとてもつまらないものだと思いますよ?それを敢えてやらせるのは、彼女にとって負担以外の何物でもありません。誰か、土の精霊を操れる者はいないのですか?」


「・・・それは・・・何とも」


「ご主人様・・・」


メイが申し訳なさそうに話しかけてくる。


「一度、私にその土の精霊と話をさせてもらえないでしょうか?」


「どうしたんだメイ?」


「ええ、一つ提案がありまして・・・。土の精霊の協力が得られないかと思ったんです」


「おい、イリサル。俺の嫁と土の精霊と話をさせることは出来るか?」


「たぶん、無理だと思う」


「何でだ?」


「土の精霊は、私を嫌ってる。二度とお前の下には現れないと言われたから」


うーん、打つ手なし・・・か?


頭を悩ませる俺の後ろで、サイリュースたちがひそひそと話をしている。不覚にも俺は、それに気が付かなかった。


「・・・半年近くも誰とも話さなかったイリサルと、いとも簡単に話をするなんて・・・」


「ええ、かなり優秀な人物ですわ」


「ならば、合格、ですね」


「あの計画を早めてもいいんじゃないかしら?」


「そうね。無理してでもこれは、急いだほうがいいかもね」


数名のサイリュースが含み笑いを浮かべていた・・・。

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