第百十九話 反則的エロとの闘い
豪華なシャンデリアが吊るされ、フカフカのソファーが置かれた応接室。そのテーブルの上に美味しそうなクッキーがあり、その横には温かい紅茶が入れられている。
ヒーデータ帝国の最高級ホテル、帝都ホテルのスィートルームの応接室に、俺とリコは来ていた。さすがにスィートルームだけあって、クッキーも紅茶も一級品の味わいだ。このところ忙しい日々を過ごしていたので、こういう甘味は体の疲れを癒してくれる。
「お待たせしました」
いそいそと現れたのは、サイリュースのソレイユとアステスだ。二人ともいつものようにエロい格好である。突然訪問したため、二人とも慌てて準備をしたのだろう、アステスの衣服に乱れが見える。そんな様子を微笑ましく思いながら、俺はゆっくりと口を開く。
「突然に訪問しまして申し訳ありません」
「一体どうされたのでしょうか?」
ソレイユは精いっぱい余裕を見せようとするが、緊張の面持ちは隠せない。
「陛下に報告ごとがあったので帝都に参りました。本当は明日来ようと思っていたのですが、思った以上に報告が早く済んでしまいましてね。折角ですので本日伺った次第です。ソレイユさんたちには、報告が一つと、お願いが一つあります。」
二人は同時にごくりと唾を飲み込んでいる。
「まず、報告ですが、ジュカ王国の王都を陥落させました」
「ふぇいあ?」
ソレイユが声にならない声を上げる。思わず顔が真っ赤になっている。そんなソレイユを横目に、アステスが身を乗り出してくる。
「こ・・・侯爵様。我々がお願いに上がってから、二週間ほどになりますが・・・。どういうことでしょう?」
「ええ、俺が一軍を率いて王都を陥落させました」
「皇国最強のマトカル様が率いた軍を撃破されたのですか?」
「ええ。マトカルとその近習の女性たち、結界師2名、と魔術師3名は我々の捕虜になりました」
「リノス、あと一人いますわ」
「ああ、そうだったな。フルチン・・・いや、副団長のレイリックも捕虜にしました」
余りに衝撃的過ぎたのか、二人は口をあんぐりと開けたまま呆然としている。だめよ、女の子が口開けたままってのは。ソレイユがパクパクと口を動かしながら声を振り絞る。
「そ・・・それでは、お味方にも相当の被害が出たのでしょうね」
「いえ、皆無です」
「は?」
「我々の手勢300名は一人の死者も出すことなく作戦を完了させました。ちなみに、ラマロン側の被害は、総数3019名のうち、死亡3011名、捕虜7名、逃亡1名です」
またしても二人はあんぐりと口を開けたまま動かなくなった。ま、そりゃそうだよね。まさか最強と信じていた部隊が、わずか300の部隊に完封されるなんてことは、普通はありえないよね。
「話を続けますね?もう一つのお願いというのは、サイリュースの里に我々を案内してほしいのです」
ルノアの森でのサイリュースの里の位置は大体つかめていた。しかし、何度行っても里は見当たらず深い森ばかりが続いていた。調べてみるとどうやら、精霊たちが里全体を守護しているようで、外部の者を近づけない仕様になっているらしい。そこで、ソレイユたちに案内を依頼に来たのだ。
「・・・それはお安い御用です。それでしたら、明日一日お時間をいただけませんでしょうか。食糧を調達してまいります。お気遣いくださいますな。我々もこのような素晴らしい部屋を使わせていただいておりますので、必要なものは自分たちで用意いたします」
「ああ、大丈夫ですよ。たぶん食料は必要ないですよ?」
「どういうことでしょう?」
「半日あれば十分です。これから参りましょう」
「こ、これからですか?」
「ええ、これから」
二人は目を丸くして驚いている。俺とリコはソレイユたちを伴って隣の部屋に移動する。
「よし、ここに結界を張ります。あ、このことはご内密にお願いしますね?世間にバレるといろいろややこしいので・・・」
素早く転移結界を張り、四人でその上に乗る。瞬間的に周囲の景色が変わる。転移した先はルノアの森の中であり、目の前にはメイがいた。
「ご主人様、お待ちしておりました」
「紹介します。妻のメイリアスです。彼女が集落の土壌調査を行います」
「メイリアスです、よろしくお願いいたします」
「よ、よろしくお願いします。あの・・・ここは・・・」
「ジュカ王国、王都の北に位置するルノアの森の中です」
「え?え?何で・・・?」
ソレイユたちはキョロキョロとあたりを見渡して落ち着きがない。
「ホテルの部屋からここに転移しました」
「転移・・・って・・・」
「俺の本職は結界師です。結界スキルはレベルを上げると転移結界が張れるようになります」
「一瞬でここまで・・・これなら、マトカル部隊が敗れたのは、納得がいきます」
ソレイユは目を丸くして呟いている。
「基本的にこのスキルは秘密です。俺の家族や部下を除いては、ヒーデータ帝国の中でこれを知っているのは、皇帝陛下のみです」
「ツ・・・わかりました」
スキルの説明もそこそこに、俺たちはサイリュースの集落を目指した。
集落はすぐ近くにあった。俺たちの目には深い森が見えているだけなのだが、そこに漂う瘴気が尋常ではない。このまま進めば多大な犠牲を覚悟しなければならないレベルだと本能が告げてくる。
「ここが入り口です。ちょっとお待ちください」
ソレイユが何やら呪文を唱えている。すると、目の前の景色がどんどんと開けていく。そして現れたのは、森の中を切り開いた小さな集落だった。
集落の真ん中に火がメラメラと立ち上っており、キャンプファイヤーのようだ。そしてその奥にはちょっと大きめの池が見える。
「ソレイユ様!」
集落を見回していると突然、声がする。辺りを見回していると、木々の上からサイリュースたちが羽を使って降りてくる。
「おかえりなさいませ!」
「ただいま帰りました。サクトス、アイセル、留守中、変わったことはありませんでしたか?」
「王都の方から濃い血の匂いが参りましたが、その他は特に・・・」
「そう、それは良かったわ。早速で悪いのですが、皆を集めてもらえますか?バーサーム様をお連れしたのです」
「まあ・・・それは・・・わかりました。お待ちくださいませ」
サイリュースの一人が何やら呪文を唱えると、彼女の周りに羽の生えた小人が現れた。皮膚の色が薄い緑色であり、髪の毛は濃い緑色をしている。彼女たちは森のあちこちに飛んでいった。
「彼女はサクトス。森の精霊を操る者です」
「サクトスです。以後お見知りおきをくださいませ」
「森の精霊・・・?」
「森の精霊は、森の木々と会話をすることができます。彼らを味方につけているお陰で、我々は何とか守られているのです」
「このサクトスは森の精霊、そしてアイセルは水の精霊を操ることに長けています。その他にも風の精と土の精を操る者もおります」
「なるほど、この環境であれば、何とか生きながらえることは出来ますね」
そんな会話をしていると、次々と木の上からサイリュースたちが舞い降りてきた。
「ソレイユ様、おかえりなさいませ!」
背中に羽の生えたサイリュース30人、しかも、全員がエロい。身に付けているのは、白い布を巻き付けたような衣装なのだが、皆、胸が大きい。しかも、光の加減でその胸が透けて見える。何という、ツボを押さえた、憎い演出であろうか。しかもこれが狙っている様子が全くなく、全員が素の状態なのだ。全く意識せずにこんな無防備な状態を見せられると、エロさが際立ってくる。
理性が飛びそうになった俺は思わずリコの手を握る。リコも、ものすごい力で俺の手を握り返してくる。そんな中、一人のサイリュースが俺たちの前に進み出る。とても清楚な雰囲気を漂わせ、凛とした知性を湛えた美女だ。この人は巨乳ではなく、どちらかと言えば美乳の部類に入るだろうか。なぜわかるか・・・。チラチラと透けて見えるからだ!
「バーサーム様、ようこそお越し下さいました。族長のヴィヴァルと申します。サイリュース一族を代表して、歓迎申しますわ」
「あ、ありがとうございます。どこまで力になれるかは分かりませんが、お話だけは伺います」
「どうぞこちらにお越しくださいませ」
クルリと背中を向けて俺を案内するヴィヴァルだが、お尻も透けているので丸見えである。しかし、俺は耐えきった。リコが握りしめている手が悲鳴を上げているからだ。骨がミシミシ音を立てている。
集落のちょうど中心に据えられている焚火の所に案内される。そしてヴィヴァルらサイリュースは俺たちを囲むように控えている。
「この度は我が娘、ソレイユの願いをお聞き届けくださり、感謝申します。早速でございますが、この我らの耕す畑、これが何とか作物が実るようお知恵を借りたく存じます。今は森の精気を糧としておりますが、それも限界が近くなってきております。何卒、よろしくお願い申し上げます」
火に照らされてヴィヴアルとその周囲の方々の体が完全に透けて見える。しかも、全員屈んで俺に頭を下げたので、中身が完全に見えてしまった。ああ・・・キレイな体や・・・みなさん、ええもん持ってはりますわ・・・アカン、もう、ホンマに、あきませんわ~。
「それでしたら、私が・・・」
不意にメイが立ち上がり、颯爽と畑に入っていく。それに釣られてヴィヴァルたちサイリュースもメイに付いていった。ようやく俺は、蛇の生殺しの状態から脱出することができた。
「リコ・・・こん」
「寝かしませんわよ!」
ものすごい食い気味で返事をされる。
「あんな女たちに、負けませんわ!」
「そうだ。リコの肌に勝てる女など早々は・・・でも、」
「でも、何ですの?リノスへの愛情は誰にも負けませんわ!」
「いや・・・そうじゃなくて、サイリュースたちは・・・」
「何ですの?」
「その・・・全然毛がないんだな」
「・・・屋敷に帰ったら、私も・・・きれいにしますわ!」
リコの手にさらに力が加わる。痛い!痛い!折れる!折れる!大丈夫だから・・・リコはそのままでいいから・・・と必死に俺は骨が折れる一歩手前の痛みと闘いながら、声を振り絞った。




