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結界師への転生  作者: 片岡直太郎
第五章 新・ジュカ王国編
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第百十八話  王都復興への序章

王都に侵攻して一週間が過ぎた。俺たちは相変わらず、王都の復興に全力を挙げて取り組んでいる。


王都に侵攻した当初は、ここを立て直すのに、帝都から人を呼び、人海戦術でかかったとしても三年はかかるだろうと考えていた。しかし、アテにしていた帝国からの支援は皆無と言ってよく、当初の計画は見直さざるを得なかった。やるべきことはちょっと考えただけでも数十の項目が頭に浮かび、それらに優先順位をつけつつ、やれるところからやるといった感じだ。


しかし、炊き出しを開始してから三日目。ある変化があった。何と、都民の人々が炊き出しを自分たちがやると言ってくれたのだ。これはありがたかった。俺たちは食料を運ぶだけでよく、あとは集まったおばさまたちが勝手に献立を考えて、料理を作ってくれる。しかも、きちんと当番を組み、各自の役割を割り振る作業をほぼ一瞬でやってしまったのは、見事という外はなかった。


すぐさま俺たちは別の作業に取り掛かった。王都に放置された夥しい死体の処理であった。


取り合えず、フェアリードラゴンたちの鱗粉で臭いや腐敗は押さえてはいたのだが、所詮は付け焼刃に過ぎず、日が経てば腐敗も臭いも発生することは明らかだった。それを解決したのはメイだった。コラサーネという食虫植物で、生物の体中にツルを巻き付け、そこから養分を吸い取る悪魔のような植物を、その解決策に使ったのだ。


その植物はニザ公国の山奥に自生していると聞き、俺とメイはイリモに乗り、公国に転移した。そして、山に入るとその植物はすぐに見つかり、すぐさま結界に閉じ込めて王都に持ち帰った。


まず、死体が放置されている耕作地帯に植えられたコラサーネは、メイが何かの薬をかけるとすぐに根を張り、見る見るうちに死体をツルで覆いつくした。どうやら爆発的に成長を促進する薬だったようで、枯れるのも早いという欠点もあるらしいが、まさにこの環境に打って付けの薬だ。住宅地に被害が及ぶことは避けたいので、耕作地全体に結界を張って様子を見た。一晩経つと、そこは見事な花畑となっていた。


その咲いた花を、フェアリードラゴンたちがあっという間に食い尽くした。実に味わい深い豊潤な味だったと感想を聞いたが、俺にはよくわからない。


そしてさらに一晩経つと、コラサーネは見事に枯れていた。これを見て俺たちはラマロン兵の死体を集め、そこにコラサーネを植えた。二日後、そこには彼らが着用していた鎧と兜と刀だけが残されていた。それらの一部は俺たちが頂戴したが、余った大多数の鎧や兜は鉄クズ同然であったため、俺は王都民に希望があれば持ち帰って構わないと触れを出した。結局、彼らの鎧兜は一日できれいに全てが無くなっていた。後にそれらは王都の城門だけでなく、 王都民の住居や店舗、果ては馬車などにも転用され、王都や王都民の防御力向上に一役買うことになるのだった。


その作業と同時並行してメイは、黄金鳥の研究も行っていた。鳥たちは結界の中で相変わらず喧しい声で鳴き倒していたが、メイは全く意に介せず鳥を捕まえるといきなり解体し始めた。そして、肉が腐るのをものともせず、鳥の研究にかかった。


待つこと一時間、数羽の黄金鳥を実験台にしたメイが、笑顔で俺に振り返る。


「ご主人様!これはとても珍しい個体です!なにしろサウナワースが体内を循環していますので、比較的シャリナオス現象が起こりやすくなるんですね!なるほどです。これはよくできていますよ。だから、リンクケージットさえ上手くできれば・・・。ただ、インワットでもいいかもしれません。・・・いけます!」


「・・・ああ、そう。・・・大体わかった。大体わかったよ、うん。黄金鳥は、任せるよ・・・」


「ハイ!」


ものすごい笑顔で、うれしそうにメイは返事をする。一抹の不安がないわけではないが、たぶん、おそらく、きっと大丈夫だろう。


その後、メイは黄金鳥にエサをやりつつルノアの森を徘徊、もとい、探検している。黄金鳥を飼育するにあたり、彼らの生態をもう少し詳しく知る必要があるのだという。基本的に結界を張ってあるし、位置についてはマップで確認できるので心配はしていない。ちゃんと晩御飯までには帰ってくるしね。


食料の心配がなくなり、おびただしい死体も処理された王都は一気に活気が蘇りつつあった。基本的に老人と子供、そして女性しかいない街であったが、皆、それぞれがこの街を立て直そうと動き出している。


特に老人たちが元気だ。昔取った何とやらで、大工仕事などはおじいちゃんが張り切ってやっている。耕作地もメイが調べた結果、全く問題ないことがわかったので、早速種を蒔き、井戸から水をやる光景が見られるようになった。


てっきりラマロンの兵士たちに蹂躙されたと思われていた若い女性も、意外に多くいた。何でも家や倉庫の屋根裏に隠して急場をしのいでいたのだとか。これは、これも俺たちの到着が遅れていれば、さらに悲劇が拡大していた可能性も高かった。


基本的に王都の警護はクノゲンたちが担い、今のところ大きな問題は起きていない。彼らが寸鉄を帯びずに冒険者風の格好をしているせいか、王都民からは完全に受け入れられている。元々彼らの多くが、帝国の次男・三男であり、基本的にイケメンである。それもあって、女性たちからのウケも上々で、その中には早くも若い女性からお弁当を作ってもらうヤツもいるらしい。まあ、愛が育まれることは良いことなので、今のところは静観している。


女と言えば、ラマロンの被害にあった女性たちの問題が、かなり深刻なものだった。近隣の村や町から攫われてきた女たちも既に被害にあっており、一筋縄ではいかなかった。メイもさすがにこれには対処する方法を持たず、この問題は暗礁に乗り上げるかに思えた。


それを救ったのは、何とポーセハイたちだった。


「黒の医師」とクルムファルで異名をとる彼らにも支援を命じたところ、腕利きの医師4名を転移させてきた。そいつらに王都民の健康管理を任せるついでに、女たちのことについて相談すると、フェアリードラゴンの鱗粉で記憶を消すこともできるのだと教えてくれた。


早速サダキチに相談したところ、それはフェアリのような上位種でないと無理なのだという。そこでフェアリに相談したところ、かなり迷いながらもやってみると答えてくれた。


早速女たちを屋敷に転移させて庭に集める。そして、フェアリと女たちを結界の中に閉じ込める。動けない女や錯乱している女も無理やり連れてきたので、結界の中がかなりの騒動になっている。その中にあってフェアリは彼女らの上空をパタパタと飛び回っている。


しばらく飛んでいたフェアリだが、突然彼女の体からまばゆい光が放たれた。やわらかな光がやさしく女たちを包み込む。光が収まるとそこには、倒れた女たちとフェアリの姿があった。


「おいフェアリ!しっかりしろ!」


「ううう・・・」


よく見ると羽がボロボロになっている。すぐさま俺はフェアリにアルティメットヒールをかけ、羽を修復してやる。


「無茶するな!」


「イメージ通りの粉を作ろうと思ったらついつい力を入れすぎちゃった・・・」


「でも、そこまで頑張るフェアリは偉いぞ!」


俺はフェアリを抱っこして、頭を撫でてやる。


「エヘヘ・・・」


嬉しそうにフェアリは笑う。何とも癒される笑顔だ。彼女も、人間ならばかなりの美少女であるに違いない。


女たちは丸一日眠り続けた。そして、目が覚めると、大半の女は見事にラマロン兵の記憶が消えていた。しかし、錯乱していたり完全に精神が崩壊していたりした女は、自分の名前すら忘れている記憶喪失の状態になっていた。フェアリはかなり落ち込んでいたが、これは彼女を責められない。どうやら記憶を失った女たちは、家族もラマロンに殺されてしまったなどの理由で、天涯孤独な人たちばかりのようだ。まだ若い彼女たちは、新たな人生を王都で歩み出すしかないのだ。


ちなみに、ラマロン兵の被害にあった女性たちは、俺のエクストラヒールのおかげで全員生娘に戻っていたことを俺が知るのは、まだ随分先になってのことである。


今は、それぞれがそれぞれの生活を取り戻すのに精いっぱいの状況だ。俺は毎日王都に顔を出し、問題点を吸い上げ、その対策を考え、実行に移すという日々だ。リコ、ペーリス、フェリス、ルアラたちも交代で俺の仕事や王都民のサポートをしてくれている。ありがたい限りだ。


しかし、何と言っても、王都民のたくましさが、俺にはとても頼りになる。皆が自主的に集まり、問題点を議論し、その場で解決していくのだ。まだ、陳情のような要望が少ないのは、そのお陰でもある。


この王都でのやりとりが、将来思いもしなかった光景を生み出し、全世界が驚愕することになるのだが、今の俺はそれを知る由もなかった。

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