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結界師への転生  作者: 片岡直太郎
第五章 新・ジュカ王国編
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第百十四話  完封勝利

漆黒の闇の中に、馬の蹄の音と鉄のこすれる音が、かすかに響き渡る。漆黒の鎧を着た騎兵がゆっくりと王都内を進む。


彼らはまるで物見遊山をするかのように、キョロキョロとあちこちを見渡しながら何かを確認するかのように、ゆっくりと歩を進める。


「死臭がひどいですね」


騎兵の一人が思わずつぶやいた。クノゲンの部下のリシマだ。


「ああ、予想以上に王都の民を殺戮したんだろうな。夜明けが恐ろしいよ」


「バーサーム侯爵様のお言葉とは思えませんね」


「いや、俺だって嫌なものは嫌だ。死屍累々の中、死臭が充満する中で朝メシなぞ食ってられないだろう」


「朝めしの心配ですか?さすがですね、フフフフ」


騎士団の中から笑い声が漏れる。


「それにしても、無人の野を行くがごとしだな。この辺りは町人の住宅街なんだが、人っ子一人見えないな。人の気配は感じるんだがな」


「そりゃ、我々がこんな物騒な鎧を着ているからでしょう。わかってても寄ってきませんよ」


「確かに、それはそうだ」


右手に穀倉地帯を見、左手に住宅街を見ながらゆっくり進んでいくと、道が二手に分かれている。右手に進めば西門に通じ、左手に進めば王城の大手門に通じる。俺たちは迷わず右手に進み、西門に向かう。


西門には篝火が焚かれており、遠目からでもよく見えた。ちなみに、南門の近くにある王国軍本部の建物からも光が漏れており、ここも遠くからでもよく見える。


「何も仕掛けてきませんね。本当にバカばっかりなんですかね」


「リシマ、そう言うな。奴らだって、真剣だと思うぞ?たぶんだけどな」


再び騎士団の中から笑い声が漏れる。


西門に到達すると、門番が倒れていた。素早く数名の兵士が馬を下りて駆け寄り、そいつらの命を奪う。


「リシマ、任せたぞ!」


「お任せください!」


リシマたちは騎士屋敷が立ち並ぶエリアの中に入っていった。そして、残った数名の兵士で、西門の城門を閉じる。


「さすがにフェアリードラゴンたち。いい仕事するな」


彼らには、体がマヒをする鱗粉を空から撒かせていたのだ。上空から撒かせたので、効果を発揮するまで時間がかかるとのことだったので、抵抗されるのではないかと少々心配したのだが、杞憂に終わったようだ。


ラマロン軍は、元々騎士屋敷のあったところに逗留していた。内戦や彼らの侵攻で一部の屋敷は破壊されているが、まだ使える屋敷もかなり残っている。ヤツらはそこを無理やり使っていたのだ。そして待つこと30分。リシマが戻ってきた。


「バーサーム様、片付きました。全く抵抗なく、簡単な作業でした。あとは・・・」


彼が向けた視線の先には、数十名の女たちがいた。全員、服がボロボロだ。泣いている女もいるし、虚ろな視線をしている者もいる。俺は思わず目を背ける。


「取りあえず、回復魔法を」


俺は、自分の使える最大級の回復魔法を彼女らにかけた。


「これで、体は元通りのはずだ。夜が明けるまで、どこかで休ませてやれ。くれぐれも丁重に扱ってくれ」


女たちは、兵士にまるで宝物を運ぶかのように、丁重に扱われて商人街の方に消えて行った。俺はその姿を見送ると、西門の隣に巨大な穴を土魔法で掘った。


「よーし、西門の兵士たちはここに埋めろ」


「侯爵様!西から篝火が見えます!」


俺は西門の兵士たちの処理を任せて、急いで西門の上に上がる。


遠目から篝火が近づいてくる。気配探知で探ってみると、300名ほどいるようだ。


「お前ら、敵のお帰りだ。出迎える準備をしろ」


篝火はどんどん大きくなってくる。それに合わせて馬の蹄の音、鎧の音などが大きくなってくる。


「開門!開門!開けろ!ビュー様のお戻りだ!開門!」


けたたましく城門を叩いている。俺は城壁の上から顔を出して


「どなた様ですか?」


「何をしている開けろ!開けんか!」


「どちら様で?」


「大馬鹿者!副団長のビュー・レイリック様に決まっているだろう!早く開けんか!」


「へいへい。只今開けましょう」


俺はリシマたちに門を開けるよう手振りで指示を出す。


門がゆっくりと開かれる。待ちかねたようにレイリックの部隊は入城してきた。リシマたちはラマロン軍を囲むような形で出迎えている。


全員が入城したところで、城門が閉じられる。よく見ると、馬の上や兵士の肩に女性が乗せられている。しかも、一人や二人ではない。十数名単位の女性が居るようだ。


部隊の中心にいる騎兵がおもむろに兜を脱ぐ。そして怪訝そうに周りを見渡す。


「何だ?何故、これだけの者がここにいるんだ?何があった?・・・おい、誰か報告をしろ!」


「ビュー・レイリック」


兜を小脇に抱えた騎兵が振り返る。


「お前が、ビュー・レイリックか。コイツは殺すな。女は殺すなよ。・・・やれ!」


俺の命令が下った瞬間、リシマたちの剣が一閃される。悲鳴を上げる間もなく倒れる兵士たち。彼らは淡々とラマロン兵の急所を一突きして倒していく。無抵抗のまま、300の軍勢はみるみる半分以下にまでその数を減らした。


「何だお前ら!何をしている!他の者は何をしている!反乱だ!これは反乱だ!応戦せよ!応戦せよ!」


狂ったようにレイリックが叫んでいる。しかし、その間にも歩兵は全て倒され、騎兵も次々と討ち取られていく。残りはレイリックを守る30ほどの騎兵が残されるだけとなった。


「何だ!一体何だお前たち!なぜこんなことをする!」


「ビュー・レイリック」


肩で息をしながらレイリックは再び振り返る。目が血走っている。


「貴様は・・・誰だ?」


「バーサーム・ダーケ・リノスだ。王都を奪還すべく、ヒーデータ帝国より参上した。そこに大きな穴が開いているだろう?お前らの墓だ」


レイリックの目が大きく開かれる。


「やれ!」


瞬く間にレイリックを守る騎兵は討ち取られ、彼は四方八方から突きを食らい、なす術もなく馬から叩き落された。


「きっ、貴様ら・・・こんなことをしてタダで済むと思うなよ・・・」


「ほう、どうなるんだ?」


鎧を剥がされ、全裸にされたレイリックに城門から降りながら声をかける。


「我が軍が必ずお前らを・・・」


「じゃあ、見に行こうか」


兵士たちに、転がっているラマロン兵を大穴に放り込むよう命じるとともに、ラマロン兵が連れてきた女性たちを保護するよう命じた。怪我をしている者もいなさそうだったが、取りあえず回復魔法をかけてやる。女たちはみな若く、中には年端もいかない子供もいた。俺は冷たい目でレイリックを睨む。奴は俺から目をそらして俯いていた。


そして俺とリシマ、そして数名の騎兵と共にレイリックを伴って騎士屋敷町を進む。レイリックは全裸の上、後ろ手に縛られて身動きのできない状態にされている。


「兵たちは・・・兵たちはどこへ行ったのだ・・・」


「宿舎代わりに使っていた屋敷の中で、全員永い眠りについている」


「バカな・・・我々精鋭部隊が貴様らなどに・・・」


「何なら見に行くか?戦闘時間は30分くらいだったか?すぐに終わったぞ?」


レイリックは絶句している。


しばらく進むと、一人の騎兵が南門の方角からやってきた。


「侯爵様。こちらは終了しました」


「ご苦労。西門も終了したところだ。怪我をした者は?」


「いいえ。全員無事です。ただし、司令官らしき者の姿は見当たりませんでした」


「そうか。まあ、それはクノゲンたちが何とかするだろう」


「ところで、その男は・・・」


「ああ、レイリックという。副団長だそうだ。大方、食料調達のために近隣の村を襲いに行ったのだろう。ご丁寧に、女まで攫って戻ってきたところを一網打尽にした。副団長というからには色々知ってそうだと思ったから、コイツだけは生かしておいたんだ」


「お見事です。それではそのレイリックに質問してもよろしいでしょうか?」


「いいぞ。許可する」


「おい、司令官がいただろう。どこへ行った?」


「・・・」


レイリックはそっぽを向いて完全に無視を決め込んでいる。


「侯爵様、拷問にかけてもよろしいでしょうか?」


「いや、そんなことをすると体力と時間の無駄だ。俺に任せておけ」


俺たちはゆっくりと歩を進める。そして、到着した南門は、チリ一つない美しい状態になっていた。俺は思わず嘆息を漏らす。


「いや、南門の兵士がすぐに片付きまして・・・。兵舎を担当する部隊と、王国軍本部を担当する部隊が作戦を完了するまで暇だったもので、清掃をしておりました」


「他のラマロン兵たちの片づけは?」


「それは、まだ済んでおりません」


「そうか。それは後から何とでもなる。気にするな」


「侯爵様!」


南門から一頭の馬が駆け込んでくる。こいつもクノゲンの配下の男だ。


「いかだで川を下っていたラマロンと思わしき者たち6名を捕らえました。今から護送しますので、馬をお借りします」


「ああ、頼む。お前らの被害は・・・大丈夫だな。俺の方も終わったところだ。ゆっくり帰ってこいとクノゲンに伝えてくれ」


「畏まりました!」


そう言い捨てて、男は再び南門に馬を走らせた。


「実質の被害、ゼロか」


「そうですね。そういえば。ラマロンは、このレイリックと捕らえた6名を加えて7名の生存ですか・・・稀にみる大勝利ですね」


顎に手を当てながら、淡々とリシマが分析する。


俺たちの会話を聞いて、レイリックは馬上で震えながら声を絞り出す。


「皇国最精鋭の我らマトカル部隊が一夜で壊滅するとは・・・貴様ら一体、何者だ?まさか、本当に大魔王が・・・」


「俺たちは大魔王でも何でもない。ただの、男たちだ。安心しろ。俺たちに完封されたが、お前らが弱いんじゃない」


俺は改めて視線をレイリックに向ける。


「俺たちが、強すぎるんだ」

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