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結界師への転生  作者: 片岡直太郎
第三十四章 失敗からの創造編
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第千百三十三話 我こそはデウスローダ国王ブレイなるゾ!

デウスローダ王ブレイは興奮の絶頂にあった。周辺国から続々と援軍が進発したという報告を受け、自軍と合わせて総勢は五万を超える規模となるからだった。これだけの軍勢をもってすれば、先の戦いで失った領地を取り戻すことはもちろん、その勢いをもってネルフフ王国本土に攻め込むことすらも可能であった。


ネルフフとは長い間の遺恨がある。国王ブレイは、生涯をかけてこの国を併呑しようともくろんでいたが、いま、ようやくその野望が現実のものとなりつつあった。


彼の頭の中には、裏切った領主たちの首が並べられている光景が映し出されていた。さらにその隣には、生け捕りにされたネルフフ王女フィレットが悔しそうな表情を浮かべている。五万の軍勢に一気呵成に攻め込まれて成す術もなく蹂躙され、彼女は逃げたり、自ら命を絶ったりすることもできぬまま捕らえられ、公衆の面前に引き出されるのだ。それがどれほどの屈辱であるのかは、ブレイ自らが経験している。その苦しみを彼女にも与えるのだ。


あの、鼻っ柱の強い王女にどのような屈辱を与えようか。裸にしてその体を賞味するのは言うまでもない。ただ、力は強そうだ。縛り上げて身動きが取れないようにする必要がある。もっとも屈辱的な痴態を取らせて、そのまま蹂躙する。彼女はどんな表情浮かべるのだろうか。それを想像しただけでも、鼓動が高まってくる。


ブレイは家来を呼んで、強壮薬を準備するように命令した。そうしておいて、あの王女の体の隅々までを堪能するまでは、側室たちとの閨を控えねばならぬなと心の中で呟いた。


「父上」


思わず我に返る。目の前には、最愛の娘であるニーシャが控えていた。彼女はすでに鎧を着用している。その様子に、彼の顔は綻んだ。


「どうしたニーシャ、その格好は」


「我らはいつでも出陣の用意ができております。すぐにでも攻め込みましょう」


「ハッハッハ。お前はせっかちでいかぬ。急いては事を仕損じる。こういうことは、十分に準備をしてから行うものだ」


「我らには手つかずの軍勢三万が控えております。一気呵成にネルフフを攻め、援軍の到着を待たず、アルレを陥落させましょう。そうしておいて、アルレ本国を攻めるのです」


……この娘が男の子であったなら、どれほど頼もしいことであろうか。ブレイは心の中で呟いた。息子である王太子・ヒューズにこの半分もの意気があれば、どれほど安心していられるだろう。彼は娘の様子に満足をしながら、意気地のない息子の姿に幻滅していた。


失地回復のため軍備を整えるブレイに、真っ先に反対意見を表明したのは、王太子ヒューズであった。軍を動かすなどとんでもない、これは、クリミアーナ教国内での反乱である。そんな反乱に我が国が加担する必要はない。軍勢を整えるよりも、アガルタ・ヒ―データ・ネルフフに勅使を送り、この急を知らせて我が国に叛意がないことを示すことが肝要であると言ってのけた。そんな息子をブレイは大声で罵倒した。だが、彼はひるまなかった。今までさんざん後宮に籠りっぱなしで国政を顧みなかった父上に、そのようなことを言う資格はないとまで言い放ったのだ。ブレイは、息子を殴りつけた。


老いたりとはいえ、これまで鍛錬してきた彼の体は、息子を組み伏せるくらいは十分にできた。息子を散々に殴りつけ、その彼が意識を失うと、家来に命じて彼を部屋に軟禁した。これまで国政を担っていた宰相・ペタンは病臥しており、その宰相の屋敷にも兵を派遣させてこれを軟禁した。こうして、ブレイはいとも簡単に国政に返り咲くことができたのであった。


ただし、これにはブレイ一人の力だけではなかった。ヒ―データ帝国皇帝・ヒートに離縁され、デウスローダに戻っていたニーシャの働きも大きかった。彼女は温和政策を取る弟や宰相に対して、早々に反対の声を上げた。彼らは彼女のことを歯牙にもかけなかったが、一方でその意見に賛成する者も多かった。とりわけ、軍人たちはニーシャの意見に賛成であった。ただ、そのときは国王ブレイが後宮に籠りっきりであり、彼女らの意見が採用されることはなかった。しかし、ここにきて、クリミアーナの手引きで、これまで敵対していた国々がデウスローダの失地回復のために援軍を派遣したことから、一気に情勢が変わった。これまで政治を担ってきた穏健派に変わって、軍人たちの発言力が増した。このままで終わるわけにはいかない。少なくともこの情勢に乗じて失地を回復させねば、国としての運営は成り立たないと突き上げたのだ。


確かに、現在のデウスローダの国力では、以前のような運営は難しかった。それらの地域から上がってくる年貢の税収分が失われているのである。その額は国家予算の三分の一を占めていたのである。


その失った税収は、いわゆる質素・倹約で賄われていた。その矛先が真っ先に向かったのは、後宮であった。美々しく飾り付けられていた妃たちは、新しいドレスも新調できず、宝石類を購入するなど、もってのほかの状態になった。それでも彼女らは王の愛を得るために、ある者は実家を頼り、ある者は、怪しい商売に手を染めたりした。失った領地を取り戻せば、このような苦労をしなくてもよいものを……。妃たちは唇をかみながらその苦労に耐えていた。


妃たちの状態がそうであれば、そこに仕える女官たちの待遇はさらに悪くなる。新しい衣装や化粧道具が提供されることはなくなり、給金も減らされた。それまでは美々しく飾り付けられていた女官たちは、今は約半分の者が暇を取り、後宮は見るも寂しい状態となった。


そんな中、大勢の軍勢がデウスローダ支援のために向かっていると聞いた後宮の女性たちは色めき立った。彼女らは惜しむことなく声を上げている軍人たちの支援を行った。ブレイがたやすく国政に返り咲けたのは、こうした背景もあったのである。


娘ニーシャは苛立っている。無理もない。彼女は戦闘を経験したことがない。兵を動かせば、数を頼んで押し包めば簡単に失地回復ができると考えている。無理もない、とブレイは思う。これまで、話でしか聞いたことのないために、実際の現場がわからないのだ。それは、ブレイ本人にも思い当たる点があった。初陣をする前の、少年時代の彼が、まさにそうであった。彼は幼いころの自分の姿を見ているような不思議な感覚を覚えていた。


彼の読みでは、裏切った領主たちは問題なく討伐できると踏んでいた。ネルフフ本国からの援軍はあるだろうが、精々一万が限度だ。物の数ではない。問題はアルレだ。今や、難攻不落の要塞と化したあの城を取らぬ限り、勝利したとは言えない。あの城こそが、彼らの精神的支柱なのだ。


二重に掘られた堀と、背後には海を備えている。今ではその堀の外側に低くはあるものの城壁が築かれ、防御はさらに増している。海上からの攻撃もできなくはないが、そこには高い城壁がそびえており、そこから大砲が放たれる。陣形を整える前に蜂の巣にされる危険性が大いにある。そんな要害をどう攻略しようか……。ブレイの武人としての血が騒いでならなかった。


そのとき、伝令がやって来て彼らの前に片膝をつく。ブレイは顎をしゃくって発言を促した。


「ハッ、申し上げます。アガルタはネルフフ支援のために軍勢を進発したようです。その数五千。大将は、アガルタ王の妃・マトカルとのことであります!」


「なに、マトカル!」


ブレイは声を上げた。彼は伝令を下がらせると、目を閉じて天を仰いだ。


……あの女には煮え湯を飲まされた。その借りは、返さねばならぬ。


彼は心の中でそう呟く。マトカルに対する憎悪の念が、渦巻いていた……。

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