第千百三十二話 おしおきを考えたゾ!
アガルタの同盟国に侵攻を企てている国は、俺の予想を超える数と規模だった。その中でも最も大軍を擁して侵攻してくる可能性があるのは、あの、デウスローダだった。
あの国は俺たちとの戦いに敗れたあと、相当な領地を失っているはずだ。それは別に俺たちが占領したわけではなく、領主たちが勝手に王から離れたに過ぎないのだが。
とはいえ、デウスローダとしては相当のダメージを受けている。彼らはこれを契機として、失地奪還を狙っているようだ。
彼らが目指すのはアルレの街だ。ここは俺の土魔法で堀を作って、いわば難攻不落の要塞と化している。デウスローダは三万の軍勢におよそ二万の援軍を得ているらしい。それだけの規模の軍勢となると、チマチマと軍勢を分けて失った地域に向けるより、アルレを一気呵成に抜いたほうが手っ取り早い。その方が、裏切った領主たちに自らの力を見せしめることができるし、そのあとで、ああはなりたくはなければ、もう一度、デウスローダに仕えろと言えば、大抵の領主は屈服する。俺はそう見ていた。
一方で、アガルタの西側に目を向けてみると、フラディメの隣国であるケダカ王国にも侵攻の計画があり、その筆頭がダオラ帝国皇帝、ガノブなのだと言う。コイツはイヤな予感しかしない。なにか、俺の想像もつかぬことをやらかしそうな気がしてならない。
その他、南側の諸国にも侵攻の動きがあり、ここはアガルタの同盟国ではないが、ヒ―データの同盟国が多いために、援軍を求められるだろうというのが大方の見方だ。
さて、どうしようか。同盟国それぞれが敵を撃退してくれるのであれば、それに越したはことはないが、確実に援軍は求められそうだ。
「ヴィエイユ教皇が我が国に来ているのは幸い。あのお方にクリミアーナ軍を早くかの地に向かわせるよう命令してもらうのです」
ルファナちゃんが口を開く。すかさず、クノゲンが止めに入る。
「あのお方に何を言っても無駄だ。この際は、クリミアーナ軍はあてにしない方がいい」
「そんなことはわかっている。わかっているが、クリミアーナに高みの見物を決められるのが、私には、何としても悔しい」
そう言って彼女は唇をかんだ。
「そのときは、俺がヴィエイユにお仕置きをするから、大丈夫だ」
「お仕置き? リノス様、何をなさるおつもりですか?」
「そうだな……。あの小娘が一番嫌いなタイプの男と密室で二人っきりにしようかな」
「えっ? それは……」
「まあ、どうなるかはわからないけれどね。意外とあの小娘、力が強かったりしてね。男を張り倒して組み伏せる可能性だってあるからね」
「何と、人の、悪い……。しかし、あのお方はクリミアーナの教皇です。そんなことが……」
「いや、ルファナ。リノス様ならば、やりおおせるだろう」
「まさか、そんなことが……」
「まあ、そうならないことを、祈るけれどね」
俺はそう言って笑った。
軍議は再開され、まずは、アルレにデウスローダに侵攻の気配ありと知らせ、同時にネルフフ王国にもそれを伝えることとした。そして、そこには俺が自ら一万の軍勢を率いて向かうと決めたその直後、マトカルが帰ってきた。彼女はこれまでの軍議の内容を聞くと、
「アルレには、私が行こう」
と言った。彼女は一切表情を変えないまま、淡々と、
「かのデウスローダ王は私に強い恨みがあるはずだ。何といっても、あの国の宝剣を奪ったのは私だからな。あの男に、これを奪い返すチャンスを与えてやらねばならないだろう」
「そう言っておいてマト、その剣を返すつもりはさらさらないだろうに」
俺の言葉に、彼女はフッと笑みを浮かべた。
「今聞けば、リノス様は一万の兵で向かうと言っていたが、そんなに数はいらないだろう。五千もあれば十分だ」
「五千? 相手は五万近くいるのだぞ? 大丈夫か?」
「大丈夫だ。わが軍単独で戦うわけではあるまい。当然ネルフフ側からの援軍もあるだろうし、クリミアーナ軍の援軍もあるのだろう。で、あれば、何の問題もない。その代わり、ホルムとドルガを守っているラース殿を私にくれ」
「ホルムとラースを、か」
「ああ。頼む」
「その二人がいれば、たとえ十倍の敵とまみえようと、勝てるな。いいだろう。ホルム、マトを助けてやってくれ」
「は……ははっ!」
ホルムは俺たちの言っている内容がいまいち飲み込めないでいるようだが、何とか返事だけを返して頭を下げた。
さてと。ということは、わが軍にはあと一万五千の兵力が残っていると言えるな。ではクノゲン、すまないが、ヒ―データの陛下から援軍要請があったら、兵五千をもって行ってくれるか。
「承知しました」
「俺は兵一万をもって、ケダカに向かうことにする。ルファナちゃんにはご苦労だが、留守居役をお願いしたい。お母上の魔法使いの部隊を残していく」
「承知しました。お任せください。我が国に弓退く者はアリの子一匹通しません」
「それでは各々準備にかかってくれ。出陣の日取りは任せる」
俺の言葉に、全員が頭を下げた。
その翌日、俺は迎賓館のヴィエイユの部屋を訪れた。彼女は白々しく驚いた表情を見せたが、すぐに顔を強張らせた。俺の後ろにはソレイユが付いてきていたからだ。
女性と部屋で二人っきりになるのはマズイ。別に迎賓館のスタッフに同席してもらってもいいのだが、ここは、ヴィエイユに精神的に打撃を与えた方がいいと考えた俺は、ソレイユに同席を頼んだのだ。彼女は喜んで賛成してくれ、今に至るというわけだ。
「寛いでいるところすまないな。ちょっと話があってな」
そう言って俺は、部屋の中に設えられているソファーに座る。隣にソレイユも座る。俺たちが座っているので、ヴィエイユも仕方なく前に座った。
「早速本題に入るが、昨日も言ったと思うが、クリミアーナ軍のことについてだ」
「……はい」
「昨日の軍議の結果、お前さんの話が本当であり、実際に侵攻が行われた場合は、やはり、クリミアーナ軍が先頭を切って戦ってもらわねばならない」
「それは、承知しております」
「もし、それが行われなかった場合、お前にはペナルティーを負ってもらう。いいな?」
「どういうことでございましょう?」
「もし、クリミアーナ軍が日和見的な態度を取ったり、俺たちが指定した時間に来なかったり、つまりは遅参した場合は、お前にペナルティーを負ってもらう、ということだ」
「……」
「黙っているが、大丈夫か? 昨日までの様子とは少し違うようだが」
「……問題ございません」
「なに、別に無理を言うつもりはない。例えば、アフロディーテからアガルタまで二分で来い、などというつもりは毛頭ない。俺たちからの要求は、世間一般的に見て、問題ない程度にするつもりだ」
「……」
「で、ペナルティーだが、二つ用意している。お尻ぺんぺん五十回と、こちらが指定した男と二十四時間密室で一緒に暮らしてもらう、というものだ。ソレイユ」
俺の言葉と同時に、ソレイユの体が光る。ヴィエイユは呆気にとられている。
これで、お前は俺の監視下に入った。嘘だと思うならば、やってみるといい。
「何を……されたのですか?」
「なに、お前に目印を付けさせてもらったのさ」
「目印?」
「俺が魔法を発動すれば、すぐにお前をこのアガルタに転移させられるようにしたのさ」
「……ツ」
「お前のことだ。俺の結界対策をしていることだろう。今俺がここで転移結界を張ったところで、すぐにお前はそれを解除する方策を取るだろう。そうではなくて、ソレイユにお前に目印を付けてもらう。俺の転移結界は、その目印のあるものを転移させるようにした、というわけだ。尻を丸出しにされて、スケベ心の一切ない、ただ、苦痛を与えることのみに特化した、全力のお尻ぺんぺんがどれほどのものか、味わうといい。ただ、その後の男の子と密室で、時間無制限一本勝負がキツイと思うのだが、まあ、それはそのとき次第ということだろう。クリミアーナ軍の統率、どうぞ、お気張りやす」
ヴィエイユの表情が少し、ゆがんだ。




