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結界師への転生  作者: 片岡直太郎
第三十四章 失敗からの創造編
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第千百二十八話 その男に注意するのだゾ!

クリミアーナ教国から、メイとシディーが開発した水処理施設に関して、共同開発をしたいと申し入れがあったのは、それからしばらくしてからのことだった。


てっきりヴィエイユ本人がやって来るものと思っていたが、フラレシという初めて会う枢機卿がやって来て、ものすごいテンションで、我らと共に共同開発すれば、その処理能力は格段に向上しますと言って営業トークを始めた。


何を言っているのかは、俺にはさっぱりわからなかった。コイツはゴリゴリの技術者だ。前世の頃、同僚の技術者のことを思い出した。客の質問――確か、このシステムは何を処理するものなのか、という内容に対してそいつは、プログラムのコードを喋ったのだ。


(読み飛ばしてください)

「入力されたワードを元に検索するンすけど、ループは最小限に抑えてまして、二回だけ回す感じっす。ステップも十いかない感じでおさめてまして、まあ、落ちるときにはフラグ立ててますんで、その辺は大丈夫っス」


……何を言っているか、わかるだろうか。まあ、プログラマーならニュアンスはわかってもらえると思うが、初見だと、コイツ、何言ってんだとなるだろう。まあ、正解は、


商品名を検索するシステムです。


この一言で終わるのだ。質問してきたエライさんは苦笑いを浮かべて踵を返したのを、今でも鮮やかに覚えている。目の前でしゃべり散らかしているフラレシはまさに、そのタイプだ。


正直言って意外だった。ヴィエイユがわざわざこんなコミュ力の低い者を遣わした理由がわからなかった。本当にその技術が欲しいのならば、本人が俺のところに来て、直接頼めばコトは早く済むのだ。これだと、この男の話を理解するのに時間がかかるし、最終的には断られる可能性の方が高い。というより、こういう男は、ヴィエイユが一番嫌うタイプの男だろうに、それをわざわざ遣わしてきたということは、何らかの策略があると見ていいだろう。ただ、俺にしても、彼女が何を狙っているのかがわからなかった。


一応、クリミアーナ教国の勅使ということで、迎賓館の謁見の間を用意し、俺とリコが対応に当たっている。顔を真っ赤にしながら男はしゃべり続けている。まさしく、落語の『金明竹』の言いたてのようだ。


さすがに戸惑ったり、不快な表情を浮かべたりすることはせず、俺は淡々と男の話を聞いている。隣に控えるリコはさすがで、優し気な表情を浮かべながら男の話に耳を傾けている。きっと、話の内容は半分もわからないはずなのに、客を不快にさせないように振舞う姿勢は、見習うべきものがある。


「ぜひ、ぜひ、我々とともに、クリミアーナ教国とアガルタ王国が手を取り合って研究開発を行えますよう、ご賢慮のほどを、お願い申し上げますっ!」


男は最後にそう言って深々と頭を下げた。ハアハアと荒い息遣いが聞こえてくる。別にそこまでテンションを上げんでもいいのに……。


「クリミアーナとアガルタが手を取り合って、か」


「はい、左様でございます!」


俺は思わず苦笑いを浮かべた。こういう場合、相手側の国を立てるのがマナーだ。アガルタとクリミアーナが手を取り合って、と言い直すのかと思ったが、男はそんなことは微塵も考えていないとばかりに、胸を張って口を開いている。


「いきなりの話であるので、即答はできかねる。返答は、しばらくお待ち願いたい」


「では、ご返答をいただくまで、待たせていただきます」


……俺はやんわりと断ったつもりだった。お宅様とは協力するつもりはありませんと遠回しに言ったつもりだったが、男はそうは取らず、返事をいただくまで待つと言い放った。さすがにこれには俺も、開いた口がふさがらなかった。


そんな俺の隣で、リコは淡々としている。まあ、そういうお方もいらっしゃいますわねと言わんばかりの雰囲気だ。さすがにリコだなと、あらためて彼女のことを尊敬する。


一応、メイとシディーにこのことを話したほうがよろしいですわという彼女の言葉の通り、俺は二人にこの日のことを相談した。二人は顔を見合わせていたが、シディーが困った表情を浮かべながら、あまり必要性は感じないかなと言った。メイは、俺がどうしても言うのであれば検討しますという返事で、つまりは、別に私どもは必要ございませんということだった。


俺はすぐにでも返答したかったが、それだと、最初から断るように見えるので、ニ、三日の期間を開けた方がいいというリコの勧めに従って、クリミアーナの使者は放っておくことにした。それはそれでよかったのだが、話し合いをした翌日、何とリボーン大上王が俺の執務室にやってきた。アガルタ王、おいでか、という声に、俺は思わずうわぁと声を上げてしまったのだった。


「クリミアーナからの使者についての話は聞き申した。お断りをなされる談、よくぞご決断成された!」


……一体、何の話やねんと心の中で呟く。このジイさんも、俺の許に来た理由がわからない。何だ、一体、何なんだ。


俺の戸惑いなど知ったことではないとばかりに、ジイさんはクリミアーナと組むデメリットを大声で語った。曰く、あの国を交えると、アガルタだけでなく、フラディメとニザの情報も漏れることになる。彼らの狙いは、この三国の秘密情報を盗むことにあるのだという。


「儂もな、過去にあの国にそういうことをやられましたのじゃ。技術協力と言って技術者を派遣してきたはいいが、その実は情報を盗もうとする輩であった。すんでのことで気が付いて、奴らは国外追放としましたのじゃ」


「ほう、さすがですね。ただ、あの国はえらく粘着質です。その後、いろいろな嫌がらせをされたのではないですか?」


「その点には抜かりがない。我が国の女性に手を出したと言いましてな。実際、ヤツらの寝所に女性を向かわせ、コトに及ぶすんでのところでわが手の者が踏み込みましたのじゃ。あの国の教義は、不義密通を禁じておりますからな。そのような不埒者を、こちらで成敗しておいたと書き送りましたのじゃ」


……無茶苦茶するな、このオッサン。という言葉を飲み込む。それであの国が黙っているとは思えないが、このジイさんのことだ。いろいろ理屈を並べて意見を押し通したのが容易に想像がつく。


「この度は、アガルタに無礼千万の使者が送られたと聞きましたじゃ。それは、クリミアーナの策略じゃによって、気を付けるよう、ご助言申し上げに参りましたのじゃ」


大上王曰く、あの使者は断ってもおそらく国には帰らずに、アガルタに居座るだろうという。別にそれはあの男の策略でもなんでもなく、単に、教国の技術力を信じていて、さらには、クリミアーナと協力することで、アガルタの技術力が飛躍的に向上すると心から信じていて、それを必死の形相で伝えてくるだろうということだった。しかも、こういう手合いは厚かましく、無礼なのだそうで、きっと、水処理施設を見学させてほしい、場合によっては、自分の知識や技術を提供してもいいと言ってくるだろうが、それに乗ってはいけない。相手は、本気でそれを学ぼう、協力しようとしているだけに質が悪く、場合によっては施設に直接赴く可能性すらあるので、注意をしろということだった。


なるほど、気を付けますと言って、大上王にはお引き取りを願ったが、彼もまた、一時間半にわたって執務室に居座ったので、俺の仕事が進まず、結局はその日は残業をする羽目になったのだった。


だがその翌日、執務室に出勤してくるとすぐに扉がノックされ、兵士の一人が入室してきた。彼は俺の前に出るとスッと一礼し、不思議そうな表情を浮かべながら、口を開いた。


「正門前に、クリミアーナ教国のヴィエイユ教皇が、お見えです」

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