表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
結界師への転生  作者: 片岡直太郎
第三十四章 失敗からの創造編
1126/1126

第千百二十六話 悲願が達成されたゾ!

ニザ公国における、水浄化処理システムの実験機はすぐに完成の日を見た。この施設は表向きは実験施設だが、水の浄化が確認されれば、すぐさま本番稼働する手はずになっていた。


施設の建設と並行して、ニザ公国では、いわゆる下水道の整備が進められており、この機械が動き出すのと同時に、この国では大規模な下水道システムの工事に取り掛かる予定となっていた。


これだけの速さで何もかもが進んでいくのは、珍しい光景と言えた。その大きな原因は、やはり、国家の王同士が直接議論を交わしあい、その場で決断し、行動に移したからに他ならなかった。


二人の決断と実行は早かった。施設の規模や細かい運用方法はもちろんのこと、フラディメから持ち込まれるハウオウロの生産量からその輸送まで、ありとあらゆることがその場で決まり、実行されていったのだ。


ドワーフ公王は、リボーン大上王を理屈っぽいジジイだと思う一方で、他国のことにこれだけ本気で物事を考え、行動してくれることに、深い感謝の念を抱いていた。と同時に、リボーン大上王もまた、ドワーフ公王を頑固で融通の利かぬジジイだと思う反面、その技術と知識はやはり世界最高峰であり、彼自身も大いに知的好奇心を刺激されていた。二人は、メインティア王が指摘した通り、互いのスキルを認め合いつつも、互いが嫌いあうという複雑な関係を築くに至っていたのだった。


二人は、新しく完成した施設を並んで眺めながら、よくこのジジイをうまく使いこなせたと、互い同士が思いあっていたのだった。


一方、この施設を万感の思いで眺める者がもう一人いた。シディーだ。彼女は目にうっすらと涙をためながら、思いをはせていた。


汚れた水を浄化させるというのは、ドワーフ一族による悲願だった。いわゆる鉱物を処理する際に発生する汚染された水との戦いは、そのままドワーフ一族の戦いの歴史であると言い換えても過言ではなかったのだ。


その水処理に最も力を注いだのが、コンシディーの亡き母であった。彼女は鉱毒のために土地が汚染され、人々が苦しむ光景を見て、何とかそれを改善させようと立ち上がった一人であった。


まず彼女は、ドワーフ一族を総動員して遊水地を作り、汚染された水を川に流すのを禁止して、この池に集めるよう取り組んだ。と同時に、彼女は八方手を尽くして、この汚染された水を浄化する技術の確立に乗り出した。そこにつけ込んだのが、レコルナイたち率いるポーセハイだった。


彼女はポーセハイに実験道具にされる形で、体を蝕まれて死に至った。シディーはその花を哀れとは思うが、ポーセハイに対する恨みはもう、もってはいなかった。母を死に至らしめた者たちは全員が斬られているし、その戦いの中で、ポーセハイは一族が滅ぶ一歩手前まで追い詰められた。いま、彼らは医学に注力して、多くの人々を救うことで、世界に貢献している。そんな彼らを責める気持ちは毛頭なかった。


ニザにおける汚染水の問題は、メイの開発した薬品により、汚染物質を中和させるという手法がとられていた。とはいえ、その効果は完全なものではなく、その過程は何度も繰り返されねばならず、現在ではそのための遊水地が四つも新たに作られる状態となっていた。


この施設さえうまくいけば、そんな遊水池の問題は一気に解決する。汚染された水はこの機器を通り、そのまま川に流される。万が一のことを考えて、遊水地は残さねばならないが、それでも、大半のそれは必要でなくなる。そこを埋め立てて、住宅なり、工場なりを建設することができれば、公国の人口の増加や、産業の発展が期待できる。今、母が夢見た光景が、現実のものとなろうとしているのだ。


……よかったわね、お母様。


彼女は心の中で亡き母に語りかけた。この実験がうまくいったならば、母の墓参りに行こう。報告を兼ねて、彼女を労うのだ。孫であるピアを連れて行ってもいいが、今回は一人で行こう。女同士二人で、ゆっくりと語り合おうと心に決めていたのだった。


「それでは、かからせてもらいます」


若いドワーフの声で我に返る。ざわついていた室内に静寂が訪れる。その場が徐々に緊張感に包まれていく。居ても立っても居られないとばかりに、リボーン大上王が大股で歩き出す。向かう先には、メイがいた。彼が近づいてくるのを察した彼女が、大上王にやさし気な笑みを投げかける。大上王は大きく頷く。


「まあ、きっと、大丈夫だろう」


シディーの隣に控えているリノスが、誰に言うともなく呟く。その隣には、メインティア王も同席している。彼はもう、実験の成功を確信したかのような表情を浮かべているが、それは表向きの顔であって、心の中では、この実験に関して彼は何の興味も持っておらず、父である大上王に命じられて、イヤイヤこの場に同席していることを、シディーは直感的に見抜いていた。


「一番槽、注水、完了しました」


若者の元気な声が聞こえる。この施設には、ドワーフだけでなく、アガルタ大学からの研究者も参加している。彼らは、この実験が成功すれば、そのままこの施設に勤めることになっている。予定では、施設は拡充していくことになっているので、ドワーフ、アガルタ大学からさらに人を採用していく予定だ。あとは、この施設のメンバー間のコミュニケーションを円滑にする必要があるが、それは、あとで考えればいい。シディーはそんなことを考えていた。


次々に水は用意された槽に溜まっていく。と同時に、処理が行われる。ここまではスムーズだ。いよいよ、ハウオウロを詰めたチューブに水が注がれていく。大上王とメイちゃんのチームの緊張が最高潮に高まってきていた。


大上王は目を皿のようにして計器を睨みつけていた。一方のメイちゃんは落ち着き払っている。彼女の傍を固めるアガルタ大学の技術者も同様だ。


どのくらい時間が経っただろう。メイちゃんがゆっくりと立ち上がると、歩き出した。ハウオウロで処理された水の状態を確認しに行くのだ。背筋をしゃんと伸ばし、カツカツと靴を鳴らしながら、さらに、胸を揺らしながら歩いて行くメイちゃんは、格好がよかった。


しばらくして彼女は水の入ったビーカーを持って帰ってきた。それを彼女はリノスとシディーの前に設えられたテーブルの上に置いた。すぐにシディーが懐から小さな箱を取り出してそれを開き、中に入っている薬品を注ぎ入れた。ドワーフ王ら、主だった者たちがテーブルの近くに集まってきた。


ビーカーの水は無色透明なままだ。シディーは次々と薬品を投入していくが、水の状態は変わらない。


「ちょっと、誰か、一番槽の流入水を持ってきて」


シディーの声に、若いドワーフが走っていく。ややあって彼は同じようなビーカーに水を入れて持ってきた。やや濁っているその水は、何とも言えぬ臭気があった。それなりに汚染されているのだろう。ビーカーを持ってきたドワーフは厚手の手袋をしていた。


シディーはその流入水に、先ほどの薬品を投入した。すぐに水が紫色に変わる。おお、と声にならない声が起こった。さらに別の薬品を投入すると、また色が変わる。いくつかの薬品を投入すると、水は黒に近い色になった。


「流入水は、これだけ汚染されていますが、この施設で処理された水は、何の反応も示しません。結論を申し上げますと、この施設での水の処理は、大成功であると言えます!」


シディーの声に、周囲は一瞬の静寂に包まれたが、やがて拍手が一つ二つと起こり、やがてそれは万雷の拍手に変わっていった。それは、数百年にわたるニザ公国の悲願が達成された瞬間でもあった……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ