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結界師への転生  作者: 片岡直太郎
第三十四章 失敗からの創造編
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第千百二十五話 話が進んだゾ!

ハウオウロを用いた水浄化システムの確立は、とんとん拍子で進んだ。これには、リボーン大上王が折に触れて行うアドバイスが、非常に効果的に作用していた。彼は本気だった。昼も夜もこの技術を確立するために勉強していたのだ。


ある程度の成果が見えるようになり、ここはひとつ実地で実験をしようということになり、その施設をニザ公国に作ることにした。公王としても異存などあるはずもなく、彼は大喜びでそれを受け入れ、協力は惜しまないと言って笑顔を見せた。


いざ、施設を作る段階になると、何とリボーン大上王もニザ公国に現れて、施設の建設を見守るようになっていた。相変わらず口うるさく、建設に携わる者たちは辟易としたようだが、彼の言うことは正しく、渋々ながらそれに従うほかはなかったようだ。


俺もシディーもこのジイさんに関しては放っておくようにとドワーフ公王に勧めたのだが、相手はフラディメ王国の先王だということで、公王としても放っておくことはできなかったらしい。公王は大上王を宮殿に招き、食事会を催したのだと言う。もとより、そういうことを望まない大上王は断ったらしいが、まあ、そう言わずと言って、無理矢理彼をその場に参加させたらしい。


そんなことをすれば、大上王の怒りに触れてしまい、後々ややこしいことになるのは、俺たちであれば容易に想像がつくが、公王はそうしたことを知らなかったらしい。案の定、二人はある技術のことについて、大激論を交わすことになった。


技術に関して言えば世界一を自負する公王と、知識に関して言えば引けを取らないと自負している大上王。二人は一歩も引かずに時間を忘れて議論をしたらしい。あとでユーリ宰相に聞いてみたところ、同じ話が何度もループしていて、周囲のものはずいぶんストレスを感じたらしい。その話を聞いた俺とシディーは、さもありなんと、二人して頷いたのだった。


シディー曰く、この二人は「大嫌いだけど大好き」の間柄らしい。互いの技術・知識は認めつつも、負けるわけにはいかない関係性なのだそうで、二人が会うと、大体はこういう形になるようだ。さりとて、まったく関わりが無くなると、それはそれでさみしく思う。面倒くさいことこの上ないが、タイミングを見ながら、年に一回程度、話をする機会を作ればいいんじゃないかということになった。


「へぇ~。父上にも、そんな親友のような間柄になるような人がいたんだねぇ」


話を聞きつけたメインティア王が、嬉しそうに口を開く。


「親友、ですか」


「親友さぁ。互いが互いのことを気を遣わずに、自由に議論を交わすことができるのだろう? それを親友と言わずして、何というのだい?」


「そういうものですかね」


「そうさぁ。二人に気を遣わずに、父上はずっとニザ公国に居ればいいんだ」


「それはそれで、公王の周囲に仕える者たちが迷惑するでしょう」


「まあ、確かにそうだ。クックック」


一旦フラディメに帰国したこの王は、週末になると都に戻ってきて、彼を慕う芸術家たちとの触れ合いの時間を持つようになった。いわゆる「ティア様」の人気は大したもので、数こそ多くはないが、彼を慕う者たちからはまるで神のごとく崇められている。たぶん、この者たちは、バカ殿が死ねと言えば喜んで死ぬんじゃないかと思うほどだ。


このバカ殿、ちょっといいところがあって、これは、と思う芸術家たちに惜しみなく金を使う、いわゆるパトロンのようなことをしている。お前の使う金は、フラディメの国民から集めた税金と違うのかというツッコミを入れそうになったが、その金は自分が絵を描いて拵えた金だと言う。ティア様の絵は評判が評判を呼び、これまたごく一部のマニアが天井知らずの値段で買い上げるのだそうで、今の彼はいわゆる、大金持ちになっているらしい。それを自分ではなく、人のために使うのだから、これは、エライと思う。


それこそ、住む場所から衣服、道具類……挙句の果てには床屋の代金まで彼は面倒を見る。しかもそれはどれもこれも一流と言われる店だ。いいものに触れなければ、いいものは生み出せないと言うのがこのバカ殿の理屈だ。これはと感じた芸術家の作品を見に行くように勧めもするし、国立劇場で開催される演劇などにも見に行くように勧める。


ただ、このバカ殿が見初める芸術家というのは、どれもこれも売れていない者ばかりだ。それに、彼が褒める芸術家自体が、誰? と言ってしまうほどのマニアックな人ばかりだ。当初俺は、自分が一部マニアにしか受け入れられないから、自分もマニアックな人しか褒めないのだろうと思っていたが、彼の考えは少し違っていた。


アンタはどうして、流行っている芸術家を褒めないんだと聞く俺に対して、バカ殿の答えが振るっている。


「流行っている段階で、ダメになっちゃっているんだよ」


どういうことだと聞く俺に対して、彼はあきれたように首を左右に振った。


「本当にいいものは、誰にもわかるものではない。本物を知る者だけが、本物を見抜くことができる。少なくとも私は、その眼力を持っていると自負している」


俺はわかったような、わからないような表情を浮かべた。そんな俺に彼は諭すように口を開く。


「本物の芸術家というのはね、世間や社会の批評を気にも留めず、己の信じた道をひたすらに進む者のことを言うのだよ。つまりそれは、世間からの評価を得られないと言うことになる。このまま放っておいては、その彼らは活動を止めねばならなくなる。そうならないように、私のような者は絶対に必要なのだ」


「要はダンナ、でしょ? つまりは、金を出してやる代わりに、その、なんだ。一晩付き合えよ、的な話になるんじゃないのか? それはそれでどうなんでしょう」


「まあ、女性の場合は、ね。私も男だ。その芸術家が私の琴線に触れるのであれば、当然口説くことになる。そうせねば、失礼になるからね」


「断られたら、支援を打ち切るんでしょ?」


「ご挨拶だぇね、君は。私がそんな薄情な男だと思うかい? 世間の男どもと一緒にしないでくれたまえ。ただ、私が口説いた女性は今のところ、一度も断られたことはないけれどね。そうやって深い関係を築くことで、より深い支援につながるのだよ」


「何だかよくわかりませんが……。アナタはフラディメの王なのですから、そちらの政治も疎かにしてはいけないと思いますよ」


「そうしたことは、パターソンらに任せておけばいいのさ。私は、国の行くべき方向性を定めるだけでいい。父上のように、何でも自分で決めてしまうと言うのは、もう、古すぎるやり方だね」


そう言って、メインティア王はケラケラと笑った。そうしておいて彼は、このアガルタには、私の眼鏡にかなう芸術家たちがたくさん集まっているので、これは国として大いに誇るべきことだ。その彼らを国として援助してやってくれと言って、満足げな表情を浮かべた。


さすがにそれはどうかと思った俺は、屋敷に帰ると妻たちにこの件を相談した。意外にもリコとソレイユが賛同してくれ、アガルタ王国として、芸術家たちを支援する基金が作られるようになった。メインティア王はその基金の立ち上げを喜び、その仕組みづくりに全幅の協力をしてくれたのだった。


この基金を活用して活動をつづけた芸術家たちは、その後、自分たちの手で大学を作り上げ、そこは、世界最高峰の芸術大学に成長し、卒業生たちは世界中で高い評価を受けることになるのだが、まさか、そんな未来が待っていようとは、そのときの俺もリコも、メインティア王も、予想すらもしていなかった。

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