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結界師への転生  作者: 片岡直太郎
第三十四章 失敗からの創造編
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第千百二十一話 成功と失敗が同時に起こったゾ!

俺は、バカ殿が思い付きで言った、いわゆる素人考えだと思った。シディーは何かを思いついた表情をしていたが、それ以降は電気を使って云々の話をしなかったし、メイ自身も、その話には興味を示さなかった。彼女が興味を示すときは、目がキラキラと輝く。実は彼女にはもう一段あって、さらに深く考えだすと、片目だけが真ん中に寄るという顔になる。これが、なかなかスゲェ迫力なんだ。だが、今回はその表情はなかった。


結局、メインティア王は好き勝手なことを喋り散らして迎賓館に帰っていった。そして、それ以降は、研究を見たいというどころか、研究そのものを話題にすることもなかった。


彼はそれから、ひたすらに自由な生活を楽しんだ。気が向けば、ゴンやゲンさんのところの若い者たちを連れてミラヤに行くこともあったが、どちらかといえば、どこでどう知り合ったのか、都に住む画家のアトリエに行き、そこで絵を描くようになった。しかも描くのは決まってヌードであり、彼はいつの間にか街でモデルとなる女性と交渉して、自身のアトリエに迎えるのだ。彼は筆が早く、三時間もあれば絵は完成してしまう。このところは、午前中に街でモデルとなる女性を物色し、昼から創作に入り、夕方には完成してしまう。報告では、女性に対するアプローチは失敗したことがなく、百パーセントの確率で成功している。ただ、彼の場合、絵を描くことが目的であって、完成したものに興味はないらしく、それなりに見事に仕上がった絵は気前よくアトリエの主人にあげてしまう。主人は主人でそれを画商の許に持ち込んで金にしていて、しかもそれは結構な金額で買い取られている。つまりは、バカ殿とアトリエの持ち主との間では、いい意味でも悪い意味でもウインウインの関係が築かれているようだ。


やっていることがことだけに、トラブルに発展しないのかと心配になるが、それは今のところない。彼の女性に対する心遣いは極めて丁寧で、神がかってさえいるのだそうだ。王を監視している者――ミーダイのオワラ衆から訓練を受けた者――が、その様子を見て勉強になりましたとさえいう始末なので、これはもう、天から授かった才能以外の何物でもないだろう。


ただし、彼が声をかけるのは美女ではない。何らかの特徴のある女性ばかりだ。一度、完成品をもらったが、オイオイ、こんなのを毎回やっつけているのか、と思ったほどの出来栄えで、素直にありがとうとは言えなかった。もらったはいいが、俺には一切興味がなかったので、こいつをどうするかと思案に暮れたが、たまたまリコとソレイユがこの絵を見たところ、二人は一様に感心した様子を見せた。リコはリコで、品のある絵だと評し、ソレイユは女性の色気がよく表現されていると言っていた。二人とも芸術的センスは高い。わかる人にはわかるのだな、と妙に感心し、その絵はとりあえず宝物庫の中に入れておくことで決着がついた。


わかる人にはわかると言ったが、それは事実のようで、バカ殿の絵が街に出回るようになると、一部のマニア層に熱狂的に受け入れられるようになった。彼は完成した絵にサインを入れる際、なぜか「ティア」と記入する。メインはどこに行ったのだ、というツッコミを入れたくなるのだが、どうもそれは彼の美意識に反するらしい。ちゃんと名前入れた方がいいんじゃないのという俺に、彼はあきれたように、君は何もわかっちゃいないねと言われてしまった。


彼は今、アガルタで「ティア様」と呼ばれて、一部マニアから熱狂的な支持を受けている。今ではアトリエ近くの喫茶店に現れて、ファンと交流するまでになっている。そこまでになったのであれば、どこかサロンのようなものを作ればいいんじゃないか、アガルタに来て手を付けた女性を女将にでもすれば、それなりに儲かるのではと冗談半分で行ってみたが、彼はすぐさまそれを実行に移してしまった。その行動力の速さに俺は何も言うことができなかった。着々と地盤を築いていくこの王を見て俺は、本気でアガルタに永住するのではないかと一抹の不安を覚えるのだった。


◆ ◆ ◆


メインティア王がアガルタで自由を謳歌している間も、メイとシディーはハウオウロの実験を続けていた。この物質は調べれば調べるほどにいろいろな可能性を持っていることがわかり、二人は時折夜遅くまで議論を交わすようになっていた。


そんな中でも、特に電気を使った実験に関しては何も言わなかっために、それはもう、手法としては採用されないのだろうなと考えていたのだが、その日の夜、シディーが髪の毛をチリチリにした状態で戻ってきて、家族全員で驚愕したのだった。


一体どうしたと聞いてみると彼女はこともなげに、爆発に巻き込まれたと言ってため息をついた。


「……爆発ってなに?」


「出力を上げすぎた」


「もしかして、メイシディンを使った、ってことか?」


「ちゃんと計算したつもりだったんだけれどなー」


シディーはさも残念と言いたげな表情をしているが、あのメイシディンもまた、実験段階だ。どの程度の空気と混ざれば爆発を引き起こすのかという明確な答えは出ていない。話題には出していないだけで、オリハルコンを使った実験は進められていたらしい。


リコが医師に診てもらった方がいいとシディーに勧めている。今すぐローニを呼びますわという彼女を、シディーが問題ないと言って必死で引き留めている。そんな彼女にメイが、部屋は大丈夫なのですかと心配そうに聞いているが、シディーは、問題ないと言って笑顔を見せていた。


とはいえ、状況が状況だけに、ローニには診察してもらうことで落着した。彼女には申し訳なかったが、夜の往診を依頼し、そのお礼にペーリスがドラゴンの唐揚げをたくさん作ってもらった。ローニは大いに恐縮し、そんなことをしていただかなくても大丈夫ですと言っていたが、そう言いながらも喜んで持って帰っていたのだった。


シディーの体調は問題なく、チリチリにやけた髪の毛もそのままで問題ないらしい。ヤレヤレ一安心と風呂に入り、寝室で横になっていると、シディーが入ってきた。髪の毛は少し濡れているが、先ほどよりはマシになってはいたが、やはりクルクルになった毛は戻らないらしい。気の毒だなと思っていると、彼女は俺に近づくとすぐに太ももの上に乗ってきて、俺の胸に顔をうずめた。


……いつもの彼女とは違う振る舞いに少し戸惑う。こんなに積極的なシディーは初めてではないだろうか。


「……今日は、乱暴にしてもらっても、いい」


「……どうしたんだ?」


「実は……部屋、少し、壊れちゃった」


「壊れた?」


「大したことはないんだけれど……。壁が、ね。ちょっと……」


「どこの部屋だ?」


「新しい研究室の、西側の、部屋……」


「ああ、あそこか。メイシディンを研究する用の部屋だったな。え? でも、あそこは結構厚めの壁を拵えたつもりだけれど……。ひびが入っちゃった?」


「ヒビ、というより、ちょっと壊れちゃった」


「壊れた? どういう状況?」


「部屋の半分が、吹き飛んじゃった」


「……それ、ちょっとじゃねぇだろう」


「だから、お詫びに、今日だけは乱暴にしてもらっても……」


「シディーを乱暴に扱ったところで、お部屋は元には戻らないと思いますが……」


「だから……。明日にでも、リコ様やメイちゃんには内緒で直してほしいんだよね」


「状況を見ないと何とも言えないけれど、あの部屋の半分が吹っ飛ぶということは、相当の爆発力だよな。よくこの程度で済んだよね」


俺はそう言ってシディーの髪を撫でる。


「……別の部屋に居たんだよね」


「え?」


「メイシディンのこと忘れてて……気が付いたら爆発に巻き込まれてた」


「……ダメじゃん」


よほど悔しかったのか、落ち込んでいるのか、シディーは俺の胸に顔をうずめながら、両手の拳で俺の肩をポカポカと殴った……。

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