表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
結界師への転生  作者: 片岡直太郎
第五章 新・ジュカ王国編
112/1089

第百十二話  天国と地獄

黄金鳥は叫び続けている。必死で逃げようとしているが、俺の結界に阻まれて移動が出来ず、かなり戸惑っている様子だ。


フェアリードラゴンたちに言わせると、黄金鳥は速いには速いが、自分たちほどではないという。彼らにしてみれば、え?その程度なの?という感じだったそうだ。


『お前らの成果は素晴らしい。大変に満足した。今後、お前たちに暖かく、花が咲き乱れ、そして水のきれいな土地を用意しようではないか』


『ありがとうございます!』


「ご主人、そんなことを受け合って大丈夫でありますかー?」


「フェアリを見つけた場所があるだろう。あそこに結界を張ってやれば問題ない」



一仕事を終え、ちょっと早いが昼飯を食うことにする。フェアリードラゴンたちにもエサを渡してやる。飯を食いながら、フェアリードラゴンのサダキチと話をしていると、ヤツらの生態が分かってきた。


彼らの主食は花と言われているが、基本的には何でも食べるらしい。武器と言えば、羽から出る鱗粉であり、幻惑、混乱、快楽など精神的に影響を及ぼす効果のある粉を精製できるという。当然、色々な匀いも出すことも出来る。しかし、獲物をおびき寄せても力が弱いため、あまり狩は得意ではないらしい。そのため、比較的狩りやすい植物の花などを食べるのだという。


『力が弱いくせによく俺を襲おうと思ったなー』


俺には全くダメージを与えられなかったが、彼らからしてみれば決死の攻撃であったらしい。その上、色々な鱗粉で攻撃もしていたのだが、全て結界に阻まれていたのだそうだ。


『ま、俺の配下にいる限り食いっぱぐれはないから、そこは安心するんだな』


非常食用に作った弁当だが、美味い美味いと言って食っている。彼らにしてみれば、天国のような環境のようだ。ちょっとの仕事で、腹いっぱい食えるのである。その上さらに、俺たちの弁当にも興味があるようだが、これは食わせられない。まあ今後、大きな成果を上げた時に食わせてやることにしよう。


デザートも食い、一段落した俺たちは、黄金鳥の見張りをフェアリードラゴンたちに任せて、再びイリモに乗ってルノアの森の上空を移動する。そして飛び続けることわずか5時間、俺たちが目指す場所が見えてきた。


「ジュカ王城か・・・懐かしいな」


一見すると、王都はそのままの形を維持しているようだ。俺は久しぶりに「千里鏡」を取り出して、王都を観察する。すると、


・・・見てはいけない物が見えてしまった。


王都の城壁沿いに、人がぶら下げられていた。どれもひどく傷つけられているため、おそらく死体なのだろう。それにしても夥しい。地獄絵図という言葉がピッタリの、死屍累々の惨状だ。ソレイユたちが言っていた、残虐非道な連中であることは間違いなさそうだ。


城壁の上には人は見当たらない。城門の上に数名の、全身を黒い鎧で包んだ兵士が警護しているのが見えるくらいだ。王都の中は、かなり鎧の兵士が目立っているものの、市などは開かれているようだ。


それにしても、城壁の損傷がひどい。俺もかなりぶっ壊したが、今は城壁全体にひび割れたり壊されたりしている。


「イリモ、フェリス、取りあえず、下に降りよう」


森の中で一旦結界を張って休憩する。周囲は日が傾きかけてきている。


「さて、本格的な作戦を立てなきゃいかんな。それには敵を知る必要がある」


「吾輩に任せていただきたいでありますー。城内は勝手知ったる場所でありますからー」


確かにゴンは元々ジュカに遣わされた白狐だった。しかも、気配を完全に消すことが出来るので、隠密行動をさせるには打ってつけだろう。


「わかったゴン、じゃあ日暮れまで城内の探索をお願いできるかな?」


「お安い御用でありますー」


「一応結界はかけているが、油断するな。ヤバイと思ったらすぐに逃げてこい」


「了解でありますー」


そう言ってゴンは姿を消した。日暮れまであと二時間ちょっと。俺は何をしようかと考えていると、フェリスとルアラが手持無沙汰そうだ。


「ご主人様、私たちは何をすればいいでしょう・・・」


「お前たちはそうだな・・・。そうだ、黄金鳥のから揚げを作れ」


早速、黄金鳥をこちらに転移させる。無限収納から料理セットを出してやる。


「この鳥は死んだらすぐ腐り始める。どれだけ素早く料理するかにかかっている。できるな?」


「「お任せください!」」


ルアラが鉢巻のようなものをしているが、頭の角に引っかかっていて、何やらいびつな形になっている。まあ、これはご愛敬だろう。


早速彼女らは調理に入った。思った以上に下処理が早い。一匹を処理するのに30秒程という超早業だ。風魔法を上手に使って、血抜きを一瞬で終わらせている。これならば大丈夫そうだ。


俺は安心して魔力探知を行う。


・・・驚いたことに、結界師らしき魔術師が2人しか見当たらない。通常、数週間かけて遠征する行軍には、結界師が必須である。道中の森などで魔物に襲われる危険があり、そのためにも結界師は通常よりも多めに従軍させるというのがセオリーなのだ。


他にも魔術師はいるが、数名である。強い魔力を持った者はほとんどいない。この魔術師たちはおそらく、回復用なのだろう。


これだけでは何とも言えないが、奴らはもしかして、俺が作った結界石のようなものを持っているのかもしれない。そうであれば、この編成には説明がつく。


探知範囲を広げてみるが、やはり大きな魔力は感知できない。精々、大きな魔物の魔力を感知するくらいだ。


『ご主人、ご主人』


ゴンから念話が飛んでくる。


『王都内に入ったでありますが、ひどい有様でありますー』


『どうした?』


『王都内は遺体だらけで、かなりの住人が殺されているでありますー』


『そうか・・・生存者はいないのか?』


『いいえ、生存者はいるでありますー。どうやら、敵に食料などを出さなかった商人や住人は、まとめて殺されたようでありますー』


『王都内の様子はどうだ?』


『黒い鎧の武者が町を制圧しており、かなり厳しい監視の状態に置かれているでありますー。町の住人から頻繁に食料を強奪しているようでありますー』


『わかった。そろそろ戻ってくれ』


『了解したでありますー』


およそ30分後、ゴンは戻ってきた。王都を出る時、たまたま兵士たちの会話が耳に入り、聞いていたところ、どうやら彼らが装備している鎧には魔法をはじく効果が付与されているらしい。そして、町から徴収できる食料もほぼ尽きたため、西側の町に徴収に行く予定であることもわかった。


「ロクでもない奴らだな。補給ってのを考えてねぇんだな」


「そのようでありますなー」


「よし、わかった。これだけの情報があれば十分だ。作戦は立てられる。ゴン、ご苦労だった。フェリス、ルアラ、そろそろ屋敷に帰ろうか」


黄金鳥の処理は100羽くらいが終了していた。アツアツの美味しそうなから揚げが出来上がっている。一口つまんでみると、実にうまい。この味、コク、文句のつけようがない。


それを無限収納に入れ、フェアリードラゴンたちの下に転移する。から揚げをおすそ分けし、お弁当をだしてやる。ヤツらもかなり喜んでいるようだった。その光景に満足しつつ、俺たちは屋敷に転移したのだった。


「・・・そんなにひどい状態でしたの?」


「ああ、ゴンの話によると、かなりの住民が殺されているらしい。千里鏡で見ても、城壁に・・・」


食事時だということを思い出して、俺は思わず話を打ち切る。


「まあ、何だ。何とかするよ。明日は出発前にクルムファルに行く。クノゲンの部隊を借りていくぞ」


「まあ、クノゲンを?彼らもかなり訓練を積んでいますけれど、300人ほどしかいないのですよ?ラマロン軍と戦うには人が少なすぎますわ」


「いや、まともに戦うわけじゃない。ちょっと作戦があってね。それがうまくいくといいんだけど・・・。まあ、ダメそうなら早々に撤退するよ」


「是非、そうしてください。絶対に死なないでくださいよ?」


「ご主人の結界は最強でありますー。間違っても死ぬことはないでありますよー」


「それにしても、このから揚げ、美味しいです」


「メイも気に入ってくれたか!」


「はい、とても美味しいです。できればこの鳥を養殖したいですね」


「あと200羽くらいいるから、それを養殖しても面白いな」


「私なりに一度考えてみます。できれば実物を一度、見せてくれますか?」


「いいとも!黄金鳥がいつでも食べられるなんて、本当に夢のようだ。メイ、是非、頑張ってみてくれ!」


「ハイ!」


フェリスもルアラもフェアリも手を叩いて喜んでいる。本当に、我が家だけは平和だ。ジュカ王国の地獄ぶりと比べると、全くの正反対だ。


俺はそんなことを考えながら、明日の作戦のことを考えていた・・・。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ