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結界師への転生  作者: 片岡直太郎
第三十四章 失敗からの創造編
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第千百十九話 バカ殿を救ったゾ!

一目見て、誰だコイツはと思ってしまった。それほど、彼の外見は変わってしまっていた。


まず、顔が髭に覆われてしまっている。それに、かなり痩せている。もともと細身の男だったが、そこからさらに痩せてしまっている。いわゆる骨と皮だけの状態になっていて、まるで幽鬼のような姿になっている。ただ、彼は一度、こんな感じになったことがあるので、その点は驚かない。俺が驚いたのは、その眼に全く生気がなかったことだ。


このバカ殿の一番の特徴と言えば、爛爛と輝く眼だ。ある意味で狂気を感じさせる眼の光。きっとこの眼で女性を口説き落としてきたのだろうし、女性もそれにビビって抵抗できなくなっているのだろうと思ったほどの光が今は全く失われて、別人のようになっている。


いつもはしゃんと伸びている背筋も、まるで老人のように曲がっている。目の前に現れた男はとても現役の王たる威厳も品も全く感じさせない、普通のやせこけた男だった。きっと町ですれ違っても俺はこの男をメインティア王と認識することはできないだろう。そう思わせるほどに、男の風貌は変わり果てていた。


そんな彼を大上王は苦々しい顔で眺めている。


「ここ数日は、反省を促すために自室に閉じ込めておりましたのじゃ。むろん、食事の類は与えておるのだが、一切手を付けぬ。儂への当てつけであろうが……。愚息の部屋は兵士をおいて常に監視しているが、呆けたように椅子に座ったまま窓の外を眺めて一日を過ごしている。どこまでも腐った男じゃ。その性根を叩きなおそうと儂はこの者を毎日走らそうと考えておったが……。おい、どうじゃ。アガルタ王がそなたをしばらくアガルタで預かりたいと申しておられる。どうするかは、己で決めるがよい」


ややあって、メインティア王は小さな声ではい、と呟いた。


「はい、ではわからぬ。行くのか、行かぬのか。返答せい!」


「参ります」


彼は宣言をするかのようにはっきりとした口調でそう言い切った。その様子を見て大上王は、さも残念という表情を浮かべた。


「一体儂はどこでどう、教育を間違えたのか……」


「別に間違いではないと思いますけれど……」


「なに? このような愚かな男に育ってしまったにもかかわらず、間違いではないとはどういうことか」


「親の務めは、子供が五体満足で成人させることだ、私の祖母がそう申しておりました」


「そうかもしれぬが、この者は王位を継ぐものである。現在この、フラディメ王国の王である。王たるもの、家来たちの範とならねばならぬ。国の民を幸福に導かねばならぬ。この男は、何一つそれを為しておらぬ」


「そう、ですか、ね。今のところ、フラディメは平和に見えますが……。まあ、それは大上王さまのお力あってのことかもしれませんが、それでも、王がよろしくなければ、どこかで反乱の一つも起こるものです。これまで私は貴国を見ておりますが、そうした出来事はなかったと記憶します。ご家来たちも、パターソンを含めて皆、穏やかな方々ばかり。確かに王としていかがなものかと思う振る舞いもないとは言えませんが、在位している間、フラディメに大きな混乱を引き起こしていないという点は、褒めてよろしいかと思います」


「ぬぬぬ……」


「お腹立ちであれば恐れ入ります。ただ……。あまりお怒りにならないほうがよろしいかと思います。それは、妻のメイも心配していますから……」


「なに、メイリアス殿が? 儂のことを?」


「左様です。怒りという感情は知らず知らずのうちに体にダメージを与えるのだそうです。こう申し上げては失礼になるかもしれませんが、大上王様はよく怒鳴り声をあげられます。大声を上げるとそのときはスッキリするかもしれませんが、やはり、見えないところで体はダメージを受けるのだそうです。妻のメイリアスはその点を心配しております。どうぞ、お心やすらかにおいでいただければと存じます」


「う……うむ。しかし、じゃな……」


「わかります。よくわかります。俺もそうです。思った通りに家来たちが動いてくれないときは、腹が立ちます。思わず声を上げてしまうこともあります。ただ、そのあとで自己嫌悪に陥ることが多いのですが……。私も慣れない王様という立場になった当初は、結構それで悩んだこともあります。そのとき、妻たちからのアドバイスは、それは、私は、相手に期待をしすぎているということでした。人は、期待を裏切られたときに怒りを覚えます。その期待値が大きければ大きいほど、怒りの大きさも比例するのだそうです。だから俺は、あまり期待しないようにしています。期待通りの結果が出れば大儲け……。そう思うようにしたら、心がずっと楽になりました」


大上王は俺の話をじっと聞いていた。特に反論はなかった。俺たち二人の間に、ちょっとした沈黙が流れた。そのときを見計らったように、パターソンが割って入り、国王様をよろしくお願い申し上げますと言って頭を下げた。大上王は、何も言わなかったが、俺を見て静かに、小さく頷いた。


「いや~君のセリフ、よかったよ。あの父上をよく黙らせたね。本当に、胸がすく思いだよ」


俺たちは馬車に乗ってアリスン城を後にしていた。城内に転移結界を張ってはいるのだが、それはあくまで緊急用であって、今回は公式にフラディメを訪れ、バカ殿をアガルタに連れて帰るというミッションであったために、国内に張ってある転移結界を利用したのだ。


俺たちが乗っている馬車もまた、アガルタから転移させたものだ。フラディメの人々は、俺が長い旅をしてこの国にやって来たのだと思っている。さらに言うと、馬車の御者を務めているのは、ホルムだ。彼は今、着なれない服を着ながら馬を操っている。帰ったら彼にボーナスを出さねばならない。


バカ殿は、馬車に乗り込むや、謁見の間に引き出されたときとは別人のように元気になった。あれはフリをしていたのかと思っていたが、そうではないらしい。そのときまでは本当に気力ゼロの状態だったというのだ。ではなぜ、こんなに元気になったのかと言えば、俺の話を聞いて、復活したというのだ。


聞けば彼は相当に精神的に参っていたらしい。自室とはいえ、二十四時間兵士に見張られて、満足に身動き一つとることができなかったらしい。それなら好きな絵でも描いて暇をつぶせばよいではないかと思ったが、それは専用のアトリエに置いてあるそうだ。ペンか何かでとも言ってみたが、彼の寝室は、女性たちとコトに及ぶための部屋であって、そうしたものは置いていないのだという。むろん、隣に執務室があり、そこにはペンや紙などの類は置いてあるが、そこにも行くことはできずに、ただ彼はベッドルームで軟禁されていたのだそうだ。


結局、やることのない彼は日がな一日椅子に座って、ぼんやりと時を過ごすしかなかったのだそうで、そうなると、すべての思考が止まってしまったのだそうだ。大上王は、シンプルな部屋に閉じ込めて、そこで己を振り返らそうとしたのだろうが、完全に裏目に出た形となっていた。


「やっぱり君が来てくれてよかった。やはり父上を説得するには、父上よりも上の立場の人間からモノを言ってもらうに限る。それができるのは、世界広しと言えど、君かメイリアス王妃くらいだよ」


「いや、メイはわかりますが、俺は別に……」


「いいや、君の方が立場は上さ。考えてもみ給え。父上は死んでもメイリアス王妃に触れることすらかなわない。そこに行くと君は、メイリアス殿の体に触れることができる。乳も、尻も、あの体を自由に弄ぶことが。この点だけを見ても、もう、十分に君の方が上さ」


……俺はこの男を引き取ると言ったことを、少しだけ後悔した。

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― 新着の感想 ―
ブレねぇなぁコイツ……敬意には値しないが(呆)
いつも通りと言えば、いつも通り。
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