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結界師への転生  作者: 片岡直太郎
第三十四章 失敗からの創造編
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第千百十一話 アガルタの未来が変わるかもしれないゾ

ヴィエイユとリボーン大上王。この二人の物事の捉え方は似ているようで実は全く異なるものだった。


リボーン大上王は、新しい技術が生み出されたことに対して大いに喜んでいた。汚水が浄化されて川に戻されるまでの行程は、断片的ではあるが、彼がこれまで書物などを通じて学んできた知識がふんだんに取り入れられているため、理解することは容易であった。彼はその話をメイから説明されたとき、膝を打って感激したが、その一方で、どうしてそれを思いつくことができなかったのかと、内心、悔しさを感じたのだった。


濁った水をしばらく放置しておけば、水より重い物質は沈殿するということは、彼はすでに子供のころから知っていた知識だった。それを汚水処理に転用し、済んだ部分の水を取り出して消毒し、川に戻す。それは一見すると何でもないようなことに思えた。そんな、何でもないようなことを思いつかなかった自分自身を彼は恥じたのだった。


もちろん、水を処理する工程は、彼の知らない知識も多かった。特にガルマシオンホンの粉を用いて汚物の沈殿を促す、などという新発見の技術は、彼を興奮させて止まなかった。大上王はそれこそ、アガルタ大学に泊まり込みでこれらの実験に付き合い、さらにはどの分量が効率的に沈殿を促すことができるのかという点に注力するようになった。彼はいつになく活動的になり、大学の研究室と図書館、さらにはフラディメの書庫に足しげく通うようになっていた。


リノスはさすがにそれでは、フラディメの政治が停滞しないだろうかと心配したが、逆にメインティア王からは、煩い親父がいなくなって生活がしやすいと礼を言われる始末だった。挙句に彼は、もっとたくさんの新技術を生み出して、父がアガルタから離れられないようにしてほしいと、本気とも冗談ともつかぬお願いをされて、思わず苦笑いを浮かべたのだった。


大上王の情熱は、メイをはじめとするアガルタの研究者たちも舌を巻くほどであった。彼は昼となく夜となく実験に携わり、より効果的効率的に水の処理が可能となるように努めた。後に彼はアガルタから勲章を授与されるのだが、片意地とも言えるほどの頑固さを発揮してそれを断り、メイの説得で渋々それを受けてもらうのだが、それはまた、先の話である。


大上王の意識は、新技術をさらに発展させることに全精力を注力するというものであったが、一方でヴィエイユの捉え方は、彼とは少し違ったものであった。


彼女がその技術を聞いたとき、その有益性を瞬時に理解した。まず、彼女が思ったのは、この技術は高く売れるという点だった。今やガルマシオンホンの生産高が世界一となったアガルタが、これを活用して新技術を開発した。つまりは、これはアガルタオリジナルの技術だ。ガルマシオンホンの交易と相まって、それこそ、天井知らずの金がこの国に流れると読んだのだ。


ヴィエイユであれば、この技術を他国に売り渡す。むろん、国内で育成した技術者を派遣して、他国のものには触れさせない。そうすることによって、得られる利益は計り知れないからだ。


まず、技術は言い値で売れる。敵対する国には、その国の経済が疲弊するほどの価格を付けて売ればいい。何より、自国の技術者を敵国に安全に送ることができるのだ。そうすることによって、そこからその国の情報を吸い上げることが可能になる。


むろん、敵もバカではないから、ありとあらゆる対策を取ってくることだろう。それらを掻い潜って自国の利益を高めるように持っていく。ヴィエイユはそんなことを考えるのが大好物であった。


彼女の妄想は止まらない。あの、いけ好かない王の国にそれを売ることができたならば、どうしてやろうか。最初は安価で売り、ある程度馴染んできたらば、一気に価格を吊り上げる。それがなくては国内は汚物だらけになる。人は、一度快適な環境に慣れてしまうと、二度と元には戻れなくなる。国内は混乱状態に陥る。そうなれば、私の体を手に入れよう、などという薄汚い欲望を抱いている場合ではなくなる。


きっとあの男は、醜いあの顔をクシャクシャにして私に許しを請いに来ることだろう。あの偉そうにふんぞり返っている王の醜悪な面構えが目に浮かぶ。何と痛快なことだろう。その彼を冷たくあしらう。死ぬなら勝手に死ぬがいい。国が滅ぶのであれば勝手に滅べばいいと言ってやるのだ。あの王の顔はどんな風に変わるだろうか。


そこまで考えて、ヴィエイユは、いけない、いけないと考えを元に戻す。


今回のことは、新しい、しかも画期的な技術を開発したというだけではない。アガルタという国が、アガルタ王リノスから脱却しようと、その第一歩を踏み出したように彼女には見えていた。


今のアガルタの強さは、あの王あってのものだ。軍事にせよ政治にせよ、あの王のスキルなくしてはここまでの発展はなかった。それは別にヴィエイユが考えるまでもなく、それなりの能力を持った王であれば、誰もが考え付くことだ。人によっては、現在のアガルタには歯が立たぬので、実際に動き出すのはあの王が死んでからと決めている者さえいる。よほどのことがない限り、アガルタ王より長生きできる可能性は低いのだが、その王は遺言としてアガルタ打倒を言い残すのだという。しかもその家では、年が明けると王と宰相が秘密の部屋に二人きりで籠り、猿芝居を演じている。宰相が恭しく王の前に控え、アガルタ討伐の準備が整いましたと言上する。それを受けて王は、まだ時節が早い、と答えるのだ。


ヴィエイユはこの話を聞いたとき、思わず吹き出した。そんなことを何度繰り返したところでアガルタに勝てるわけはないのに、それでも己の自尊心を満たすために猿芝居を打っている、その考えが哀れでもあった。


だが、いまこのときにアガルタ王が死ねば話は別だ。さすがにすぐに崩壊することはないだろうし、あの国が抱える人材は非常に優秀だ。数十年の間は、あのリコレットを中心に、アガルタ王の妃たちが国を動かしていくことだろう。だが、現在の盤石さは保てない。何より、都に張っている結界を維持することができない。それだけでも、大いに付け入るスキを与えることになるのだ。


しかし、それは非現実的だ。あの王は殺すことはできない。おそらく、アガルタの者たちもそれをわかっている。わかっているからこそ、彼らは強気に各国との交渉に臨めるのだ。


そんな中、彼の能力を離れて、脱却して国を運営する方向にかじを切る、しかもそれは急進的ではなく、あくまでゆっくりと移行してくのだとすれば、アガルタの強さは維持されることになる。下手をすれば、ヴィエイユとて、寝首を掻かれる恐れもあるのだ。


「事の成り行きを見定めなければいけないけれど、もう少し、あの国とかかわりを持っておいたほうがいいかもしれないわね。アガルタ王様個人ではなく、国として、ね」


まるで自分に言い聞かせるようにして彼女は呟く。だが、その具体的な策はいくら考えても出てこなかった。頭の中に浮かんでは消え、するのは、何とかしてあの王と結婚するという考えで、それは到底実現することは不可能であった。一瞬、子息のイデアを篭絡する、ということも考えたが、それをすれば間違いなくリコレットが激怒するであろうし、なぜか、彼女自身もそれをする気には到底なれなかった。


少し考えを変えようと、彼女はゆっくりと立ち上がり、後ろを振り返る。眼下には白で統一された、アフロディーテの美しい町並みが広がっていた……。

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― 新着の感想 ―
更新ありがとうございます。 1111話達成おめでとうございます。 悪足掻きのヴィエイユ… そろそろ婚期が…
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