第百十話 会いたかった~Yes!君に~
「さて、こいつらをどうするかだな・・・」
襲ってきたフェアリードラゴンたちを結界の中に閉じ込めたまではよかったものの、コイツらをどうやって移動させるのかが問題なのだ。
「クルムファルに預けるのはいかがでありますかー」
「いや、既に館にはイトラが居るし、リコたちにはゲーキ達ゲュリオンの面倒も見てもらっている。これ以上の負担はかけられないだろう」
「で、ありますかー」
「よし、ここに置いて行こう」
「キャァァァ」
「アキャァアア」
結界内が騒がしくなる。
『待ってくれ!さっきと話が違うではないか!我々を守ると・・・』
『うるせぇよ。色々あってお前らを連れて行けねぇんだよ。迎えに来るからしばらくそこに居ろ。結界は張っておいてやる』
『そんな・・・』
『お客人、我らの仲間が見つけて襲っても、文句は言えまいぞ?』
『ああ、わかっている』
俺は俺たち以外には見えないように結界を張りなおす。
『何と・・・消えた・・・』
『お前たち、姿は見えなくしたが、声は聞こえる。あんまり騒ぐと気づかれるから気を付けろよ』
そう言い残して俺たちはイリモに乗り、上空へと舞い上がった。それに釣られてクルルカンも羽ばたいた。
『では、案内する。付いてこられよ』
俺たちはクルルカンに先導されて、再び山頂付近を進む。フェアリードラゴンたちから色んな「念話」が飛んできたが、ちょっと進むとそれは聞こえなくなった。どうやら、「竜魔法」の「念話」の範囲は50メートルくらいのようだ。
しばらく進むと右手にさらに大きな山が見えてくる。
『お客人、あの山の向こうは白竜の縄張りになる。近づかぬように』
そう言って彼らは方向を転換させた。そこからは断崖絶壁の、それこそ目もくらむような山岳地帯を抜けて行った。数年前にここを超えた時は夜だったので気づかなかったが、かなりの危険地帯を俺は進んでいたことになる。
そして飛び続けること1時間、ようやくなだらかな高原地帯が見えてきた。
『お客人、あのあたりがフェリスとの合流地点になる。あちらで待たれよ』
『ありがとう』
『間もなく来るであろう。あとは、フェリスが案内する』
イリモは高度を落としていく。すると、高原に何やら汚れのようなものが見えてきた。近づいてみるとそこには一匹の緑色のドラゴンが倒れていた。体長約3メートルくらいの、そこそこデカイドラゴンだ。
『おいクルルカンたち、ドラゴンが倒れているが、コイツはどうするんだ?』
『その倒れているのが、ラースだ』
『ラース??』
俺は慌ててそこに向かう。確かに、ラースの面影はある。しかし、ピクリとも動かない。
「おい、ラース!ラース!俺だ、リノスだ!ラース!」
全く反応がない。イリモがラースの顔を舐めている。ゴンも心配そうに見ている。
「ご主人、MPがゼロなので気絶しているでありますー。その上、怪我をしているのと、飢餓状態でもありますー」
『おいクルルカンたち、ラースは一体どうしたんだ?』
俺の呼びかけに答えることなく、彼らは、そのまま別の方向に向かって飛び去っていった。
ラースを鑑定してみる
ラース(クルルカン・12歳) LV19 飢餓
HP:13/772
MP:0/354
風魔法 LV3
火魔法 LV2
肉体強化 LV3
気配探知 LV1
魔力探知 LV1
飛翔 LV2
教養 LV2
竜魔法 LV1
麻痺耐性 LV2
毒耐性 LV2
なかなか高いスキルだ。まだ幼竜だろうが、その中ではトップクラスじゃないだろうか。とはいえ、このままにしておけば下手をすると死んでしまう。早速、俺は回復魔法をかけ、MPを補充してやる。
「ゴゥオァァァァァーーーーー」
「ご主人様―!」
バカでかいクルルカン2匹とフェリスが空から降りてきた。2匹とも15メートル以上はある。空が覆いつくされている。
「フェリス、これ・・・何だ?」
「ウチの両親です」
「両親?」
『リノスさん、ラースの時は本当にお世話になりました。それに、ふーちゃんのこともすいません』
『あ・・・いや・・・それほどでも・・・』
『ご挨拶に伺いたくても伺えませずに、失礼しました。つねづねお会いしたいと思っていたのです。先ほどふーちゃんから様子は聞きました。色々とご迷惑をかけますが、よろしくお願いしますね』
『汝がリノス殿か。初めて御意を得るフェリスの父だ。今後もよしなに頼む。先ほど、若い者たちから話は聞いた。フェアリードラゴンについては、ご安心召され。手出しをせぬように申し伝えておいた』
『ありがとうございます・・・』
『よいよい、そのように畏まらずとも。娘と倅が世話になっておる大恩人だ。一度、礼を言わねばと思うておったところだ。会えてうれしく思うぞ』
『いや・・・そのようなお気遣い、いただきまして・・・』
『まあ、我儘な娘によって、気に入らぬことがあれば、いつでも返してくだされ。もし、気に入ったのであれば、ずっと傍に置いていただいて構わぬ。汝の傍におれば、我は安心だ』
『パパ、もうそのくらいで』
『じゃあ、ふーちゃん、ママそろそろ帰るわね。しっかりね』
『いつでも帰ってきてよいのだぞ、ふーちゃん』
『ダメにきまってるでしょ!掟忘れたの!』
『じ・・・冗談だ。ママ・・・』
奥さんに引っ張られるように2匹のクルルカンは空に消えていった。
「何なんだ、あれ?」
「両親がどうしてもご挨拶をしたいというもので・・・」
「あんなバカでかくて雄々しいクルルカンが「ふーちゃん」って・・・」
「そこですか!?」
しばらく呆気にとられてしまったが、ハッとラースのことを思い出す。
「あ、お前の両親ラースを連れて帰るの忘れてるぞ!ラースどうして倒れてるんだ?」
「ああ、自分が悪いんです。ほっとけばすぐに目覚めますよ」
ビックリするくらいにアッサリした対応だ。一体何があった?ドラゴンの家族ってこんなもんなのか?
ちょっと呆れていると、フェリスの腹の鳴る音が聞こえる。
「ああ、腹減ってるだろ?はい、リコが作ってくれた、特製のお弁当だ」
無限収納からお弁当を出す。今日はかなり気合が入っていて、大きなバスケットが4つもある。よく食うフェリスのことだ。昨日持たせた分では足りないだろうと、昼飯をかなり大盛りにしてくれたのだ。
「うわ~おいしそ~いただきます!」
できたてアツアツを入れたので、とてもいい匂いがする。フェリスは美味しそうに食べている。そんな光景を見ると腹が減ってきた。俺も食おうと思った瞬間、景色がすごいスピードで流れていく。
・・・気が付くと、空を見ていた。体が重い。そして動かない。ふと横を見ると、ドラゴンの腕があった。俺はラースに組み敷かれていた。
『リノスさぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーン』
うおおおおおー頭の中がガンガンする。コイツ全力で叫んでやがる!
『会いたかったです会いたかったです会いたかったです会いたかったです会いたかったです会いたかったです会いたかったです会いたかったです会いたかったです会いたかったです会いたかったです会いたかったです会いたかったです会いたかったです会いたかったです会いたかったです会いたかったです会いたかったです会いたかったです会いたかったです会いたかったです会いたかったです会いたかったです会いたかったです会いたかったです会いたかったです会いたかったです会いたかったです会いたかったです会いたかったです会いたかったですぅぅぅぅぅぅぅ!!!!!』
うあだだだだだだーーーーー頭イタイ頭イタイ!!!
「アンタ何してんのよ!」
フェリスがラースをヒョイと持ち上げる。しかし、ラースは俺を離さず、俺もそのまま持ち上げられる。ラースは滝のように涙を流して泣いている。ラース、お前の涙で結界が濡れちまって何も見えねぇよ!
「離しなさい!ご主人様を離しなさい!」
ラースをユサユサゆする。フェリス、俺も揺れてるんだ、勘弁してくれ!
「離しなさいったら!」
ラースの体を掴んでいる手を放したその瞬間に背中に手刀を入れる。声を出す間もなく俺たちは地面に叩きつけられる。
「フ・・・フェリス~」
「ああ!すみません、ご主人様!」
フェリスはラースを持ち上げ、まるでゴミでも捨てるかのようにポイっと投げ捨てた。
「大丈夫でしたか?」
「大丈夫なわけないだろう」
「すみません、弟が・・・。ちょっとシメてきます」
「いや、いい」
俺は身悶えしているラースのところに歩いていく。そして、ラースの頭にそっと手をやった。
『久しぶりだな、ラース。泣き虫ぶりは相変わらずのようだが、ずいぶん強くなったみたいじゃないか!』
『リノスさぁん・・・会いたかったです』
またラースの目に、涙が光っていた。