第百九話 本日の、説教部屋行きです!
四匹のクルルカンは俺たちの上空を旋回している。どうやら俺を迎えに来たのではなく、この襲撃者たちを撃退しに来たらしい。と、いうことは、俺たちは既にクルルカンの縄張りに入ったことになる。
「これは、フェアリードラゴンでありますなー」
「フェアリードラゴン?フェアリと同じ種族なのか?色が違うぞ?」
「間違いないでありますー」
取りあえず倒れているドラゴンたちを結界内に閉じ込める。そして俺は上空で旋回しているクルルカンに「思念」を送る。
『俺はリノスだ。お前たちの仲間であるフェリスから、ここを通ることを許可されている。族長の許可も得ていると聞いている』
『貴殿は我らが客人。その旨は承知している。安心されよ。我らが縄張りに許可なく入った者どもに予告なく攻撃を加えたことは許されよ』
『このフェアリードラゴンはどうするんだ?』
『我らが食す』
『その前に、奴らに何故俺を襲ったのかを聞きたいが、いいか?』
『・・・よいだろう』
四匹のクルルカンは大きく旋回して降りてきた。一匹が5メートルくらいある。それが四匹とはなかなか壮観な眺めだ。
「さて、コイツらを起こすか」
結界内に大音量でメタルロックを流す。ものの数秒で全てのフェアリードラゴンが飛び起きた。「アギャァ!」だの「キャァァァ!」だの、鳴き声が喧しい。
『うっせぇぞコラぁぁぁぁぁ!!!!』
「ガァァァァ」
いきなり大声で「思念」を送ったので、フェアリードラゴンたちはビクっとして全員が静かになったものの、クルルカンたちにも伝わってしまったようだ。四匹とも頭を振っている。すまん。
『俺に攻撃を仕掛けてきたのは、お前らフェアリードラゴンか?一体何の恨みがあって攻撃してきた?』
・・・誰も返答しない。もしかして「思念」が伝わらない?いや、伝わってたよね?お前ら反応してたし。しかし、ヤツらに対話の意志がないということは、これ以上コイツらとかかわるのは時間の無駄だ。
『おい、クルルカン。コイツら食っちゃっていいぞ?結界解くと逃げやがるだろうから、全員殺しちゃってからでもいい?』
『本来は生きたままで食すのが美味いのだが・・・。奴らは足が速い。それも致し方あるまい』
『わかった』
『ま、待ってくれ』
『何だと?』
『待ってくれ』
『バカ野郎、さっきから待ってるじゃねぇか』
『すまない、待ってくれ』
『さっきから喋りやがるのはどこのどいつだ?』
一匹のフェアリードラゴンがおずおずと立ち上がり、ゆっくりと歩いてくる。
『すぐ来いコラァ!』
一瞬で俺のところに飛んできた。結界に顔をぶつけて蹲っている。あ、クルルカンの皆さん、また怒鳴ってごめんなさいね?あれ、ゴンたちも聞こえてるんだね。みんなも驚かせちゃったね。
『おい、早くしゃべれ、クルルカンのお兄さんたちがお腹を空かせているだろう?』
『いきなり襲ったのには、訳がある。我々は無暗に襲うことはしない。他のドラゴン族とは違うのだ。襲ったその訳をきか・・・』
『はよ言えコラァ!!』
『き、客人、少々落ち着かれよ』
『ああ、ごめんね。また驚かせちゃったね。すまんすまん。オイ、フェアリ―ども。お前らがチンタラしてるお陰でクルルカンの兄さんたちが迷惑してるやないかい!ウチの身内もエライ迷惑しとるやんけ!はよ言わんかい!何じゃいその訳っちゅうのは!』
『・・・貴様がシンジョ様を奪ったからだ』
『シンジョ~~~??』
『ご主人、フェアリ殿のことでありますよー』
『アホかお前ら。お前らの言うシンジョは勝手に俺の所に付いて来たんだ。人聞きの悪いこと言うな』
『ならば、シンジョ様を我らに返してもらいたい』
『断る』
『何だと!貴様、自分が何を言っているのかわかっているのか!』
『では聞くが、そのシンジョ様を返したところで、お前らは彼女をどうするんだ?』
『貴様に言うことではない』
『お待たせ、クルルカンの皆さん。食事の時間です』
『ま、待て!待ってくれ!話は終わっていない!』
『知らねぇよ』
俺は4匹のフェアリードラゴンに個別に結界を張り、クルルカンに投げる。彼らは即座にそいつらを口の中に入れ、かみ砕く。
「ガキィィィィーン」
「キャァァァァァーーーーーー」
「キュァァァァァァァァー」
「キューキューキューキューキューキュー!!!!!」
フェアリードラゴンたちがパニックに陥る。しかし、よく見ると食われたと思ったヤツらはまだ、クルルカンの口の中にいた。
『客人、これはどういうことだ?』
『ああ、ゴメン。結界を解除するのを忘れていた』
『早く解除しろ。いや、いい。このまま嚙み砕こう』
クルルカンの口の中にいるヤツらは必死に脱出しようとしているが、結界に阻まれて身動きが取れない。その上、彼らが顎に力を入れ、嚙み砕こうとするたびに結界にヒビが入っていく。
『貴様~』
フェアリードラゴンが俺を睨んでくる。
『お前、自分の立場をわきまえて物を言えよ。これはお前のせいでこうなったのだ。お前が俺をこういう行動に走らせたのだ。お前たちの命を握っているのは俺だということを忘れるな。次は、ない』
フェアリードラゴンたちは、身体を震わせながら俯いている。クルルカンの口の中で辛うじて生きている奴らは、「アキュゥ・・・」と声にならない声を漏らすことが精いっぱいの様子だ。
『最後に聞く。お前らはシンジョをどうするつもりだったのだ』
『・・・龍王様への生贄に』
『却下。そんな奴らに俺のフェアリ、ああ、お前たちのシンジョね。返せねぇよ』
『・・・』
『大体フェアリは俺が見つけた時には、片方の羽と角を失ってたんだ。それを治癒してここまで育ててきたのは俺だ。その俺に対して礼も言わず攻撃をしてくるなど、アホであるとしか思えん。そんなアホにウチの大事なペットを返せるか!』
『ペット?シンジョ様をペットなどと・・・』
『自分から望んでそうなったんだから仕方ないだろう』
『殺せ』
『ああん?』
『龍王様の加護を受けられぬ我々が、この先、生きていけるとは思えない。一思いに殺せ』
『いやだー私はまだ死にたくないー!』
『やめてくれー殺さないでー!!』
またしても結界の中が騒がしい。
『フェアリは、自分の命に等しい羽と角を犠牲にしてでも、この群れから逃げて正解だったな』
結界内が水を打ったように静まり返る。
『彼女は全力で自分の境遇を変えようと足掻いた。その結果、今の幸せな生活を手に入れた。それに比べてお前らは何だ?自分たちで何も努力しようとしないで、人に頼ろうとばっかりしやがって』
『しかし、我々の・・・』
『しかしもクソもねぇんだよ。そのしかし~ってのがお前らの未来を失くしていることになぜ気づかない?そんな言い訳考えてねぇで自分たちの力で生きていく方法を何故考えない。龍神もそんなお前らは守らないと思うぞ?お前らはシンジョに、龍神に、見捨てられるべくして見捨てられたんだ』
『・・・自分たちで生きていく方法』
『頑張って考えて、実践しときゃよかったな。たとえ失敗しても、何度もやり続ければそのうち正解にたどり着いたろうに。スキル的には使えそうなもの持ってたんだが、惜しかったな』
再び結界内に静寂が訪れる。そしてその周囲ではクルルカンが結界をかみ砕こうとしている音が不気味に俺たちの耳に響いていた。
『頼む。我が一族を助けてくれ。我らの命をあなた様に捧げる。あなた様の手足となり、盾となろう。頼む』
『はあ?お前、俺の話を・・・』
『お願いします!』
『頼みます!』
『お願い!』
『何卒!』
『私の命を!』
だあああああーうるせー。全員で念話を送ってきやがる。クルルカンも頭が痛そうだ。
『わかった!黙れ!うるせぇよお前ら!わかったよ!静まれ!』
ようやく混乱が収まってくる。
『・・・わかった。お前らを俺の配下としてやる。その代り、俺の命令は絶対だ。背くことは死を意味すると思え。しばらくは、この結界から出ることは許さん』
そして俺はクルルカンの口の中にいた奴らの結界を張り直す。そしてそいつらをこちらに移動させ、結界の中に放り投げる。
『客人、それはあまりに・・・』
『すまん。代わりと言ってはなんだが、これでどうだ』
無限収納の中からカースシャロレーを四匹出してやる。クルルカンたちは一口でそれを丸呑みしてしまった。
『うまい。美味いぞ客人。馳走になった。それでは、我らが麓まで案内しよう』
『すまないな。あと、フェリスと合流したいのだが・・・』
『それも心得ている。任されよ』
『そういえば、フェリスの弟のラースは元気にしているのか?』
『ラース?ああ、ラースは・・・』
『どうかしたのか?』
『我らに、付いて来れば・・・わかるであろう』
他の三匹も何もしゃべらない。イヤな予感が、ムクムクと胸の中に湧き上がってくる・・・。