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結界師への転生  作者: 片岡直太郎
第三十二章 オリハルコン研究編
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第千八十話 準備

掌を合わせて、頭の中でイメージを膨らませる。結界を張りながら、その中に雷を発生させる。雷光が轟いていて、部屋の中がストロボを焚いたような状態になっている。


「ふぅぅぅ」


息を吐きながら結界を転移させる。感覚的に、うまく転移させられたことを感じる。


「いくぞ」


誰に言うともなく呟くと、転移させた結界を解除する。その瞬間、俺はがっくりと片膝をついた。


「リノス」


「ご主人様」


リコとメイの声が聴こえてきて、我に返る。一瞬だが意識が途切れた。二人の声が聞こえてこなければ、気を失う可能性があった。


「……凄まじいな」


そう呟きながら、俺はゆっくりと立ち上がる。二人が支えてくれようとするが、大丈夫だと手で制する。ふと、目の前のシディーと目が合った。彼女は何かを確信した目で俺を見据えていた。


「結果を先に言うと、海底に転移させたガルマシオンホンの洞窟は、跡形もなく崩れ落ちた」


「……」


メイが絶句している。対照的に、シディーは予想通りといった表情を浮かべている。


「海底に行くことは、可能でしょうか」


「いや、それには及ばないだろう。地上に転移させる。そこで検証を行えばいい」


正直言って、爆発の威力は俺の想像を超えるものだった。俺が張った結界――これまでのなかで最高レベルの硬度を誇っていた――にヒビを入れていた。念のために二重に結界を張っていたことが幸いした。一枚だけなら、水圧でペシャンコになっていたところだ。


「爆発の検証は、どこか広い場所が必要になりますね。アガルタ国内でできないことはないですが、できれば砂漠で行うのが適当です」


シディーが口を開く。


「どうして砂漠なの?」


「ガルマシオンホンの粉に砂と水を混ぜ合わせて練れば、とても良質な粘土が出来上がります。ドワーフ工房で使いたいと思います」


「そうか。わかった。サンダンジのニケに話をしてみよう。イヤだ、とは言わないはずだ」


俺の言葉に、シディーは大きく頷く。


「海底の結界をサンダンジに転移させ、その際、結界内に雨を降らせてください。そうすれば、舞い上がっていた塵が落ちてきますので、結界を解除したときに……いや、待てよ?」


シディーが人差し指を顎の下に持っていき、何かを考えている。


「……作ればいいのか。銅で容器を作ればいいな。メイちゃん」


突然話しかけられたためか、メイがギョッとした表情浮かべている。見ると、どこから取り出したのか、紙を握り締めていて、そこには複雑な数式が書き込まれていた。もう爆発の威力を計算していたらしい。俺は思わず苦笑いを浮かべる。


ごめんなさいと言いつつ、メイとシディーが二人で何か話をし始めた。ヤレ、材質がどうの、高さがどうだの、幅がどうだのと込み入った話をしている。ちょっと、俺とリコが取り残されているなと感じていたそのとき、不意にシディーが俺に視線を向けてきた。


「リノス様、海底の結界は、どの程度維持することができますか」


「別にいつでも構わないよ。それこそ、十年以上は維持させる自信はあるよ」


「いえ、そんなにはいりません。二週間……いえ、十日、維持していただけますか」


「お安い御用だ。それだけの期間があれば、サンダンジに行って、ニケと話をすることができるな」


「そのときは、私も連れて行ってください」


「メイが? どうして?」


「砂漠とはいえ、サンダンジの領地を使用しますから、私の方からご挨拶をしなければなりません」


「別に構わないけれど……。別にメイが行くこともないと思うぞ? まあ、ニケは喜ぶだろうけれど」


「三人とも、お屋敷の中でお話をなさいな」


リコが呆れた表情を浮かべている。彼女に言われてしまっては、俺もメイもシディーも従わざるを得ない。やはり、リコの品性はどんな場面でも、言葉に説得力を持たせる。これは、習って身に着くものではない。リコは日々の意識で身に着くのだと主張するが、それは想像を絶する程の己を律する厳しさと、継続する力がなくてはならない。これはもはや、才能だと俺は思うのだ。


シディーが気体を入れた黒い箱を保存してくると言って、箱を抱えて転移結界に乗った。彼女はすぐに帰って来た。そのまま小部屋を出て、四人で仲良く屋敷に向かう。勝手口から入ると、ソレイユが待っていた。彼女も心配してくれていたのだ。


そのソレイユに実験は成功したと伝えると、彼女は嬉しそうな表情を浮かべた。


「何かお夜食でも」


ソレイユに大丈夫だと伝えて、夜も遅いので寝ることにする。俺はリコと共に寝室に入ったが、メイとシディーは明け方まで何やら話をしていたようだった。


三日後、俺は政務の間を縫って、サンダンジのニケに会いに行った。当然そこにはメイも同行した。ニケは俺たちを見ると、さも嬉しいと言わんばかりの表情を見せた。


「こんなに早く再びアガルタ王と会えるとは思わなかなった。歓迎しますぞ。メイリアス王妃も、お元気そうで何よりだ」


「はい。その節はご心配をおかけしました」


「うむ。世の中は訳のわからぬ輩も多い。もし、メイリアス殿を傷つけるような者が現れたら、遠慮なく言ってこられるがよい。このニケ、国をかけてその者を討伐しましょうぞ」


あまりにも過激なことを言われたので、さすがのメイも戸惑っていた。こうなることは予想できたので、俺はあまり彼女を連れて来たくはなかったのだ。


サンダンジの砂漠を使うことはすぐに許可がおりた。彼は国軍を向かわせて、周囲を厳重に警戒させようと言っていたが、それは丁寧にお断りをした。さすがに海底で爆発させて粉々になったガルマシオンホンの威力を検証させてくれとは言えず、どう説明しょうかと考えていたのだが、そこはメイが実にうまく説明してくれた。というよりヤツは、メイと話をするのが嬉しいので、話自体はあまり聞いていなかったような気もする。


十日後、シディーに呼び出されてドワーフ工房に行ってみると、そこには想像を超えたバカでかい建造物がそびえ立っていた。そこには遊びに来ていたイデアとピアがいたが、二人も想像を超えた大きさに、口をポカンと開けて、あんぐりとした表情を浮かべていた。


「とりあえずこれはまだ、仮組なの。あの上に大きな皿があるよね? あの上に結界を転移させて欲しいの。その際、結界の形状は変えられるよね?」


……何だか言葉がぞんざいになっている。これだけの建物を作ったことで興奮しているのか、ガルマシオンホンの爆発の威力をやっと調べられることにワクワクしているのか、詳しいことはわからないが、ともあれ、彼女のご機嫌がとてもいいのは確かなことだ。


ふと、背後から大きなため息が聞こえてきた。見ると、三人の老ドワーフたちが腕を組みながら、シディーが作った施設を苦々しげに眺めている。


「……まったく、大姫様も困ったものじゃ」


「仕事をそっちのけで何を作っているかと思えば、こんなもの拵えるとは」


俺の視線に気がついたのか、老ドワーフの一人が口を開く。


「大姫様はな、あの建物を拵えるために、パーツごとに作っておったのじゃな。それを一人で組み上げなさったは、まあええとして、それを繋ぎとめる作業が発生する。それは、だれがやるんじゃ。儂らに命じられるに違いない」


「きっとそうじゃな。儂らとて仕事を抱えて忙しいんじゃがな」


そんな三人の会話を知ってか知らずか、シディーはさらに言葉を続ける。


「あそこに結界を移動させて、底に穴を開けてもらえれば、ガルマシオンホンは落ちてくるわ。ここからは見えないかもだけれど、相当に大きな穴を開けているから、大抵のものは穴に落ちていくわ。落ちない場合は……そのときに考える。リノス様はただ、それだけをやってもらえれば、あとはあの中ですべて分別してくれるはずだから」


そこまで言うとシディーは振り返って、三人の老ドワーフに視線を向けた。


「アンタたち、サボっていないで、仕事をしてちょうだい」


「そのバカでかいものは、誰が本止めをするのじゃ」


「若い子たちに任せるから、心配しなくていいわ」


「若い者にそれができるかの」


「できるわ。私も一緒にやるから」


「大姫様が?」


「あなたたちには関係ないことだから」


「いや、大姫様……」


「何かしら?」


「別に、ちょっとだけなら、手伝ってやっても……」


「じゃあ任せたわ」


そう言って彼女は俺の手を取り、子供たちの手を引きながら工房の中へと歩いて行った。

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