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結界師への転生  作者: 片岡直太郎
第三十二章 オリハルコン研究編
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第千七十二話 部屋割り

ルチベイト王国の王都、ジサンは思った以上に発達した町だった。とりわけ、王宮は豪華絢爛を極めた建物で、それは、王都に入った瞬間から視認することができた。そこだけが光っていたのだ。


どうして光を発していたのか。それは、ガルマシオンホンがふんだんに使われた建物で、しかも王宮の天井はいわゆるドーム型になっており、太陽が出てさえいればどこから見てもそれを反射するようになっていた。後で聞いたことだが、この建物を建設する際、太陽の動きをつぶさに計算して、どの方向からでも光を視認できるように設計したらしい。そんなことを考えつく王も王だが、それを実際に作ってしまう技術者も技術者だ。いや、別にバカにしているわけではない。褒めているのだ。それだけ高い技術力を有していると言える。


俺たち一行が王宮に到着すると、何とルチベイト王自らが出向かえてくれた。体の大きな雄々しい男を想像していたが、俺たちの前に現れたのは、小柄で優し気な男だった。歌舞伎で言う「つっころばし」の風貌で、まさに、少し押すとヨロヨロと倒れてしまいそうな優男だった。


「キョウレ殿、しばらくぶりでした」


王の姿を見たサルファーテ女王が最初に口を開き、スルスルと俺たちの前に進み出て、王の前に控えた。なぜかその後ろにはリボーン大上王が控えていて、いつの間にか俺たちは後ろに追いやられてしまっていた。キョウレと呼ばれたルチベイト王は穏やかな笑みを浮かべながら大きく頷いた。


「伯母上様にも、ご機嫌も麗しく何よりでございます」


「あなた様も、ご壮健そうで何よりですわ」


「本日はようこそおいでなさいました。歓迎申します」


紋切り型の挨拶を交わした後、女王は俺たちを紹介した。王は鷹揚に頷く。


「私は、宰相を勤めますルカタと申します。どうぞお見知りおきを。こちらは、ガルマシオンホンなど、鉱物を扱う部署の長を勤めますデラハという者でございます」


「初めて御意を得ます。デラハでございます。我が国の案内役を勤めさせていただきます。身に添わぬ大役を仰せつかりまして、身の引き締まる思いでございます。遠路はるばるお見えになられました皆様をお迎えできますこと、この身に余る幸せでございます」


そう言ってデラハは俺たちの前で手を組みながら片膝をついた。ずいぶんバカ丁寧なあいさつをするんだなと思いながら、隣に控えていたメイとシディーに視線を向ける。彼女らは一様に小さく頷いていて、その雰囲気からこのデラハという男が相当の技術力を持っていると感じているのがわかった。


譲渡するガルマシオンホンの施設については明日、案内すると言われ、俺のテンションは大きく落ちた。まあ、そうなるだろうなとは予想していたが、本音を言うと今日中に屋敷に帰りたかった。だが、一応、アガルタ王国の使者として赴いている以上、ルチベイト王国も粗末な対応を取ることはできず、しかも、そこに従うのは、サルファーテ女王とリボーン大上王という曲者だ。二人の面倒臭さは十分に伝わっているはずで、機嫌を損ねないように細心の注意を払っているのがわかる。


まあ、そういう意味でこの二人を連れてきたのは間違いではなかったと言える。


取り敢えず今日の夜は歓迎会を開くので、それまでは休息をと王は俺たちに勧めて、自らはスタスタとその場を去っていった。宰相たちも王に続いてその場を後にする。それと入れ替わるように初老の男が現れて、皆様のお世話をさせていただきますと言って頭を下げた。後ろには見目麗しい美女が数名彼に従っている。


キタエと名乗る男は、俺たちを奥の部屋に案内すると言って歩き出した。その振る舞いは洗練されていて、まるで、高級ホテルの支配人のような印象を受けた。大体、こうした貴人を接客する責任者の振る舞いが、その国の姿勢を表していると俺は考えている。高圧的に接してくれば、その国はその他の国にも高圧的に接するし、ぞんざいな扱いをしてくれば、ぞんざいな国であると言える。ちなみにアガルタではシディーの乳母、ミンシが勤めている。ニザ公国の元女官長にして、アガルタ迎賓館の館長だ。


彼女は振る舞いはもちろんだが、巧みな話術で客を和ませる。これは持って生まれた才能だ。うっかりすると国の秘密までもしゃべらされる。それほど、彼女の人懐っこい笑顔と懐に飛び込んでいく話芸は逸品だ。ということは、アガルタは……、いや、考えるのはよすとしよう。


キタエはまるで俳優であるかのように、時折後ろを振り返りながらこの王宮のことを手短に説明した。冒頭、太陽の光が全方向に反射するように設計されていることを教えてくれたのも彼だ。説明によると、この建物は大理石で作られていて、装飾品はすべてガルマシオンホンんが使われているのだそうだ。


「本日はお部屋を三つご用意してございます。どうぞ、お好きなお部屋をお使いください」


うん? みっつ? と心の中で呟く。どう考えても人数に対して少ない。つまりは? ジイさん、バアさんが部屋を使うと、俺は妻たちと一つの部屋で寝ることになるのか。三人で一つのベッドに寝るのか? 


そんなことを考えていると、後ろからシディーが背中と突いてくる。表情を見ると厳しい。スケベなことを考えるなと言わんばかりの顔だ。いや、そこまでのことは考えていないのだが……。


長い廊下の突き当りにそれはあった。どうやら別棟になっているようで、正面と左右にそれぞれに扉があった。キタエは俺たちに向き直ると、どうぞお好きなお部屋をお選びくださいと言ったが、その視線は明らかにサルファーテ女王に向けられていた。彼女は何の迷いもなく真ん中の部屋を選び、いそいそと入っていった。その後から二人の女性が部屋に入っていった。


「今の女性は」


大上王が迫力のあるバリトンボイスで口を開く。キタエは優しげな笑みを浮かべて、


「皆様のお世話を申し上げます侍女でございます。ご希望がございましたら、何でも彼女らにお申し付けください」


大上王の気配が少し変わった。ちょっとした怒りを覚えているようだ。


「儂は、部屋の案内だけでよい」


「左様でございますか」


キタエは恭しく一礼する。よく聞く話で、こうした場所で仕える侍女は相当に訓練されていて、来賓の要望に何でも応えてくれる。それこそ望めば、伽もしてくれる。むろんアガルタではそんなことはしていない。してはいないが……サイリュースがモーションをかけているが、一応アガルタではそうしたことは断っている。ミンシが実に上手にそういう客をあしらう。ヒーデータでもそうしたことはない。ないというより、あそこはそんなことを言い出すことができないような雰囲気を醸し出している。フラディメ然り、サンダンジ然り。いわゆる大国と呼ばれる国は、下卑た要求をさせない雰囲気を持っている。もっとも、そんなバカを使者に立てることはないのだろうが。


「何かございましたら、手を叩いていただければ、私共が参ります」


キタエはそう言って一礼する。そして、俺たちに視線を向けた。


「あ、では、俺たちは左側の部屋を使わせてもらいます」


「承知しました」


「あ、大女王様と同様、我々も女性の方々は結構です」


「承知しました」


俺たちは左側の部屋の扉を開けた。大上王がこちらに来たそうな表情を浮かべていたが、敢えて無視をした。


部屋を見て驚いた。部屋に入るとすぐに応接間があり、そこを中心にそれぞれ三つの部屋があった。手洗いもバスルームもついている。ベッドもデカイ。何だ、三人で寝なくてよかったじゃん、とホッとしたのもつかの間、メイが恥ずかしそうな表情を浮かべていた。


どうした、メイ?


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