表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
結界師への転生  作者: 片岡直太郎
第三十二章 オリハルコン研究編
1071/1093

第千七十一話 大モメの出発準備

結果的に、ルチベイト王国に転移結界を張るのには一週間の時間を要した。予定では三日で終わるつもりだったのだが、なんやかんやあって、伸びてしまった。まあ、このくらいの遅延は特に大きな問題ではない。


夜間飛行から帰ってくると、必ずメイが起きて待っていてくれた。なぜか彼女は俺に大変な感謝をしてくれていて、帰宅するとすぐに一緒に風呂に入り、俺の体を洗ってくれ、そのままベッドに入る。そこでも彼女は俺に抱き着いてきて離れなかった。元々愛情の深い女性ではあるけれど、それが一段上がった感じだ。メロメロになっているという言葉があるが、そのさらに上を行く愛情表現をしてくれている。


この話が持ち込まれたとき、メイもシディーも怒りを露わにすると思ったのだ。言ってみればルチベイトは、いらないもの、粗大ごみを俺たちに押し付けようとしていると解釈されてもおかしくない提案をしていた。俺も話を聞いた当初はそう思ったのだ。何でウチがわざわざお宅様の粗大ごみを受け入れなきゃいけないんだと。ただ、メイとシディーに伝えて欲しいと、使者が言ったので取り敢えず伝えただけだった。バカなことを言わないでくれ、そんな詰まらねぇ話をもってくるんじゃねぇよと怒られるのを少し覚悟していたくらいだったのだ。


だが、蓋を開けてみれば、メイはこの通りだし、シディーはシディーで腕をブンブン振り回す勢いで、ここ最近は妙にテンションが高い。いや、楽しそうにしていると言うのが適当か。二人ともこれからの研究に大いに期待しているし、楽しみで仕方がないようだ。


ルチベイトの使者、ペテロが帰国するまであと数日はかかる。俺は二人を呼び出して、一週間後にルチベイトに行こうと提案した。


「私たちだけじゃなく、関係者を数名連れて行くのがいいと思います」


口を開いたのはシディーだ。


「関係者?」


「はい。研究に携わる主だった者です。アガルタ大学のラワンさんも連れて行くべきかと思います」


「ラワン、か」


ラワンというのは、アガルタ大学で教鞭をとる男で、メイの教え子の中で最も優秀とされる男だ。すでに老境に達しようとしているが、温厚篤実で品があり、学生たちからも慕われている男だ。俺はラワンであれば問題ないと大きく頷く。


その他にも数名の名前が挙がったが、あまり多くの者を連れていっても、先様のこともあるために、できるだけ人数を絞って連れて行こうということになり、結果的に俺たちのほかにはラワン一人を連れて行くことになった。


だが、それを決めた翌日になって、俺の執務室に怒鳴り込んできた者がいた。リボーン大上王だ。なぜかその傍には、サルファーテ女王も控えている。一体何事かと思っていると、大上王は、ルチベイト王国に行くのは、ラワンではなく、自分が行くのがふさわしいと言ってのけたのだ。いやいや、アンタが行くと、なにかとややこしいだろうというのを噛んで含めて話をしたのだが、ジイさんは止まらなかった。ラワンは専門家ではあるが、それだけだ。多方面に精通している男ではない。メイを補佐し、ありとあらゆる場面で交渉役を担えるのは、自分をおいて他にないと胸を張った。


何より不思議なのが、傍に控えたサルファーテ女王だ。彼女は激高する大上王の袖を引っ張り、何やら耳打ちをしている。


「……もしかしてお二人は、お付き合いをなさっているので?」


……むろん、冗談で聞いたのだ。そんなわけあるかーい、という返答を期待していたのだが、結果はそうならなかった。大上王は激高し、サルファーテ女王もそれ以上に激高して、執務室が阿鼻叫喚の地獄絵図となった。


「このような動物と付き合うなど、汚らわしいっ! 言っていいことと悪いことがありますよっ!」


「何を言う! それは儂のセリフだ! このような皺だらけの醜女など、見もおぞましいわっ!」


……というようなやり取りが三十分近くも続いたのだ。俺はうんざりしたが、その一方で、意外とこの二人は仲がいいのではないかと思ったのだが、それは単に俺が疲れていたからだろうか。まあ、万に一つ、この二人が結婚でもしようものなら、間違いなくメインティア王の寿命は縮むだろうな、などと下らぬことを考えながら俺は、二人の成り行きについては温かい目で見守ろうと心に決めたのだった。


結果的に、ルチベイト王国にはリボーン大上王と何故かサルファーテ女王の二人を連れて行くことになった。魔法担当のサルファーテは関係ないやんけ、と思われるだろうが、本当に関係はない。単に、このお婆さんはガルマシオンホンが何よりも好きで、自分の装飾品を拵えるためにそれを手に入れるべく、俺たちに同行したいというのが本音だった。ただ、実のところを言うと、ルチベイト王とこのお婆さんは、甥と叔母の関係に当たり、面識もあるのだという。妾が言えば、大抵のことは承知すると豪語して、彼女は無理やりに俺たちに同行するのだった。メイは特に不満も不安も口にしなかったが、シディーは露骨にイヤな顔をした。だが、そうした方が、万事物事はうまくいくと悔しそうに言っていた。


そうして迎えた当日、俺たちの前に現れたのは、極彩色に彩られた老女と、黒で統一された衣装を纏った老人だった。思わず、どこの新装開店なのか、どこで葬式があるのかと思った程だ。さすがにサルファーテ女王がその衣装はない、と言って苦言を呈したが、俺から言わせれば、あなたの衣装も同じだと言いたかった。一体どちらが主役だかわかったものではない。


しかし、大上王は一歩も引かなかった。これでいいのだの一点張りで、再びこの老女と一触即発の状態に陥った。そこにメイとシディーが現れた。シディーはいつものように嫌悪感を露わにしたが、メイはお二人ともとてもお似合いですねと言って笑顔を見せた。俺は思わず、似合っているわけないじゃんと心の中で突っ込んだ。


「ただ、もしガルマシオンホンの採掘現場に行かれるのであれば、お着替えをお持ちになった方がよろしいかと思います。現場には細かい埃などが充満していますから、せっかくのお衣装が汚れてしまいます。また、大上王さまのお衣装も、埃の影響で白く汚れてしまいます」


「なるほど。これは儂としたことが迂闊であった。確かに現場に赴くにはこの衣装は不向きである。早速それに合う服を取ってこようではないか」


「あ、作業着は念のため持って来ております」


「何と……。メイリアス殿はやはり行き届いておられる。このリボーン、感謝申し上げますぞ」


ホクホク顔の大上王だった。メイはさらにサルファーテ女王に視線を向ける。


「女王様のお着替えも準備しております。もし、現場見学をご希望でしたら、仰ってください」


彼女は否とも応とも言わなかったが、所在なさげに、ゆっくりと首を垂れた。


ルチベイト王国に赴くにあたって、さすがに俺とメイ、シディー本人が行ったとなると色々と差しさわりがあるので、俺は顔に布を巻き、ケンシンとしていくことにし、メイとシディーには結界を張って、それぞれ別人に見えるようにした。もちろん名前も変えた。メイリアス殿、などと呼ばれるとバレてしまうので、メイはメイード、シディーはソーナッタと呼び名を変えた。シディーに関しては特に何もなかったが、メイをメイードと呼ぶことに、大上王はここでも反発した。メイリアス殿をメイードと呼ぶことはできぬと。いや、みんな彼女のことをメイ殿、メイ殿と呼んでますやん。メイ殿と言えば、メイード殿と相手にきこえますやんと説明したが、それは失礼にあたると言って聞かなかった。思わずシバいたろかと思ったが、メイが、そう呼んでいただけると、私は嬉しいですと言って笑みを見せると、ジイさんは顔を赤らめながら、オドオドとそうさせていただくと言って頭を下げた。


「……ええお妃じゃな」


サルファーテ女王が思わずそう呟いた。俺は素直にその言葉を嬉しいと思った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
ポーセハイって世界中に転移できるとか前に書いてたような? リノスなら、ポーセハイの誰かと転移してから自分で転移結界ってやれるのでは? 途中からポーセハイの出番がなくなってるので!どうなのでしょう?…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ