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結界師への転生  作者: 片岡直太郎
第三十二章 オリハルコン研究編
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第千七十話 メイちゃんファン、再び

それから二日後、俺は、ルチベイト王国に向かって旅に出た。とはいっても、いつものように移動は夜で、イリモに乗っての旅だ。


どうして翌日から旅に出なかったのかという人もあるかもしれない。出るに出られなかったのだ。その理由は、サンダンジのニケに会っていて、この男がなかなか俺を離さなかったのだ。


ルチベイト王国に向かうためには、ガルビーから船に乗って南に向かい、ラマロンを迂回していく必要があるが、よくよく見ると、サンダンジから北西に進んだところにその国はあった。言うまでもなく、サンダンジには俺の転移結界が張っている。そこからイリモに乗って旅をすれば、当初よりも半分の行程で目的地に着くことができる。


早速旅に出ようと思ったが、リコたちがさすがにサンダンジ王に挨拶しておかなければいけないのではないかと言ってきた。別に一瞬だけ土を踏むだけで、あとはイリノの翼で空に舞い上がるだけなので、そんな必要はないだろうとは思ったが、ニケには久しく会ってはいないし、今後、オリハルコンの研究の規模拡大に際して、この国からの援助も必要になる可能性があるために、一応は挨拶だけでもしておこうということになったのだ。


そうして翌日、俺は転移結界に乗ってサンダンジに向かった。


前日に通達したにもかかわらず、ニケは正装で俺を出迎えた。個人的な訪問だから仰々しい出迎えは無用だと伝えていたにもかかわらず、大規模な出迎えを彼は用意していた。ただ、それは、ちょっと変わったものだった。


今すぐ出陣するのかと思われる程の兵士が、犇めきあっていた。全員が甲冑を着用し、帯剣していた。仰々しいというより、物々しいと言った方が正しいか。最初見たときは、この国で内乱が起こっているのかと思った程だ。


挨拶もそこそこに、ニケは私室に俺を案内した。人払いをして、二人っきりになると彼はおもむろに机の上に地図を広げた。


「我が国のホールス港からイベリア大陸のソスーの港までは数時間あれば問題なく到着できる。海は穏やかだ。おそらく、我々が予想しているよりも早く、ソスーに到着できるだろう。そこから北上して敵地までは数時間。日没と共に出発すれば、明け方には到着できよう」


「……あの、何の話で?」


「何の話、とは面妖な。我々に出陣の催促に来たのではないのか」


「出陣?」


「そうだ。魔法協会と、その周辺国を根絶やしにする作戦を練りに来たのではないのか。もっとも、それはアガルタ王が携わる必要はない。すべて、我に任せてもらえればよい」


「あの……そういうことでは、ないのですよ」


「うん? どういうことだ」


俺はこの国に来た理由を、噛んで含めるようにして彼に伝えた。ニケは露骨に不快感をあらわにした。


「ということは、貴殿は魔法協会の処分については、お構いなしとする御所存か」


「お構いなしとするつもりはありません。魔法協会自体はアガルタに移ってもらいますし、それは向こうも了承しています。それに、総帥であるアーヤ・カマンも捕えて軟禁していますから、俺としてはそれで十分かと……」


「手ぬるい!」


突然ニケが激高したので、思わず体が震える。彼はすでに立ち上がっていた。


「貴殿の、メイリアス殿が襲われ、あまつさえ、その体に傷が付けられようとしたのだぞ! そのような不届者を成敗せずにおくとは何たる手落ち! アガルタ王のすることとは思えぬ! ここは徹底的に賊を討伐することが肝要である!」


ニケはそう言うと再び椅子に座り、ずいっと俺に向かって体を向けてきた。


「我はな。貴殿が見えられると聞いて心躍らせていたのだ。あれだけメイリアス殿に世話になっており、また、メイリアス殿を支えて参ると公言してはばからなかったリボーン大上王殿は、フラディメは一向に動く気配がなかった。アガルタも動く気配がない。一体どうなっているのかと気を揉んでいたのだ。家来どもの話では、魔法協会の裏に潜む者たちを調査していると聞いてさもありなんとは思っていたが、コトは早く動くに限る。相手の戦力が整わぬうちに叩いておくことが肝要なのだ。我が調べたところによると、魔法協会を支援している国々は十を超える。その中で最も勢力が強いのはパティエント帝国だ。今回の一件はかの国が裏で手を引いている可能性が高い。魔法協会の者たちを根絶やしにしたその足で、パティエントを急襲し、滅ぼさねばならん。我が国の準備はすでに整っている。今すぐにでも出陣することが可能だ」


……マジか。ここにもヤバい奴がいたよ。どうあっても世界大戦を引き起こしたいのか。俺は改めてメイのファンたちの熱の入り様に戦慄した。


ニケの説得には二時間を要した。何だったら三十分で帰ってこようと思っていたのだが、ニケは話に納得しても、なかなか俺を帰してくれず、もてなしたいと言って、無理やりに別室に連れて行ったのだ。


いつものバーベキューかと思っていたら、部屋の真ん中に大きな丸テーブルが置かれていて、その上に小さな火鉢のようなものが置かれていた。ようなもの、と言ったが、まさしくそれは火鉢で、中には真っ赤に焼けた炭が入っていて、その上には網がかけられていた。要は焼肉だ。


ニケはこれで肉を焼くと美味いのだと言って笑顔を見せた。と同時に家来たちが肉と野菜を運んできて、ニケ王の鍋奉行ならぬ焼肉奉行で食事を共にすることになった。


ニケはこの料理方法は自分で編み出したのだと言って胸を張っていたが、我が家ではたまにこれをやっている。ただ、煙が充満するのでそれを排出するのに骨が折れたのだが、ここではそうしたものはなく、どんどん煙が充満していった。


それに、出てくる肉はてっきり牛肉かと思っていたが、その大半は鶏肉だった。鶏肉の味がしたので鶏肉だと思ったのだが、詳しくは聞いていない。もし、興味のある人はニケに聞いてみて欲しい。


まあ、美味いか不味いかで答えると、それは美味かった。彼も上機嫌で、さっきまでの怒りはどこへやら、メイリアス殿の研究であれば、我が国は全面的に支援しますぞと言って、再び笑みを見せた。リボーン大上王と言っていることが同じだったので、何だか可笑しかった。


せっかくなので、彼には焼き鳥を教えておいた。鶏肉を串にさして甘辛いタレで食べるのもよし、塩で食べるのもよし、ねぎを挟んで食べるとなかなか美味しい。鳥の皮は油で揚げてもパリッとして美味しいのだというと、目の色を変えた。


「これはガザルダという最高級の肉である。貴殿も食されてわかると思うが、上品な脂がこの肉の特徴である。それを甘辛いソースにつけて食すなど、美味いわけはない。それに、木の棒に肉を刺して食す……。ずいぶん野趣ではあるが、美味いようには思えぬ。それに、皮を食す、というのは意外である。油で料理したところで、美味いとは思えぬが……」


ニケがあまりにも真顔で言うために、俺は、そういう料理もあるということだけを覚えていただけると嬉しいです、と言うだけにとどめた。


そんなこんなで一日がつぶれてしまい、二日目の夜からようやく俺は旅に出ることができた。おそらく、サンダンジから飛べばルチベイト王国には三日もあれば着く計算だ。俺も日頃の業務があるし、イリモの体力もあるので、飛ぶのは二時間を限度にした。メイは結界石を置いてくるのであれば自分が行きますと言っていたが、彼女に万一のことがあってはまた、メイちゃんファンたちが暴れ出しそうなので、さすがにそれは止めてもらった。


ちなみに、それからひと月後、ニケから焼き鳥の美味さに感動する手紙が国書として贈られてきた。俺はそれを苦笑いを浮かべながら目を通したのだった……。

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