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結界師への転生  作者: 片岡直太郎
第三十二章 オリハルコン研究編
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第千六十一話 わからないこと

相変わらずヴィエイユは楽しそうな表情を浮かべている。俺がどんな反応をするのかを楽しんでいるかのようだ。


「そうか。まあ、頑張るんだな」


俺はにべもなく答える。突然、彼女の表情が変わった。悲しそうな、それだ。


「まあ、ご挨拶ですこと」


「何がご挨拶なのだ」


「そこは、我々と共に共同研究をしましょうと言っていただくところです」


「お前なぁ。何でお宅様と私どもが共同研究をしなきゃならないんだ」


「僭越ながら私どもは、オリハルコンの研究につきましては、世界でも相当の情報量をもっております。いま、メイリアス様とコンシディー様は、落雷による爆発の原因をお調べになっていると推察します。私どもは、その原因究明の手助けができると確信しております」


「あー。うん、そうだな。また、必要があれば相談させてもらいます」


「では。我々の研究者を早速アガルタ大学に派遣しますわ」


「いや、今のところは大丈夫かな」


「そう仰らずに」


「来てもいいがヴィエイユ。アガルタ大学の学長代理には、フラディメのリボーン大上王が就任することになっている。俺は、クリミアーナの科学者たちが病んで泣きながら国に帰っていく姿を見たくはないのだ」


ちなみに、ヴィエイユとリボーン大上王との関係は、意外だと思われるかもしれないが、実は相思相愛の関係だ。ヴィエイユは大上王のことが大嫌いだし、大上王もこの娘のことを蛇蝎のごとく嫌っている。全く人の話を聞かず持論を展開しまくるジジイと、人の懐に入り込もうと媚びを売り、ぶりっ子をする一見少女に見えるが、まあまあ年を取ってきている女性……。想像しなくても合うわけがないのは子供でもわかることだ。


ただ、俺は二人のやり取りが嫌いではない。蛇蝎のごとく嫌いながら、いや、蛇蝎のごとく嫌っているからこそ、ひたすらに説教を垂れる大上王とそこから逃げようとするヴィエイユ。だが、ジジイは逃がさない。大声で喋りながら彼女の傍を離れようとはしない。ただ、ヴィエイユが偉いなと思うのは、そんなジジイを目の前にしても声を荒げないところだ。俺だったらジジイ黙らんかいと言ってしまうような場面でも、ホホホと笑いながらその攻撃を躱していく。見せられるものなら見せたいところだ。


その大上王はヴィエイユというより、クリミアーナ教に憎悪に近い感情を抱いている。


元々フラディメはこの宗教を信仰していた。だが、大上王が王位を継いだ頃、国内で疫病が蔓延すると同時に、不作となった年があった。彼は取るものも取り敢えずクリミアーナ教国に支援を要請したが、当時の教皇はそれを黙殺してしまった。そのために国内では大量の死者が出て、国は大いに荒廃した。それを立ち直らせた大上王の手腕は見事なものだが、その原動力となったのは、クリミアーナに対する憎悪がその一端を担ったことは想像に難くない。


きっと大上王はクリミアーナの技術者がやって来たとわかると、彼らの許を訪れて論戦を挑むことだろう。そして、少しでも論理的な綻びを見つけると、徹底的に糾弾して相手が立ち直れなくなるまで叩きのめすことだろう。それはヴィエイユも十分にわかっているはずだ。


「私どもの技術者は、大上王様の目に留まる人材ばかりでございますわ。ぜひ、お声がけをくださいませ」


……この娘にしてはぬるい返答だ。普段の彼女なら無理やりにでも技術者を送り込んで、その国の国家機密を残らず吸い上げるのだが、さすがに大上王相手ではリスクが大きいと判断したのか、思ったよりも大人しく引き下がった。彼女は大きく息を吐くと、まるで諦めたような表情を浮かべながら口を開いた。


「私どもも長年に渡ってオリハルコンの研究を続けてまいりましたが、オリハルコンが大爆発を引き起こすなど、想像もしておりませんでした。もし、その原因が究明されれば、アガルタはさらに大きな力を得ることになります。私どもがアガルタ王様の前に首を垂れる日も、そう遠くないことですわ」


「何をしおらしいこと言っているんだ。そんなことは微塵も思っていないだろうに」


「そんなことはございません。アガルタ王様がお作りになったあの施設……。相当の強度を誇っていると私は見ております。それを粉々にするほどの威力……。それがどこでも使えるようになれば、一国を滅ぼすことなど容易になります」


「なるほど、お前は、そう考えるのか」


「……と、仰いますと?」


「大爆発が起こったことは事実だが、それだけの威力があれば、相当のモノが動かせると思わないか?」


「動かせる」


「まあ、説明してもわからないだろうが、爆発力とは推進力だ。いろいろとだな……。ああやってこうやって、こんな感じに組み合わせておいて、ドンといけばグッと動いていくと俺は思うんだ」


ヴィエイユはわかったような、わからないような表情を浮かべている。まあ、勘の鋭い娘なので、自ずと俺の言っていることは理解することだろう。


「話は変わりますが、フラディメ王様のお話は、どうなさるおつもりですか?」


「なに? フラディメ王? あの、メインティア王の話が何だというのだ」


「先ほど、こちらに来る前にお出会いしました。面白いことを言っておいででしたが、あれはどうなさるおつもりですか」


「イヤに仲がいいな。お前ら付き合っているのか?」


「ホホホ、ご冗談を。私とフラディメ王様との関係は、同じ芸術を愛する者同士、そう、志を同じくする同志のような関係ですわ」


「あまりうまくないな」


「うまく……ない?」


「いや、こっちの話だ。わかんなきゃいい。で、メインティア王との話が何だって? あのバカ……いや、殿さまとの話し合いは、さっきも言った通り、大上王にアガルタ大学の学長代理を務めてもらうことに決定した。大上王には悪いが、しばらくの間は、学長室で寝起きしてもらい、学内が混乱しないように努めてもらうことになった。だから、お前のところから技術者だか研究者だかを送って来ても無駄なことだ」


「いえ、私がお伺いしたいのは、閨の話ですわ」


「閨ぁ?」


「アガルタ王様とメイリアス王妃様の閨をリボーン大上王様にお見せするのでございましょ? そのお姿、ぜひ私も拝見したく存じます」


「みせねーよ。誰が見せるかよ。お前も芯からスケベな娘だな」


「いいえ、後学のために拝見しようと思ったのですわ」


「後学のためぇ? なんだよそれ」


「私にはまだ、そうした経験がございませんから、いざという時のために学んでおきたいのです」


「……知っているだろ」


「さあ。ただ、わからないことがございますので、それを確かめたいと思っております」


「わからないこと? ほう、耳年増のヴィエイユちゃんが知らないとは、それは一体なんだ」


「お二人の閨では、メイリアス王妃が動いていらっしゃるとききましたが、どう動いておいでなのかを確かめたいと存じます」


二人の間に妙な沈黙が流れた。俺はオホンと咳払いをして、


「さて、何のことか、俺もわかりかねる。ともあれ、そんなことは断じて許可することはない」


「左様でございましたか」


ヴィエイユはそう言うと、仕事が終わったとばかりに、うう~んと言いながら俺の前で背伸びをした。


「せっかくアガルタに参りましたので、しばらくこちらで休暇を取りたく存じます」


「……勝手にしろ。ただし、迎賓館は」


「ご心配には及びません。ちゃんと、ホテルにお世話になるつもりです。それでは早速街に繰り出して、色々とお買い物を楽しみたいと存じます。ごめん下さいませ」


そう言って彼女は踵を返すと、スタスタとその場を後にしていった……。

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