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結界師への転生  作者: 片岡直太郎
第三十二章 オリハルコン研究編
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第千四十八話 満足と覚悟

久しぶりに魔力を限界まで使った。俺はいま、屋敷のベッドの上でブッ倒れている。


メイとシディーの研究施設は何とか完成した。我ながらよくも二十メートルもする建物を作ったと、自分で自分を褒めてやりたい気持ちでいっぱいだ。


単に二十メートルの建物を土魔法で作るのであれば一瞬でできる。だが、今回は、というか、今回もそんなにコトは簡単に進まなかった。ソレイユが微に入り細を穿つ指示を出してきて、遅々として作業が進まなかったのだ。


彼女はシディーが引いた図面を見て俺に指示を出す。まずは外壁。これは問題なく作ることができた。一番の問題は内部構造で、これがミリ単位の指示が出された。


彼女は土魔法で作った壁に指で形を書いていく。どうなっているのかはわからないが、彼女がなぞった部分が緑色に変化する。そこに土魔法を付け足していく。形を作り、削り、などして指示されたものを仕上げていく。最初の頃は話の内容が飲み込めずにやり直しも何度も発生させた。それが作業の完了を遅らせてしまったのは否定はしない。


壁を作り、内部の構造を作っていくというのを繰り返していくと、当然、自分の背丈以上の場所に作らねばならなくなる。地面の土を盛りながら上へ上へと上がっていく。ソレイユは飛べるので、フワフワと宙を舞いながら指示を出していく。そうしていると、下にいるメイやシディーが状況を見たいと言ってくる。彼女らが上がって来られるように土魔法で階段を作る。そんな細かい気を使いながら作業を進めていくので、どんどん魔力が削られていく。最後の方はポーションの力を借りながら作業を完了させたほどだ。


ちなみに、だが、知っている人も多いかもしれないが、俺の魔力総量はかなりのものがある。きっと、そこいらの魔法使いなど及びもつかない程だ。それが枯渇するということは、いかに重労働だったかがお分かりかと思う。


ちなみに、魔法使いと話をしていると、すぐに魔力が切れてしまうんですよねーとか、魔力がもたないんですよねーなどと言う悩みをよく聞く。その解決方法は簡単だ。魔力を使い切って倒れる。これを繰り返すことで魔力総量は上がっていく。いや、俺が言うんだから間違いはない。嘘だと思うなら一度、ファルコ師匠の訓練を受けてみるといい。


そう、限界まで魔法を使う。限界だと思っているうちは限界ではない。気がつけば気絶しているというくらいに使うのだ。そんなの無理だよと思うかもしれないが、考えてみて欲しい。目の前には無数のファイヤーボールが飛んできていて、その後ろには真剣を手にしたエリルお嬢様が飛んで来ているのだ。ちなみに、本気を出したお嬢様の動きは目では追えないので、間合いに入り込まれて斬撃を叩き込まれるのは覚悟の上だ。それらを完璧に防御し続けなければ死ぬのだ。いや、本当に。情け容赦というものがなかった。最後の方は二人とも本気で俺を殺しにかかっていた。そんなことはない、お前は二人に愛されていたと言う人もあるだろうが、二人の眼は完全にキマっていた。いやこれ、本当の話だから。


妻たちの中ではシディーが魔法をそれなりに使える。彼女もまた、魔力総量を上げたいと思っているが、なかなかそれができないという悩みを抱えている。彼女に先ほどの話をしたら、軽く引いていた。いやいやそんな、話しを盛っているでしょという反応をしていたが、マジだからと言うと、そんなことは死んでもイヤだと言われてしまった。さすがに師匠やお嬢様のようなことはしないが、それなりに俺が攻撃をして、シディーが結界を張り続けながらそれを受け続けるとすぐに魔力総量なんぞ上がっていくよと言ったのだが、もし俺がそれをすれば、嫌いになるから。一生口を利かないからねと言われてしまった。


話を元に戻す。


ソレイユ、メイ、シディーの言う通り、内部の構造も完成させた。自分で作っておいて何だが、まるで迷路のような作りになった。建物は真っすぐに伸びているが、内部の構造は凸凹があったり、クネクネと曲がりくねっていたりする。一体何がどうなるのか皆目見当がつかないが、三人はまるでハイタッチをせんばかりに喜んでいる。


凹凸部分には何かの機材が入るらしい。しかもそれはぴったりとはまるように設計されているそうで、試しにと機材の一つを当てはめてみたが、ものの見事にピッタリとはまった。これにはさすがの俺も驚きを隠さなかった。


明日からは徐々に機材の搬入が始まるらしい。メイもシディーもワクワクしている。ちなみに内部は電灯が煌々と照らしている。そう、オリハルコンから生産された電気がすでに内部で使われているのだ。これからここで、さらに電気を使った新しいものが生み出されていくのだ。どんなものができてくるのか、俺も楽しみだ。


本来はこの施設に結界を張った方がいいのだが、メイもシディーもそれはいらないのだと言う。確かに、外から中には入ることができないので、必要ないと言えば必要がない。建物には錬成をかけているので、ほぼ崩れる心配はない。まあ、結界を張るかどうかは彼女らの判断に任せることにして、俺は帝都の屋敷に帰ったというわけだ。


ポーションで何とか魔力は維持しているが、やはりけだるさは残っている。食事もそこそこに、風呂に入ってすぐにベッドに倒れ込む。しばらくそのままでいたが、ごろんと仰向けになり、毛布をかぶる。ボーっと天井を眺めていたところまでは覚えていたが、気がつけば俺は深い眠りに落ちていた。


◆ ◆ ◆


アーヤ・カマンもまた、ベッドの上で仰向けになり、天井を眺めていた。彼は船の一室で眠りに着こうとしていた。だが、目は冴えていた。彼は身じろぎもせずに、仰向けになりながら、思考を巡らせていた。


取るものも取り敢えず、船に乗った。止める周囲の者たちを押し切っての出港だった。用心深さが取り柄の彼にしては、極めて珍しい行動であると言えた。


……何としても、その施設を見ねばならぬ。


彼を突き動かしているのは、偏にその思いだけであった。胸の奥から、脅迫にも似た感情がとめどもなく溢れている状態であった。


アガルタの研究をつぶす方法はいくつもある。本来の彼ならば、その中で最も効果的効率的な手段を選択する。方法によっては、魔法協会に所属する優秀な魔法使いや魔導士たちを集めて、総攻撃をかけるという手段も取れなくはなかった。だが、今の彼の傍に従うのは、常日頃から彼の世話を担っている若い魔法使い五人のみだった。彼らはどちらかと言えば、総帥の荷物を持ったり、体力が尽きた場合に総帥をおぶったりする役割を期待されての同行であり、戦力としての同行ではなかった。むろん、彼の傍には高ランクの魔法を操る者たちも控えていたが、彼らは一様にアガルタを侮り、それは取り越し苦労に過ぎないと言って、暗に同行を拒否した。アーヤ・カマンは周囲の若い魔法使いたちにすぐに出立すると命令し、その日のうちに屋敷を出発したのだった。


総帥が出発したと聞いても、魔法協会の幹部たちの対応は冷淡だった。もとより年老いた身だ。そのうちきっと、体力が尽きて戻ってくるだろうというのが彼らの共通した見解であったが、豈図らんや、彼はそのまま港町まで辿り着き、そのまま船に乗って出港してしまった。ここにきて協会はようやく、彼の覚悟の程を知った。すぐに高ランクの魔法使いを急いで向かわせたが、すでに船は出港してしまっており、すべては後の祭りであった……。

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