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結界師への転生  作者: 片岡直太郎
第三十二章 オリハルコン研究編
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第千四十五話 その実験施設

メイとシディーが中心となって始められたオリハルコンの研究は、思ってもみない方向に進みつつあった。その一方で、アガルタおよびアガルタ大学に訪れる者の数は激増していた。彼女らの研究は世界中から注目されつつあった。


オリハルコンは、ニザ公国でしか生産できないものであり、しかもそれは高度な技術が必要であるというのが世界の常識だった。だが、ここにきて、アガルタでも生産が可能となったことから、世界各国の注目を集めることとなったのだ。


皆の思惑は様々だった。魔法の効果を大きく軽減させる効果のあるこの鉱物を導入して、軍備増強を図ろうとする国、高価なオリハルコンを自国で製造して利益を上げようと画策する国、雷撃の効果を生み出すという情報を掴んだ国などは、それを武器に転用する可能性を探ったり、農業に転用したりしようと考える国すらも現れていた。


畑に落雷すると、そこでは作物の生育がよくなるというのは昔から言い伝えであり、それをオリハルコンを使って人為的に発生させようとするもので、人が聞けば誇大妄想であると思われるものも、農作物の収穫高の低い国々では、それに活路を見出そうとする動きも少なくなかったのである。


そもそも、現在の技術では、雷――雷撃を人為的に発生させるためには、魔法を使うしかなく、しかもそれは相当のスキルが必要になる。まず、水魔法をLV4、火魔法をLV2以上まで極める必要がある。雲を生み出すために大量の水が必要となり、同時に水蒸気を発生させるために火魔法が必要になる。大量の熱量が確保できるのであれば水魔法だけでもそれは可能だが、どちらにせよ、相当の魔力を消費することに間違いはなく、下手をすれば魔法使いの命にかかわる作業となるために、誰もその魔法を習得しようとしないというのが実情であった。


ちなみにリノスは雷撃を一瞬で、しかも自由自在に発生させることができる。それは水魔法、火魔法、結界魔法の三つを駆使しして作り出すもので、彼が独自に編み出した魔法なのであるが、世界中の魔法使いはもちろん、本人すらも知らないことであった。もし、この手法が公開されたら世界は大騒ぎになるのだが、リノス本人はごく簡単に雷撃を発生させることができるために、まさかそれほどのものという認識はなく、また、雷自体が苦手であるために、あまりこの魔法を多用することもないために、ほとんど他人に知られることなく時を過ごしていた。


リノスのことはさておき、魔法使いたちの中では、もっと簡単に雷撃魔法が習得できないかと考え、研究を行ってきた者たちもいた。世界魔法連盟という組織がそれである。彼らもまた、アガルタでのオリハルコン研究の進捗を見守る一人であった。


総帥であるアーヤ・カマンは、特にその動向に注目していた。流れによっては、今の世界魔法連盟の方向性すらも変える必要があったからだ。


アーヤ・カマンは世界で数人しかいない雷撃魔法使いの一人であった。ただ、それは昔の話で、すでに老いた彼に今、その魔法を使う余裕はなかった。


彼は歴史上唯一、火魔法LV2で雷撃が使えた魔法使いだった。それまでは、雷撃はLV4の火魔法の習得が必要であり、最低でもLV3の習得が必須であるとされていたのだが、彼は大きな熱源を利用することで雷撃を生み出せることを発見した魔法使いであった。


アーヤ・カマンの雷撃魔法発生方法は、大きく分けて二つであった。一つが、火山を利用する方法。火山の噴火口に雨を降らせ、人為的に雲を生み出して雷を発生させるというものであり、もう一つは、野焼きを利用するという方法。つまり、大規模な野焼きの最中に雨を降らせて雲と生み出して雷を発生させるというものだった。


どちらも限定的ではあるが、とりわけ後者は作物の生育がよくなるとして、大穀倉地帯を持つ地域で導入され、そのお陰で彼は名声を高めると同時に巨万の富を得ることに成功していた。


世界魔法連盟は、世界各国の魔法大学やギルドなどから優秀な魔法使いを集めて魔法の研鑽を積むことを目的としており、それなりの成果を上げてきてはいたが、時代が進むにつれて会員のエリート意識が強くなり、現在ではこの連盟に所属することは、魔法使いのステータスの一つとなっていた。それでも、所属するためには、LV4以上の魔法が使えることと、最低でも二つの魔法が使えることという条件を課しているために、連盟員たちの高いスキルは維持できていた。


総帥・カマンはアガルタに人を派遣しようとしたが、それは他の幹部から反対された。彼らは一様にアガルタの研究は失敗すると信じて疑わず、人を派遣するだけ無駄であるとの姿勢を崩さなかった。


彼らは知っていた。大昔、クリミアーナ教国が膨大な予算をかけてオリハルコンを使い、雷撃を発生させようと取り組み、結果、失敗に終わったことを。そうしたこともあって、彼らはアガルタに出来るわけはないのだと一蹴したのであった。


だが、カマンは不安でならなかった。研究に携わっているのが聖女・メイリアスと、ドワーフ公王の娘であるコンシディーなのだ。アガルタは不可能を可能にしてきた国だ。今回も、なにか予想もつかないことをしでかすのではないかという予感が彼にはあったのである。そのため彼は秘かに人をアガルタに送ることにした。


しかし、世界魔法連盟をはじめとした、アガルタに人を遣わした国々は、いくら経ってもその進捗や研究成果を把握できなかった。それもそのはずで、メイとシディーが研究を行う施設が、彼らには見つけられなかったのである。


二人の研究施設は、アガルタの都の外に作られていた。


ルノアの森を出ると左手にアガルタの都が見え、右手には草原が広がっている。そのまま西の方角に向かうと、草原の真ん中に巨大なクレーターが現れていて、その中央に長方形の建物が見えてくる。それが、二人の研究施設だった。


ある意味で異様な佇まいだが、一見してこれが研究施設であると認識するものは皆無だった。それを証拠に、この建物には入り口が一つもなかった。ただ、黒くて巨大な長方形の建物がクレーターの中にあるだけだった。たまたまこの建物を見つけた旅人は一様にギョッとした表情を浮かべて立ち止まる。そして、その様子から、この巨大なものが天から降って来たのだと解釈して、早々にその場を立ち去るのだった。


これはリノスが土魔法を駆使して作った研究施設であり、むろんそれは感電しないために作られたものであった。二人はすぐに、水の張った容器の中にオリハルコンをある一定の間隔で並べると電力を増幅させることができることを発見した。今ではお蔭で電力をコントロールできるようになり、感電して粗相するようなことはなくなっていた。


メイは生み出した電気を医療に活かす可能性を見出しつつあった。それはむろん、リノスの進言に寄るところも多いが、彼女は彼女なりに、その聡明な頭脳で、電気を使ったよりよい未来の姿を描きだしていた。


一方のシディーは、電気を産業に活かせるのではないかと考えていた。すでに、リノスの提案で、いわゆる電球の開発ができつつあった。これを使えば、人々はよる、蠟燭や魔法で明かりを得る生活から解放される。何より、無限に熱が生み出されるために、その電力が上がれば可能性はさらに広がる。シディーもまた、この電気というものを使って、いわゆる産業革命を起こす未来を思い描いていた。


しかも二人は気の合う者同士ということもあってか、まるで子供のように嬉々として実験を繰り返していた。それは、世界中の者たちが想像もしていない結果を導くことにつながるのであった……。

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