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結界師への転生  作者: 片岡直太郎
第三十一章 兄弟相克編
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第千三十二話 調査依頼

ちょっと待てよ静電気? そういえば、この世界に来て静電気を感じたことはほとんどない。結構この世界で暮らして長い時間が経っているが、本格的なものは初めてであると言っていい。


どうしてこの世界では静電気の類は発生しないのだろう。使われている素材が圧倒的に木材が多いからか、それともあまり乾燥していないからか。俺には常に結界を張っていて、気温や湿度が自由にコントロールできるから、それが影響しているのかもしれない。


この世界で電気というものは未だにない。魔法で雷撃というものがあり、いわゆる電気的なものはあるが、それを活用してというものはない。


雷撃は天に雷雲を発生させて雷を落とすというシンプルなものだ。レベルが上がると、自分で雷撃を操れるようになる。つまり、縦方向の攻撃ではなく、横方向の攻撃ができるようになる。それはつまり、己の体を媒介して雷を操るというもので、自分の体に落雷させて、それを操るというものになる。


雷を使って電気を起こして何かをするということが発展しなかったのは、それを操ることのできる魔法使いが極端に少ないというもの理由の一つだ。それは数ある魔法の中で雷が一番魔力を使う。そのため雷撃魔法は乾坤一擲の攻撃で、奥の手、最後の必殺技というイメージだ。当然、魔法使いはそれをブッ放してしまうと魔力不足になって使い物にならなくなし、下手をするとそのまま気を失って倒れてしまうことになる。言ってみれば、威力はデカイがコスパの実に悪い攻撃方法で、そんな魔法を極めようとするのは沙汰の限りで、よほどの変わったヤツか、相当適性のあるヤツしか習得しようとは思わない魔法だ。それよりも、コスパのいい火魔法や水魔法を極めるほうが需要もあるし、何より、努力すれば大抵の者が扱うことができるので、どうしても魔法使いはそちらの方に行きがちなのだ。


「シディー、このピリッとする感覚は、水に浸せば必ず起こるものなのか?」


「ええ。必ず起こります。ただし、オリハルコンが大きいものになると起こりません」


「その原因を解明してはいなんだ」


「うーん。解明しようとしたことはあるにはあるけれど、扱いが難しいので、結局どうしても後回しになっちゃっていますね」


なるほどね、と相槌を打つ。聞けば小さなオリハルコンは少しの水気でもあれば静電気が発生するらしく、そうしないためには常に乾燥させていなければならない。従って持ち運ぶときは木でできたピンセットを用い、タオルでくるむなどして扱わねばならず、そこまでしたとしても得られるものは少ないので、不思議だなと思いつつもその研究は後回しにされているのだという。


シディーとしたことが、と俺は思わず心の中で呟く。いや、彼女の本能は、これがとんでもない革命を引き起こすものだと訴えかけているが、彼女の持ち前の面倒臭がりという性格が、それと向き合うことを避け続けているのではないかと邪推するが、さすがにそれは言葉に出さないでおいた。


ただ、これは、持っていき方によっては、永久機関を作り出すことにつながるのではないか。


詳しいことはよくわからないが、水を張った容器の中に、小さなオリハルコンを入れておけば、常に電気を発生させるということになる。それが永遠に続くとなれば、とんでもないことになる。


「今夜すまないけれど、俺の寝室に来てくれ」


俺の唐突な話に、彼女は目を丸くして驚いている。


「今日はメイちゃんでは?」


「うん。メイと一緒に来てくれ。メイにも言っておくよ」


「……何する気?」


「ちょっと、相談をしたくてね」


「……何か、嫌な予感がする」


「あーうん。できるだけ、シディーに嫌な思いをさせないようにするよ」


「……わかった」


彼女は何とも言えぬ表情を浮かべながら頷いた。その様子を見ながら俺は、さっき邪推したことは真実だったのだろうなと心の中で呟いていた。


◆ ◆ ◆


その夜、メイとシディーは二人揃ってベッドルームにやって来た。シディーは色々と察しているようだが、メイはどうして二人で来いと言われているのかがわからないらしい。何となくだが、居心地が悪そうだ。


二人をベッドのわきに設えてある椅子に座るように促す。さて、相談をしようとしたそのとき、シディーが部屋のドアに視線を向けている。


「……外に、誰かいます」


メイが驚いた表情を浮かべ、すぐに不安そうな表情になる。うん、それはわかっていた。


「……リコ様ですね」


シディーが続ける。彼女は抜き足差し足忍び足で扉の前まで行くと、ゆっくりとノブを握り、扉を開けた。


「……!?」


リコが驚きの表情を浮かべながら立っていた。まさか、俺とシディーの探知能力を掻い潜れるとは思っていたのか。いや、そんなことはあるまい。いてもたってもいられなかったというのが本当のところだろう。


「リコも入れ。いいぞ」


俺の言葉に促されるように、彼女は寝室に入ってきた。二つある椅子の一つにはメイが座っている。てっきり空いている椅子に座るかと思ったが、彼女はベッドに腰かけている俺の隣に座った。空いている席にはもといたシディーが座る。


「ちょっと専門的な話になりそうだったからね」


彼女の不安を和らげようと俺は口を開く。リコは少し顔を赤らめながら頷く。何とも可愛らしい。


「さて、二人を呼び出したのは他でもない。別にダイニングで話してもよかったんだけれど、ソレイユとマトカルは興味のない話だろうし、二人にとっては退屈だと思ったからだ」


俺の言葉に、三人は一様に頷く。


「相談したいのは、オリハルコンのことだ」


メイがガバッと顔を上げる。目に光が宿っている。ああ、何かを期待しているなと思いながら言葉を続ける。



「あの鉱物は水分を含むと、ぴりっとした痛みを伴うんだよな?」


「少量ならね」


シディーがすかさず言葉をかぶせてくる。


「そう、少量なら、痛みを感じるんだよな? じゃあ、例えば、水を張った容器の中に小さなオリハルコンを入れれば、その水に触れるとあの痛みを覚えるという理屈になると思うけれど、間違いはないかな?」


「それは……実験してみないと」


「そうだよなメイ。それを実験してもらいたいんだ。つまりは、あのオリハルコンは、小さいものだと弱い雷撃を発生させると俺は見ているんだ。俺の考えが合っているかを確認して欲しいんだ。できたら、どのくらいのオリハルコンが、どのくらいの雷撃を発生させて、それが、どのくらい続くのかという点を調べてもらえると助かるんだ」


「承知、しました」


「リノス……」


「ごめんリコ、少し説明が足りなかったかな。要は、オリハルコンには雷撃の効果を生み出す可能性があって、それを二人に確かめてもらおうとしているんだ」


「何か、雷撃の武器を作ろうと?」


「うん、それもそうなんだけれど、俺はうまくすると別の使い方ができるんじゃないかと思っているんだ。雷撃は大きなダメージを与えるものという認識だと思うけれど、あれには熱がある。熱を生み出せるんだ。ということは、それをうまく利用すれば明かりを得ることができる。その熱量が高まれば、何かを動かすこともできるだろうし、色んなことができるようになると思うんだ」


俺の言葉を待たずにメイは部屋を飛び出すようにして出ていった。続いてシディーも、何とも言えぬ表情を浮かべながらメイの後をついて行く。残ったリコは呆気にとられた表情を浮かべている。


「俺の話は、わかるかい?」


「わっ、わかりますけれど……そんなことが……」


「出来るかどうかを調べてもらうんだ。きっと、二人ならすぐに答えを出してくれると思うよ。それに、そのことを、あのサウシ王子は気がついたんじゃないのかな」


「まあ……。でも、それは……」


「ともあれ、メイとシディーの調査の結果を見てからの判断になるだろうけれどね」


リコは俺の顔をまじまじと見ると、ゆっくりと頷いた。そんな彼女に俺は、夜も遅いしもう寝ようと言って休むように促すのだった……。

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