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結界師への転生  作者: 片岡直太郎
第三十一章 兄弟相克編
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第千十八話 陛下が屋敷にやって来たゾ!

それから一週間後、陛下は待ちかねたように息子・アローズを伴って帝都の屋敷にやって来た。そこには、タウンゼット王妃までもがいた。


陛下のテンションが異常に高い。到着してからずっと喋っている。タウンゼット王妃が困った表情を浮かべ、息子のアローズが、父ちゃんどうしたんだ、と言わんばかりの表情を浮かべているが、そんなことはお構いなしで、喋り続けている。


しかも、喋っている内容が下らないというか、どうでもいいことばかりだ。まず、屋敷の外観を褒め、離れの建物が趣があると言って褒めた。いや、そこはあなたが拵えたものですよと言いたかったが、陛下のマシンガントークはそれを言うことすら憚られる程だった。


ようやく屋敷の中に入ったのは、到着してニ十分も経った頃だった。妻や子供たちが並んで彼らを迎える。かなり長い間待たされたのでさぞ迷惑だったろうと思ったが、そうしたことは一切表に出すことなく、皆一様に陛下の訪問を歓迎した。あ、アリリアだけは、笑顔を浮かべながら口を動かしている。どうやら、遅いよと言っているようだが、まあ、これはよしとする。


「何だ皆、畏まっておるのではないのか。普段の、平服でよいと申したに」


陛下はそう言って笑うが、そうもいかんだろう。実はこれに関してもリコと少しモメたのだ。正直言って俺は陛下の言葉を額面通り受け取って、いつもの俺たちの平服で迎えるべきだと思っていた。何が悲しくて、自宅で畏まった格好をせにゃならんのだというのがその理由だ。だが、リコは違った。きっと、相手はそれなりの格好をしてくるのだから、こちらもそれに見合う格好をするべきだと言ったのだ。


言っていることはリコの方が正しい。ただでも、考えてみてくれ。俺が招待したわけじゃないんだ。向こうが、先様が勝手に決めて勝手にやって来るんだ。俺たちが畏まった格好をすれば、向こうも気を使うんじゃないだろうか……。


ただまあ、結果を行ってしまえば、リコに押し切られた形になった。ええもう、彼女のお話しには反論の余地が全くありませんでした。ということで、俺を含めた家族全員が、それなりの格好をして陛下たちを出迎えている。ちなみに、その服をリコは全員分選んだ。朝早く起きて選んでいた。その点は実に凄いと思う。


皆で掃除をしたので、屋敷の中はピカピカだ。さすがに離れまでは手が回らなかった。リコはそこも何とかしようとしていたが、さすがに我々のプライベートスペースまで入り込んでは来ないだろうという俺の意見が容れられて、それぞれの部屋はそのままの状態になっている。とはいえ、リコとソレイユの部屋は常に整理整頓されているので問題はない。マトカルはそもそも持ち物が少ないので、基本的には散らからない。一番の問題はメイとシディーだ。メイの場合は本がベッドサイドに山と積まれているし、シディーに至っては色んなものが雑然と置かれている。本人たちからしてみれば片付いているという認識だが、他の人から見れば下手をするとゴミ屋敷に見られる可能性すらあるレベルだ。まあ、百歩譲ってメイの場合は理解できる。彼女は疑問に思ったことはすぐにその場で調べて解決したいタイプで、そのために、愛読する本を傍に置いているだけだ。その本も散乱しているのではなく、積まれているだけだ。対してシディーは、整理整頓という概念がないのではないかと思うレベルだ。辛うじて寝るスペースと歩く場所は確保しているが、何故か本棚に絵が押し込まれていたり、自分が作ったオブジェのようなものが置かれたりしている。ただ、この部屋は子供たちにとってはおもちゃ箱に見えるらしく、皆は何かというととこの部屋に行きたがる。よくイデアとピアが二人でこの部屋で遊んでいる。ときおり二人の嬉しそうな笑い声が聞こえてきたりするのだが、人様に見せる部屋ではないことは確かだ。


話を元に戻す。


陛下たち三人にはとりあえず食卓に着いてもらい、家族の皆は離れに下がってもらった。本来ならば、こうした大人数で食事をするのであればバーベキューなのだが、それを選択しないでよかったと心から思った。それをすると陛下たちの衣装に臭いが着いてしまう。陛下はどうでもいいだろうが、タウンゼット王妃の衣装に臭いが着いてしまうのは、さすがにダメだろう。それにきっと、それをやったところで盛り上がるまい。陛下は皆でワイワイ食事をすることを想定していたのか、遠慮することはないぞと言っていたが、皆は遠慮したいのだ。その場に残ったのは、リコと俺、そして、エリルだけとなった。


エリルはリコが気合を入れて選んだドレスの一歩手前のような衣装を着ている。親のひいき目もあるだろうが、かわいい。実にかわいい。大人しく控えている。気品もあって、どこに出しても恥ずかしくない娘だ。


彼女は俺に促される形で椅子に腰を掛ける。それと同時にリコがキッチンから料理を盛った皿を持って出て来た。大皿にパスタとサラダ、揚げ物が盛りつけられている。大きな皿が三つ、テーブルの上に並ぶ。さすがにこの状況は想定していなかったのか、陛下たちは驚きの表情を浮かべている。そして、バスケットに入った焼き立てのパンが置かれ、同時に、ペーリスがスープを皆に配っていった。


「さ、お待たせしましたわ」


そう言ってリコが席に着く。


「何と……珍しい食卓であるの」


「ええ。ウチは食べたいものを食べたいだけ食べるというスタイルです。そのために、大皿に盛って、めいめいが皿に取っていくというやり方なのです。ちなみに、このテーブルは廻るのですよ」


そう言って俺はテーブルを廻す。これは俺の発案でメイとシディーに特別に作ってもらったのだ。それまでは皿を廻し合って非効率的だったのだ。それを俺が中華料理店のテーブルを思い出して作ってもらったのがこれだ。中の構造はわからないが、実にスムーズに動く。これにはさすがの陛下も驚きの声を上げた。


「おお。真ん中に円形の溝があるなとは思っていたが、まさかこのような使い方をするとは。ウムム。これはよい。早速余も作らせようではないか」


陛下はそう言って笑顔を見せるが、タウンゼット王妃とアローズ殿下は戸惑いを隠せずにいる。それはそうだろう。まあ王妃は元々は平民の出なので問題ないだろうが、アローズの場合はこれまで出て来た料理を食べるという生活スタイルで、自分で自分の食べる量を決めるということをしたことがないのだ。


それを察したリコが王妃の隣に行き、料理を皿に取り分ける。彼女はお構いなくと言いながら相変わらず戸惑った表情のまま大人しくしている。俺は陛下に、食べたいものを皿に取りましょうと促して、自分の分を取っていく。陛下も面白そうにパスタ料理を自分の皿に山のように盛り付けている。


エリルが台を持って来てアローズ殿下の隣に行き、そこでリコと同じように料理を取り分けている。母親に似て、実に優美な動きをしている。別に事前に打ち合わせがあったわけでなく、リコが指示したわけでもないのに、母親の動きを見て自分も同じように振舞うエリルは頭のいい子供だと思う。名前は一緒だが、先代のお嬢様に比べると、雲泥の差だ。別にお嬢様のことをディスっているわけではない。あの方は考えるよりも行動が先に立ってしまうのだ。だから、風呂が沸く前に裸になってしまうのだ。


娘のエリルは真面目で優しい子だが、この子もこの子で、時折母親のモノマネをするなどして、弟たちを愉しませている。さすがにリコたちの前ではやらないが、この間偶然見たときなどは、リコのモノマネは実によく似ていた。そっくりだった。そんなおちゃめな一面も持ち合わせているのだ。


そんなエリルだが、今日は神妙に振舞っている。アローズはどぎまぎしながら、ああ、ああ、などと彼女の質問に頷いている。真面目堅物なイメージがあったが、戸惑った表情はやはりまだ子供だな、などとちょっと失礼なことを考える。


料理を取り分けた二人は席に戻ると、さっさと料理を自分の皿に取り分けた。


「では、いただきましょう」


俺の言葉で、何となくぎこちない食事会はスタートした。

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