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結界師への転生  作者: 片岡直太郎
間 話 名探偵コンシディー
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第千十話 優れた剣技

それから三日後、シディーの姿はフラディメ王国のアリスン城にあった。彼女に従うのは、夫であるリノスをはじめとして、妻のメイ、そしてリコという面々だった。


リコを連れて行くことを提案したのはリノスだった。それはシディーにとって名案だった。この人がいれば、あのオヤジも大声を出すことはないだろうし、話しが脱線しがちなあのジジイを折に触れて軌道修正してくれることだろう。彼女が行くと決まったときには、シディーは心の中でガッツポーズをした。


お忍びでの訪問と伝えていたにもかかわらず、正妃・リコレットが来ると聞いた大上王は、自らも正装して一行を出迎えた。その隣にはもちろん、同じように正装させられたメインティア王が、さも迷惑そうな表情を隠そうともせずに並んでいた。さらにその隣では、王の正妃がこれまた豪華な衣装を纏って控えていた。もう、一目見た瞬間から、リコレットに対抗意識むき出しであることがわかる。アガルタの正妃ナンボのモンじゃい。ヒーデータの先帝王の第一王女臆するものか、ナメんじゃねぇぞという感情がありありと伝わってくる。


そんな状況下にもかかわらずリコは淡々と、いつもと同じように振舞った。身に着けている衣装も豪華なそれではない。少しオシャレな格好をしているが、その程度だ。だが、それでも彼女の体からは周囲を圧する気品が溢れていた。フラディメの王妃と並ぶと、美々しく着飾っている方が逆に下品にすら見える。まさに、格の違いを見せつける結果となっていた。


王妃はそれが悔しくてならないらしい。折に触れてリコに視線を向けていたが、彼女はどこ吹く風で、全く相手にすらしていない。その様子は大上王にも十分に伝わっていて、彼は早々に王妃を下がらせ、一行を自らの居室に案内した。


「まあ、内内の話である。内容も内容であることから、人は少ない方がよい」


そう言って取り繕う大上王に、メインティア王は、


「内々の話であれば、このような固っ苦しい恰好などしなくてもよろしかったのでは?」


「ならば、その方はいつもの格好でよい。何なら、今この場で服を脱いで裸になればよい。いつものお前の格好をするがいい」


メインティア王は苦笑いを浮かべる。客人の前で息子を、嘘でもフラディメ王国の王様である人物をここまでこき下ろすかね、とリノスも思わず苦笑いを浮かべる。


「さて、早速本題に入ろう。話に聞くと、ある程度犯人の目星がついたとあるが、それは誠の事であろうか」


「はい。ただ、少し確認したく思います。恐れ入りますが、剣豪が殺された当日に、屋敷に出入りした者はわかりますか」


「うむ。それなら、ここにある」


大上王は机に山と積まれた書類の中から一枚の紙を取り出した。これだけの書類があるにもかかわらず、その中身を完全に把握しているこのジイさんは、才能と能力の使い方を激しく間違っているなとシディーは心の中で呟きながら、それを受け取る。


その日に訪れたのは、疑いがかかっている剣豪を含めて五人だった。つまり、剣豪のほかはすべて男性で、職業もバラバラだった。酒屋、骨董屋、医師、魚屋といった人物たちだった。


「……大体わかりました」


シディーが誰に言うともなく呟く。あまりに予想外の答えであったためか、大上王が目を丸くして驚いている。


「わかった、と言われたのか。何が、おわかりなのかな」


「もしかしてシディー、犯人がわかったのか?」


リノスが小声で話しかけてくる。彼女は彼の眼をじっと見て、その通りだという感情を伝える。


「じゃあ、さ。すまないけれども……」


リノスがシディーの耳に顔を近づけて何かをささやいている。シディーの表情が見る間に険しいものになっていく。


「それ、私が言うの?」


「ぜひ、お願いします」


「すっごい面倒臭い感じがするのですけれども、大丈夫でしょうか」


「大丈夫大丈夫」


リコもメイも不思議そうな表情を浮かべている。シディーはオホンと咳払いをして、フッと小さなため息を漏らすと、キッとした表情をすると、勢いよく立ち上がった。


「犯人は、この中にいるッ!」


「まことか! して、誰じゃ。誰が犯人なのじゃ!」


そこまで言うと大上王はリノスの左右に控えているリコとメイを交互に見ながら、オホンと咳払いをすると、落ち着いた声で、


「うう……ぜひ、お教え願いたい」


と少し頭を下げた。シディーは心の中で、そうやって神妙に言えば、こっちだってちゃんと教えてやるんだよ、と悪態をついていた。


「きっと、犯人はこの人です」


「証拠は?」


「この人を調べましたか?」


「……調べては、おらん」


「剣豪が斬られていることを発見した人だから?」


「ううっ……」


「きっと、嫌疑かけられているサラボさんでしたっけ? その方の後にやって来たのが、この方じゃなかったですか?」


「そ、その通り、じゃ」


「では、この方を調べてみればわかると思います。おそらく、まだ凶器は処分してはいないでしょう。家のどこかに隠しているはずです。もし気になるなら、ここにいるメイちゃんに調べてもらうといいです。きっと、血の跡がわかるはずです」


「……ううむ。早速調べさせよう」


大上王はそう言うと、パンパンと手を打った。すぐに近習の一人が入ってきて、彼の前で片膝をつく。大上王は何やら呟くと、男は脱兎のごとくその場から走り去っていった。


「騒々しくて、申し訳ありませんね」


メインティア王が皮肉っぽく笑いながら口を開いた。


「しかし……あれほどの剣の使い手をどうやって殺したのか……」


不思議がる大上王に、シディーは背筋を伸ばしながら口を開いた。


「それでは、なぞ解きを申し上げます。これはまだ、私の推測の域を出ませんが……」


皆が固唾を飲んで彼女の話に耳を傾けた。


◆ ◆ ◆


事件は呆気なく幕を閉じた。犯人が自供したからだ。まさにシディーの言う通りの結果となった。


犯人は骨董屋のオヤジだった。この店と殺されたサラボの間にはまだ、未払いの金が多く残っており、その取り立てがトラブルの原因だった。


むろん、金を払わなかったサラボにも責任の一端はあるが、偽物の剣を本物と偽って売ったこの商人に責任の大部分があった。


シディーの予想はこうだった。まさにこの通りに殺人が行われていた。


「骨董屋は剣を持っていったのでしょう。これは名剣だ何だと説明をして、剣豪の前で剣を抜いたのです。それを剣豪がのぞき込んだそのとき、男は腹を刺したのです。そうしておいて、袈裟懸けに斬った。凶器に使った剣は元の鞘に収めたのでしょう。剣を売りに来たら死んでいましたとか何とか言って訴え出たのです」


まさにその通りであった。骨董屋が語った殺害の様子は、寸分たがわずシディーが推理した通りであった。


疑いが晴れた剣豪は、その場で釈放された。大上王はその足で自分の許に来るように命じ、彼をリノスたちに引き合わせた。


一目見て、なるほど、人を殺すような人ではないと皆が思った。それ程、彼の体からは高潔さが漂っていた。長く伸びた白い髭と後ろで束ねた白髪が、神々しさに拍車をかけているように見えた。


剣豪サラボは、腰を折って丁寧にリノスたちに礼を言った。そして、また生きてしまったと小さな声で呟いた。


彼はリノスに視線を向けると、礼に自流に伝わる奥義を伝授しようと言い出した。あなたならば、できるはずだと言って、彼はその場に座った。剣は右手に置いている。


「待てサラボ、その奥義は己の弟子に伝えよ」


大上王が口を開くと同時に、彼はスッと平伏したかと思うと、右手指で鞘を払い、左手で剣を持って振るった。目にも留まらぬ、ほんの一瞬の出来事だった。


「見事……」


リノスが驚いた表情で頷く。


「いいものを見せてもらいました。今の俺にはできないですが、稽古して、いつかは身につけたいと思います」


その言葉に、剣豪はニコリと笑みを浮かべた。


「なるほど……これだけ優れた剣技があったから……」


全員の視線がリノスに集まる。彼はゆっくり頷く。


「だから、嫌疑がかかったのですね」


恐ろしい静寂が辺りを包む。皆の顔が強張っていく。


「うふっ、あはっ、あはははは」


メイが人懐っこそうな顔でケラケラと笑いだした。その何とも言えぬ春風駘蕩な雰囲気に、全員の顔がほころぶのであった……。

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