第百一話 飲んで食ってホッと一息
「やっと終わりましたね」
「あとは結果を待つのみだな」
ニザ公国の農耕地に盛り土をすることひと月、ようやくそれが完成した。しかも、山を切り開き、運び出した土を盛り土にしたため、結果的に耕作地が広がったのだ。
当然、使用する水は、新たに掘った湧き水を使用している。森の奥深くに大量の地下水が埋没しているのを発見したため、早速掘り出したのだ。
用水路を整え、畑に水を撒く。念のため、フェアリの毒物を中和する粉とメイが作った薬品を散布する。小さいフェアリードラゴンがパタパタと畑の上を飛び回る姿は、なかなか癒されるものがあった。
「ご主人様、終わりましたー」
「ありがとう。よくやってくれた」
「えへへ」
フェアリは、最初は舌足らずな念話を送って来ていたが、最近はかなりしっかりとした念話を送ってくるようになった。ペーリスやフェリスたちお姉さまから人語も学んでいるようで、もうしばらくすると喋れるようになりそうだ。
俺はフェアリの頭をなでながら、メイの作った肥料が撒かれている光景を見る。瞬く間にそれが終わり、種が撒かれて、とりあえず俺たちの第一目標は完成したのだった。
「よーし、みんな、ご苦労だった!今日は宴会だ!飲んで食うぞ!」
「うおおお!!!」
野郎どもの歓声が上がる。やるべきことはすべてやった。あとの結果は天に任せるほかはない。その夜は帝都からリコたちも呼び、飲めや歌えのドンチャン騒ぎになった。
そんな光景を俺はぼんやりと眺めていた。
「どうしたのです?リノス」
色々な食材を運び、料理してくれたリコが声をかけてくる。
「いや、一つのヤマが越えられたなと思ってね」
「ご苦労様でした」
「このひと月、ご主人とメイ殿はよく働いたでありますからなー」
俺は、歓喜の輪の中にいるメイを見る。ここでも彼女は土や毒の鑑定、果てはドワーフと共に農具を開発するなど、文字通り八面六臂の活躍を見せていた。それだけに現場の人間からの信頼は抜群で、メイの周りには多くの野郎どもが群がっている。
「本当に、メイはよくやってくれた。あとは、コンシディー公女もだな」
コンシディーはメイと同じように野郎どもに囲まれて、楽しそうに酒を飲んでいる。彼女も、現場作業はもちろん、もともとドワーフということもあって鍛冶スキルがあるために、メイとたちまち仲良くなった。今ではメイの片腕のような存在になりつつある。盛り土の作業がこれほど早く終わったのは、彼女無くしてあり得なかったのだ。
「そうでありますなー。コンシディー様は才能豊かな才女でありますなー」
「ああ、俺が王様なら何か、褒美を与えたいくらいだよ」
「でしたらリノス、帝都の屋敷にコンシディー様を招待してはいかがです?」
「そうだな、彼女の返事次第だが、屋敷で皆でうまいものを食うか!」
「「賛成です!!」」
フェリスとルアラが元気に返事をする。
「では、メニューをリコ様と考えますね」
「悪いな、ペーリス。勉強の邪魔にならない程度に頼むよ」
俺の屋敷で慰労会をするという話に、コンシディーは大喜びで賛成し、数日後、転移結界を使って彼女はやってきた。
色々と準備をする中で、俺たちだけでは勿体ないということになり、屋敷の庭を大解放し、我が家の主だった者たちを集めての大慰労会になった。
帝都からは、リコ、ゴン、メイ、ペーリス、フェリス、ルアラ、フェアリ、イリモとジェネハたちハーピー。そしてクルムファルからピウスたちと共に、ゲーキとイトラもやってきた。最近彼女は体が大きくなってきたが、愛らしさは相変わらずだ。その他、カイリークとトホツからカールスとマルセル夫婦とその家族たちも招待した。さすがにゲュリオンの姿を見るのが初めてのドワーフたちは、かなり動揺していたが、リコたちに懐いている姿を見て、徐々に安心していったのだった。
「みんなよく来てくれた!今日はゆっくり飲んで食ってくれ!」
用意された刺身、天ぷら、肉、野菜、グラタン、パスタ、スィーツ・・・などに舌鼓を打ちながら皆と談笑する。その中に見慣れない一人の青年の姿を見つけた。
「バーサーム侯爵様、本日はお招きにあずかり、光栄です!」
なぜか一人だけ正装しているので、メチャメチャ浮いている。
「君は?」
「私、クラリフォン子爵家のクラリフォン・サエリ・チューリーと申します。ペーリスさんとは、大学で同じで・・・ええと・・・」
「クラリフォンさんはとても料理に興味があるので、せっかくですから招待しました。普段着でいいって言ったんですけどね~」
「ああ、ペーリスの友達か。いつもありがとうね」
「とととととんでもない、こちらこそ、ペーリスさんにはお世話になっています!」
ガバッと彼は腰を折ってお辞儀をする。
「クラリフォンさん、リノスさんの料理もあります。ぜひ、参考にしてくださいね」
「ああああありがとうございます!」
顔を真っ赤にして答えている。この青年は、あれだな。早速ペーリスに話を聞く。
「クラリフォンさんはすごく料理に興味がありまして、私のお弁当を参考に、色々と料理を考えているみたいです」
「へぇ~彼も料理をするんだ」
「料理をすることは見たことはありませんが・・・。ただ、夕食の残りものを詰めたものをたまに持って行ってあげています。そうだ!クラリフォンさ~ん」
名前を呼ばれた青年は飛ぶようにペーリスの所にやってきた。
「あちらで料理ができます。まだ食材が余っていますから、よかったら何か作られますか?そういえば私、クラリフォンさんが作った料理を食べたことなかったんですよね~」
「え?料理?僕!?」
青年は固まってしまっている。
俺はリコに目配せをする。
「クラリフォン様、今から私も追加で料理を作りますの。よければご一緒にいかがですか?」
「リ、リコレット様!そ、そんな、恐縮です!」
「まあ、そのように畏まらなくてもよろしいですわ。どうぞこちらにいらしてくださいませ」
「ハ、ハイ・・・」
ドナ○ナのように、青年はリコに連れて行かれてしまった。頑張れ青年、俺は陰から応援するぞ!
しばらくすると、帝都からウィリスたちが転移してきた。ウィリス、シェーラ、ユリエルとソーニヤ親子だ。
「ウィリス!よく来たな!もう店はいいのか?」
「ハイ、本当に大忙しです。秋の収穫をお客様が楽しみにしてます」
「そうか。今日はゆっくり飲んで、食べていってくれ!」
「その前に、ご主人様にお願いがあるんだ」
「何だ?」
ウィリスの後ろから見慣れない猫人族の女性が姿を見せた。なかなか目力があって、しっかりしてそうだ。
「彼女はティーラ。冒険者をしていたんだけど、パーティが解散してしまって・・・今は店を手伝ってくれているんだ」
「ほう、その猫娘がどうした?正式に雇いたいのか?」
「それもあるけれど、できれば・・・彼女と結婚させてほしいんだ」
「結婚?」
「・・・ご主人様、私からもお願いするのじゃ。ティーラはいい人なのじゃ。兄様のお嫁さんにしてあげたいのじゃ」
「ああ、いいよ。全然。おめでとう!」
「ありがとうございます。ご主人様」
「おーい、みんなちょっと聞いてくれ!こいつはウィリス。帝都で店を任せている。コイツがたった今、結婚することになった。お嫁さんはこのティーラだ!皆で祝ってやってくれ!」
「うおおおー!おめでとー!!!」
「なんだ!かわいい嫁さんもらいやがって!」
ウィリスは皆にもみくちゃにされながら祝福されていた。彼は泣いていたが、それがうれしさの涙であったのか、痛みによる涙であったのかは、敢えて追及しなかった。
宴もたけなわになり、皆、それぞれの家に帰っていった。屋敷に残ったのは、俺たちとコンシディー公女だけになった。
「じゃあコンシディー様、ニザまで送りましょう」
「私、夢を見ているんじゃないですよね?」
「どうされました?」
「こちらにお邪魔してからずっと不思議でした。人間、魔物、獣人、海人族、猫族、そしてドワーフ・・・これだけの種族が一堂に会して食事をするなんてこと、今まであったでしょうか?」
「・・・ないと思いますね」
「本来ならば敵同士になっていてもおかしくない種族もいます。その人たちとお酒を飲むなど・・・」
「リノスの所にいれば、そんな種族の問題は全くなくなるのですわ」
「リコレット様・・・」
「それが私の主人、リノスの最大のスキルなのですわ」
「こんな光景が、世界中のあらゆる場所で見られたらいいのに・・・」
「本当に、そうですわね」
「今度は、ポーセハイの奴らも呼んでやりたいな」
「そういえば、侯爵様に預けられたポーセハイは、どうしているのですか?」
「どうも何も、クルムファルで活動していますよ。思った以上に好評で、彼らが世界一になるのも、時間の問題だと思いますよ?」
コンシディーは不思議そうな顔をしながら、メイに伴われてニザへと戻っていった。
「・・・シューセより本部どうぞ」
「本部です、どうぞ」
「C-18地点、人手が足りません。増援願います」
「了解。ニツグ、本部です。どうぞ」
「どうぞ」
「C-18地点への増援をよろしく頼む、どうぞ」
「了解しました」
深夜のクルムファルに、黒い毛皮に覆われた兎人族が突然現れる。彼らは「念話」と「転移」スキルを活用して、医療活動を始めていた。各町と農村に配置されたポーセハイは、瞬く間に医術スキルを開花させ、住人にはなくてはならぬ存在になっていた。それだけでなく、人手が足りない場合は転移によって補い合い、かなり迅速で高度な医療活動が行えるようになっていた。
ミニーツの緊急招集に応じられなかった老人や子供、その母親たちもまとめて転移してきており、それらを合わせるとクルムファルのポーセハイは、100名近くになっていた。
その人々も活用して彼らは、救急活動を行うよう試行錯誤を重ねていた。後にそれは実を結び、多くの住人から感謝されることになる。彼らは名実ともに「世界一の医療集団」となるのだが、それはまた、別のお話。




