出会いは桜の中で
「暇だ、暇すぎる」
珍しく早起きをした朝、北見 隼はそんな言葉を口にしていた。
窓からは朝日が差し込みその暖かな光で部屋を包み込んでいる。
季節は春ということもあり寒すぎず熱すぎずのいい室温だ。
やはり季節の中で一番好きなのは春か秋にだろう、ただ花粉が飛んでいることだけが難点だが
この際その点には目を瞑るとしよう。
時刻は現在6:30
いつもより1時間も早い6:00に起き、朝日とはこんなにも眩しく気持ちの良いものだったのかと思いつつゆっくり目に支度をしていたのだがそれでも時間は有り余っている。
(...今季のアニメを見るにも今のところは全部見終わってるしな、こりゃ本格的にやることがない。)
そう、なにを隠そう俺は世間一般から言われているところの所謂オタクである。
二次元を愛し、二次元に生きる!
までとはいかないがラノベも買い、アニメも欠かさず見ている為この人種に属していることは間違いないだろう。
俺の家は学校から割と近い位置にあるため登校にあまり時間をかけずにすんでいる。
徒歩で約15分、学校の遅刻ラインは8:30のためあと1時間45分ほどは家にいられる計算になる。
二度寝しようかと考えたがそれこそいけない考えだ。
今寝てしまったら最後、間違いなく1限目には出られないだろう。
それほど俺は朝に弱いのだ。
かつて朝から一人で出かけようと携帯のアラームを5個、目覚まし時計を1つのバリケードを張っていたのだが
すべてを華麗にスルーして午後まで寝ていたこともあるくらいでぶっちゃけ今日早起き出きたということは奇跡に等しいくらいだ。
俺の奇跡しょぼすぎだろ。
寝るという選択肢がなくなった今俺に取れる選択肢は3つある。
1,このまま時間がくるまで家でのんびりと過ごす
2,出されている課題を片付ける
3,諦めて学校へ行く
どうしようか迷った挙句素晴らしいことに気が付いてしまった。
「そうだ、学校へ行って寝れば遅刻をせずに寝れるという完璧な未来が待ってるじゃん!」
そうと決まれば早速家を出よう、やることが決まった今一秒でも時間が惜しい。
俺は机の上で突っ伏して寝るという使命を手に入れたのだ、1時間30分ほどの安眠は誰にも渡さないぜ。
などと馬鹿なようなことを思いながら家を出た。
------------------------------------------------------------
鳥がさえずり、羽ばたいていく。
とても気持ちのいい晴れ日和だ、雲ひとつなくその空は限りなく晴天に近い。
こんな綺麗だとまるで自分の心まで晴れ渡るかのようだ。
早起きっていいかもしれない、これからももう少しだけ努力してみるかな
と考えさせるくらいその日はすがすがしかった。
考えさせるだけで実行するとは言ってないが、思うだけでも大事ということにしておこう。
雲がないため少し暑さを感じさせる日光だが適度に吹く風がまた心地よい
昨日見ていたアニメの主人公とヒロインの出会った時の天気もきっとこんな感じだったに違いない。
家を出て歩きながらいつものように昨日見たアニメの余韻に浸っていた。
オタクにとって頭の中で思いだし回想することはとても重要なことである。
昨日見ていたものはお互いのことをまだ知らない主人公とヒロインが
朝通学路でたまたま顔を鉢合わせ主人公が一目惚れし、そこから恋が始まっていくというものだった。
......俺もそんな劇的な出会いをしてみたいなあ
こんなに気分がいい日なのだから一つくらい、いいことが起きてもいいんじゃないか?
例えばそこの交差点にかわいい女の子がたっていて自分になにか尋ねくる。
そしてそこから二人の甘い甘い恋が発展していくわけで...
「......そんなあほらしいこと起きるわけないよな」
自分で考えた夢物語に自分でツッコミを入れ学校へと向かった。
しばらく歩いていると少し強めの風が吹き視界にピンク色の何かが入ってきた
そうか、もうそんな季節か
舞っていたのは桜の花びらであった
ここは桜通り
名前の通り道路の道沿いに桜の木々が立ち並んでおりアーチを描いている。
ここの道をカップルで通るとその二人はずっと幸せになれる
なんて甘ったるくバカバカしいような噂もあるくらいここいら一体では有名な通りとなっている。
そんな根の葉もない噂は知らないが
とにかくなにか運命的なものを感じさせる不思議な場所であることは常々俺も感じている。
この道をまっすぐ行った先の交差点を左に曲がると神社があるのもそんなことを感じさせる原因だろう。
今年は例年よりも開花が遅かったらしく4月の下旬になった今
ようやく散り始めているのだろうか。
まるで早起きした俺を祝福しているかのよう...ごめんなさい、ちょっと調子に乗りました。
だが祝福されていたというのはあながち間違いではなかったのかもしれない
ちょうど目の前の桜の絨毯の上に白く四角い何かが落ちていた。
A4くらいの大きいものだったので気になって拾い上げて見るとそこには地図が書かれていた。
手書きで書かれた地図はとてもカラフルに仕上がっており目的場所にはご丁寧に☆マークまでつけてある。
なんともかわいらしい、きっと女の子が書いたのだろう。
「あっ、」
突然気の抜けたようなかわいらしいな声が聞こえてきた。
拾った地図から目を離し顔をあげてみるとそこには
美しい一人の女性が立っていた。