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【二期から結末分岐】お妃様シリーズ

奔放娘と窮屈なドレス

作者: 滝革患

それは今から二十年ほど前の事だった―――――。


「お嬢様!どちらに行かれましたお嬢様!」

メイド達はバタバタと走り、血眼でワタシを探している。

「姿をお見せくださいませ!」

隠れているのに出て来いと言われて出てくる馬鹿がいたら見てみたい。


どう抜け出そうか、辺りを見渡してみたら丁度よさそうな木があった。

(ここから逃げてやろう!)

屋敷の窓から飛び下りると、ギリギリ、木には届かなかったせいで、ワタシはそのまま地面に落下した。


(いたくない…なんだこれは?)


落ちた所に丁度よいクッションがあったからワタシは怪我も痛みもなくて、無傷だった。


「すいませんが…どいて貰えますか」

なんだ尻に敷いたのはクッションじゃなくて人間だったのか。

「退いてほしかったらちょっとの間ワタシを隠してもらえないかな、いいよね?」

申し訳ないと思うけど、この気弱そうな人にかくまって貰おうと取引をもちかけた。


「はっ…はい」

(この人なんでこんなにおどおどしてるんだろ)

「実はボクも逐われてて逃げてるとこなんです」

つい敷いちゃった人が眼鏡をかけ直しながら言った。

====

そんなこんなで一緒に隠れる事にした。


「何で落ちてきたんですか」

「何で逃げてたの?」

ワタシ達はおたがいに同じタイミングで聞きあった。


「じゃ、ワタシから話すわね」

ワタシが屋敷から逃げ出したのは、親の決めた婚約者を紹介されるのが嫌だからで生まれた時から他人に指図されるのと窮屈な貴族の生活が嫌いだった。


自由を追い求めるワタシに、あの邸は狭すぎる。

広々とした草原を、ただ動物みたいにかけまわったり

肉を食べるより緑いっぱいのサラダを草食動物のように食べる

だからワタシは邸を飛び出して新たな壮大な場所に旅立とうとした。


「なんやかんやでアナタがあらわれたってわけー」

(あれなんで汗ダラダラさせてるの?)

この眼鏡、ちゃんとはなし聞いてたのか怪しい

「うわあ!!裾が砂で汚れてますよ!!」

このドレス、邪魔なだけで役に立ちそうにないから裾を破いて短くしよう。


「まっ待ってください!なにしてるんですか!?」

ドレスを裂こうとしたら強く止められた。

さっきまでおどおどしていたのに、こんなきりっとしてる声も出せるんだ。


「何って短くして歩きやすくしようと思っただけだけど」

まさか見栄えが悪くなるから。とかいうんじゃないでしょうね――――


「そんなことをしてはドレスを作った職人さんが悲しみます!」

このドレスは、確かに装飾が細かいし顔も見えない職人がきっと丁寧に作ったものだ。

「そっかそうだよね」

いままでそんなこと、考えたことなかったな。

「えっ偉そうなこといってすみませんでした!」

(だからあやまらなくていいのに)

「えっと…どうお呼びすればいいですか?」

そんな回りくどい聞き方しなくても名前が知りたいならそういえばいいのに。

「ワタシはエステールよ人に名前を聞くならまず自分から名乗ってもらいたいんだけど」

つい刺のある言い方になった。


「すっすみませんボクはキルテズです…でも教えてくれるなんて優しいんですね!」

気にしてないのか案外図太いみたいだ。


「その…歩きにくいんですよね?」

そんなことをかんがえているとドレスの裾の汚れをはらってくれた。

「そうだけど」

キルテズはなにかいい方法でも思い付いたのか。

「それじゃあ…じっとしててください」

どこから取り出したのか、針と糸でドレスの裾を綺麗に縫っていく。


「ありがと歩きやすい!」

ドレスは踝が出る丈になっていちいち裾をもたなくても転ばないようになった。

「なに?」

キルテズが無言でじっとみてくるから

ワタシもじっとみてやった。


「いっ言わないんだなぁと思いまして…男が裁縫なんて…とか」

全然そんなこと気にしてる時間もなく

ちゃっちゃと仕上げられていたし

裁縫屋にだって男はいるじゃないか。

「べつに騒ぐようなことでもから」

「そっそうですか…!」

なんとなく嬉しそうにしていることくらいはわかった。

===

「あ…曲がってる」

眼鏡のかけるところがまがっていた。

「なら眼鏡をとってよ直してあげる」

外側のポケットから取り出した。

金属なら趣味でこっそり弄っていたから手持ちの工具で直してやった。


「ドレスって便利なんですねボクも見習おう…」

キルテズはなにかをメモしている。

手に持ちながらで書きづらそう。


「羽根ペンって不便じゃない?ワタシがいつか良いペン開発してあげるからその時はアナタが一番に使っていいよ」

ワタシは金属を持ちやすく改造して立ったままでも書けるペンを作ることにした。


「たっ…楽しみです!」

すっごく喜んでいるなキルテズ。

「でもアナタの行き先次第じゃ次、いつ会えるかわからない」

自分からした約束はちゃんと果たさないと気が済まないから

「うーん…困りましたね」

「じゃあワタシ、アナタについていく事にする」

キルテズはやっぱり断らない

==

「それにしても…黒髪の人がごろごろといますね」

「アナタの国にはいないの?」

ああ、よくみるとキルテズは白髪だ。

「あ、ボクの国必ずといっていいほど白髪か金髪しかいないんですよ」

伝説やらなにやら細かく説明された。

髪色が決まっているのは珍しい。

この国で白髪や金髪はすくない

けどいないわけじゃないし

出身国の話も聞いた。というわけでキルテズは観光客かなんかだと決まったわけだけど

「アナタ追われてるっていったけどまさか船にこっそり忍び込んだ?」

「そっそんなことしてません!」

涙目でちがうというキルテズはなんとなくかわいかった。

===

「その眼鏡大事なの?」

「えっと…実は変装の為です…」

どーりで眼鏡が似合っていないわけだ

「信じられないかもしれないんですけど…ボク、皇子なんです」

「へー皇子なんだ」

逃げていたときと、雰囲気でなんとなくそんな気はしていたから特に驚きはなかった。

皇子が国を飛び出して旅行

たまたまワタシが下敷きにしただけだ。


「国は大丈夫?」

「優秀な弟がいるので」

そういう問題か、弟が可愛そうだと思わないのか

と言いつつワタシも優秀な姉に任せたようなものだった。


「そっかワタシも姉さんに何も言わずに出てきちゃった」

「じゃあ…手紙書きましょう」

手紙、いいかもしれない

許して貰えるわけないけど。

===

それから数年、二人で旅をして、服飾の町、キルティタウンに移住することになった。


今日はワタシとキルテズの結婚式の日―――――

式が問題なく終わったというのに、隣には浮かない顔のキルテズ。


「どうしたの」

「婚約者さんに申し訳ないというか」

ワタシが婚約者から逃げて今に至るわけだから仕方がない。

「じゃあワタシと結婚したくなかったんだ」

「そっそんなことありませんよ…!」

押しに弱いキルテズ、この先お店の経営が心配だから

ワタシがついていかなくちゃ

自由を求めていたのに家族というもので縛られる道を選んでしまったけど

彼になら縛られるのも悪くないから、不思議と後悔はしていないのだ。

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