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三題噺

三題噺 お題「卒業」「スイーツ」「雑草」

作者: 葵悠静

今日は卒業式

この子達にもずいぶん色々なことを教えてもらった


別れが名残惜しくなるのは歳をとった証拠だろうか


私は卒業式で泣いたことがない

生徒達に思い入れが無いわけではない

むしろ、他の先生方より思い入れが強い生徒だって何人もいる


しかし、思い入れがあるからといって泣くのは違う

私にとっては別れかもしれないが生徒達にとっては新しい旅の始まりなのだからそれを泣いて見送るようじゃ幸先が悪い


だから、私は毎年涙腺が崩壊しないようにするので必死だ


「先生、ホームルーム始めてください」


「ごめんごめん、じゃあ起立、礼」


今年の卒業生達は三年間ずっと担任をした生徒が何人もいる、思い入れが格段に強い


「今日の卒業式終了後、課外授業を行います!勝手に帰らないようにね~」


『え~』


私は三年生を持つと卒業式の後必ずこの課外授業をしている

私自身のときの卒業式の後にしてくれた課外授業が忘れられないからだ



「はーい、皆写真とるんだから泣くのはやめ!笑顔で撮ろうよ」


卒業式の後泣く生徒はたくさんいる

友達と離れたくなくて泣く子、学校が好きで泣く子、泣く子を見てつられて泣く子、様々だが私はそのどれもが美しいと思う


「みんな、写真とった?じゃあ課外授業にいきます、はぐれないようにね~」


私は生徒達を連れて30分ほど歩きちょっとした森にたどり着いた


「こんなとこあったんだ」


「草ばっかりだね~」


「でも学校の周りより空気が澄んでる気がするね」


私は生徒達が口々にしゃべっているのをよそに目的のものを探していた


「あ!あった……みんな!こっち来て!」


私は生徒達を呼ぶと葉っぱの上から小さな芽が生えてる草を摘み取った


「みんな、この葉っぱを見つけたら一人一つずつ摘み取って!絶対に一つずつだよ」


私がこういうと毎年生徒達は不満そうな心配そうな顔で私を見る


「なんで、そんな雑草をわざわざ探してまで摘み取らなきゃならないんですか!」


私はいつも変わらぬ質問に思わずくすりと笑ってしまった


「いいからいいから!摘み取ってからのお楽しみ!」


こうして生徒達はしぶしぶ、でもどこか楽しそうに友達とわいわいいいながら雑草を摘み取っていた


そして10分後、全員の生徒の手には私が持ってるのと同じ葉っぱを持っていた


「じゃあ、私を見ててね」


私はアップルパイを思い浮かべるとなんのためらいもなく葉っぱの芽の部分をくわえた


すると、周りから息をのみ、ざわざわと動揺した生徒の声が流れはじめた


「この葉っぱは先生が皆と同じくらいのときからあった不思議な葉っぱです、この葉っぱを食べる前になんでも好きなスイーツを思い浮かべてください、そして芽だけ食べてください、いい?芽だけだよ?下の葉っぱはただの雑草だからね?じゃあ皆やってみよう!」


私が一番最初に食べているからか私の説明を聞くと生徒達は不安そうな顔から好奇心溢れる顔へと変わっていった


「先生~、カツ丼はスイーツに含まれますか!」


「源太、バカなこといってるとそこの花を口に突っ込むぞ」


場の空気がなごんだところで私は地面から不思議な葉っぱを摘み取ると生徒たちの方を向いた


「さあ、皆好きなスイーツを思い浮かべて食べてみよう!これが私からの贈り物です!せーの!」


私は今度はモンブランを思い浮かべて芽を食べた


私の口の中いっぱいにモンブランの味が広がると同時に生徒達から驚きと感動とやらが混じった声が周りいっぱいに響き渡った


「すごい!ほんとにマカロンの味になった!」


「俺はカツ丼じゃねえけどちゃんとようかんの味だ!」


「私はアイスよ!」


「みんな、成功したみたいだね、この、雑草の仕組みは私も知りません、だから不思議な葉っぱって勝手に呼んでます、私は皆にこの雑草を食べてもらったかというと…」


私は皆の目を見て続けた


「この雑草のように夢を叶える人になってほしいなって思うからです、この雑草は他人のこのスイーツが食べたいっていう夢を叶えます、それも一つの夢の叶え方です。私は皆に小さなことでも大きなことでもいいから夢に向かって伸びていくような人になってほしいなって思います、この雑草、いつなくなるかわからないから皆食べに来ちゃダメだよ?」


最後は冗談混じりに伝えるがこの瞬間はいつも緊張する

私の思いが皆に伝わるかどうか分からないからだ


しかし、私は生徒達の目を見て確信した

私の思いはちゃんと伝わってる


「…以上で課外授業、私の最後の授業を終わります、礼」


『ありがとうございました』



こうして私の生徒達は今日新たな道へと旅立っていった


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