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アボーテッド・チルドレン  作者: 襟端俊一
第一章 始祖
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 決着は付いた。

 二分されていた『IA』が闇に塗り潰された瞬間に現実で目を覚ました神慈は、体に何の変化も起こっていないことを確認した後、ゆっくりと体を起こして隣で横たわっている子愛の様子を窺った。

 子愛の頭の天辺から伸びた釣り糸のような細い糸が、神慈の右人差し指に繫がっている。

 恐らく、これが子愛の言っていたパペッターにしか見えない糸だ。

 子愛が神慈のパペットになった証でもある。

 子愛は神慈と同様に目を覚ましているのだが、一向に起き上がる気配が無い。

 それ以前に生気すら感じられなかった。

 ゼンマイを巻いて貰うのを待っている人形のように、先程までの快活さが消え失せている。


「敗者は勝者の操り人形、か」


 軽く子愛の肩を揺さぶってみるも反応はない。

 操り人形と例えていたのは、命令されない限り動くことができないということを意味していたらしい。

 一端子愛から視線を移し、周囲を見渡してみる。


(……そうか。二人きりになりたかったのはそういうことだった訳か)


 戦闘状態のメディウムは、これ以上ないほどに無防備だ。

 状況からして、神慈と子愛は戦闘状態に入った瞬間に意識を失ったのだろう。

 任意の相手を操り人形にできるこの力は、沙癒里を守っていくのに有効活用できそうだが、時と場合を選ぶ必要がある。

 例えば、階段の途中などで行ったら転げ落ちてしまう。


「子愛、立ち上がれ」


 試しに簡単な命令を与えてみる。

 すると、


「……」


 子愛は無言で命令を聞き、立ち上がった。

 見た目は人間なのに、物が意志を持って動いている方が近いという印象だ。


「これ……どうやったら元に戻るんだ?」


 神慈は思ったことを口ずさんだだけだったが、鍵をかけた扉の向こうから返事が聞こえてきた。


『普段通りに行動しろ、とでも命令すれば元に戻りますよ』

「!」


 聞き覚えのない声だった。

 しかしそれ以上に、メディウムの力を知っていたことが神慈の警戒心を煽った。


「誰だ」

『ご安心を。敵ではありません』

「ずっとそこで聞き耳を立ててたんだろ。なら俺が今、どんな状況にいるのかも分かるはずだ。それを知って尚、不法侵入者の言葉に俺が耳を傾けると思うか?」


 神慈は今正に敵襲を受けて、窮地を脱したばかりである。

 一刻も早く自分と沙癒里の身の安全を確保して、安心したいというのが本音だ。

 そんな怯えきった精神状態で、わざわざ危険に足を踏み入れる馬鹿はいない。


『……失礼しました。始祖様の身に危険が及んでいることを知って、いても立ってもいられずに……。後日、改めて訪ねさせて下さい』


 足音が遠ざかっていく。

 念のために鍵を開けて確認を取ったが、車庫には誰もいなかった。

 本当にこの場を去ったようだ。


(気になることを言ってたな。明日、司書殿に聞いてみるか)


 さて、と子愛に向き直る。

 今さっき言われた通りに命令して、子愛が元に戻ったとする。

 神慈と子愛は、パペッターとパペットの関係になった。

 普段通りに行動しろ、と言って子愛が元に戻ってしまうと、また戦いを挑まれるのではないだろうか。


(さっきのが子愛の仲間だとしたら……都合の良いことを言って子愛を助けようとしたとも考えられる。あいつも俺のことを始祖様とか言ってたしな。……、)


 神慈は考えた末、

「携帯、持ってたら貸して」

「……」


 子愛は無言で内ポケットからスマートフォンを取り出し、差し出してきた。

 神慈のスマートフォンと同じく赤外線通信ができるタイプだったので、手早く連絡先の交換を済ませて子愛に返す。


(良し。後はこの子をどうするかだな)


 神慈はおろか沙癒里まで狙っていた子愛を、このまま野放しにはできない。

 せめてメディウムのことに詳しそうだった司書殿と話すまではここにいてもらわなければ。

 時刻を確認すると、既に八時を回っていた。

 夕食の時間を一時間もオーバーしている。


(……どうして母さんは何の連絡もしてこないんだ?)


 まさかと思い、子愛を置いて一目散に玄関までの階段を駆け上がる。

 扉を開けて、そこで目にしたのは。



 おひつを抱いて正座をしている沙癒里の姿だった。



 何故かその目尻には涙が浮かんでいて。


 おひつの中身は、お赤飯で。


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