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アボーテッド・チルドレン  作者: 襟端俊一
第四章 スポットライトを浴びるのは
29/37

「良かったんですか? あのままで……」


 玄関を出て階段を下りると、この中では一番神慈の気持ちを理解できるであろう衣琉が、気遣うように聞いてきた。


「全部終わったら土下座でも何でもするさ」

「はは……母親相手だと土下座もやむ無しですか。マスターも形無しですね」


 いつか衣琉に対して言った言葉を思い返し、神慈は苦笑いを浮かべた。

 次に神慈が視線を移したのは、力任せに殴ってしまった執事さんだ。


「……執事さん、すみませんでした」

「いいえ。神慈殿の愛情が伝わってきて、むしろ嬉しかったですよ」


 しわを寄せて笑みを見せる執事さんに、神慈は視線を逸らして頬を掻いた。

 沙癒里の前で謝らなかったのは、神慈らしからぬ子供のヤキモチだったから。

 あのとき、沙癒里に言われて我に返った神慈は、すぐに自分の過失に気付いた。

 それと同時に弁明の余地がないことも理解した。

 主従の綾糸の話をしても沙癒里には理解できないのだから、何を言っても無駄だと。

 そんな絶望の淵に立たされていた神慈を、執事さんは大人すぎる対応でもって庇ってくれたのだ。

 それが悔しくて、あの場では受け入れられなかった。


「それはもーいーでしょー。それよりもお兄ちゃんっ、の口から言ってよ。さっきのはんのー見れば、アタシでも大体のそーぞーは付くけどねー」

「……母さんと執事さんが主従の綾糸で繫がってた。その糸は更に遠くの方まで続いてて、先が見えない」

 家の近くにある商店街の方を指で示す。


「なら一刻も早くその糸を辿って沙癒里さんを追いましょう!!」

「いや、待って。それは多分、時間の無駄だよ」

「え――。な、何ですかあなたは」


 鳴海衣琉と御伽月香は同じ一年生のはずだが、この様子だとどうも初対面らしい。


「マスターの新たなパペットになった鳴海衣琉です。確かにあなたの言う通り、糸を辿ればいつかは必ず犯人の下に辿り着く。でもその犯人が、手当たり次第に一般人をパペットにしていたらどうかな。僕達は延々とたらい回しにされる可能性がある」

「それは……確かに有り得るかもしれませんね」


 リーダーはパペットを従える事を毛嫌いしている、というのが衣琉の見解だったが、沙癒里だけならともかく執事さんまでもがパペットにされてしまった事を考えれば、不特定多数の一般人がパペットにされていてもおかしくない。


「なあ、子愛と衣琉はリーダーの向かった先に心当たりないのか?」

「んー。三人で集まるときはいつもファミレスだったしねー」

「僕も連絡先を聞くのが精一杯で、その他の個人情報は教えてもらえませんでしたね。学院に行けば住所くらいは調べられるかもしれませんが……」

「……あっ。そういえばお爺さん!!」


突然、月香が何かを思い出したように執事さんを指さした。

 彼はメディウムの力については何も知らないので、先程から不思議そうに話を聞いている。


「はて?」

「侵入者と顔を合わせたとき、顔見知りのような反応をしてませんでしたか?」

「「「!!」」」

「……すみませんが、全く記憶にありません」

「そうか……考えてみれば当然だね。このお爺さんもパペットにされてるんだから、操られたときの記憶は消されてるに決まってる。マスターのお母さんと同じようにね」


 皆の大きな溜息が木霊する。

 そんな中、神慈は別の可能性を考えていた。


(テイルブロッサムのリーダーと、研究所に雇われている執事さんが顔見知りだって? だとしたら)

「執事さん。金髪で、お嬢様オーラを纏った女の子と面識があったりしませんか」

「……ありますね。ただ、彼女についての情報を明かすのは、神慈殿の情報を明かすことと同義です。なので簡単に話すわけには参りません」

「つまり、俺と同じような護衛対象ってことですね。それも、研究所経由の」


 テイルブロッサムのリーダーはメディウムだ。

 神慈以外のメディウムが研究所と繋がりを持っている。

 それだけで神慈は胸くそが悪くなった。


「マスター、研究所というのは?」

「俺と母さんは、天恵が起きた直後から一月ごとに研究所で検査を受けてるんだ。こっちの研究所はまだ一度しか行ってないんだけど」

「へー……」

「成る程。それが本当なら、リーダーとその研究所は何らかの繋がりがありそうですね」


 これで目的地は決まった。

 後は迅速に行動するための足を確保する必要がある。

 改めて神慈は黙り込んでしまった執事さんを見た。


「情報は明かさなくて結構です。でも護衛を果たせなかった責任は取って貰う。俺達を研究所まで車で送って下さい。今すぐに」

「……畏まりました。お任せ下さい」


 頼もしい返答を聞いて、神慈達は門をくぐり黒塗りの車に乗り込んだ。

 念のため助手席には、執事さんから伸びた糸を見ることができる神慈が座り、後部座席には左から順に子愛、月香、衣琉が座った。

 シートベルトを締め、いざ車が発進しようとした直後。

 月香が、唐突にこんなことを呟いた。


「あの、始祖様。研究所ってメディウム研究所のことですか?」

「? ああ、そうだよ」


「そこ、つい最近ハーミットのメンバー数人で潜入したんですけど」


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