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アボーテッド・チルドレン  作者: 襟端俊一
第三章 第二の刺客
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12

 ハーミットに所属するメディウム、御伽月香は、その後全く音沙汰のない神慈のことが気になり、三度彼の家までやって来ていた。

 沙癒里には恋人として認定されている。

 客として家に上がらせて貰うのは容易いと考えていた月香だったが、思いも寄らぬ形で横やりが入った。


(あの黒塗りの怪しい車は一体? それに、門番のように階段前に立っている老練なお爺さんは何者でしょうか)


 幾度となく修羅場をくぐり抜けてきたような、そんな歴史を感じさせる佇まいは、神慈達の親族という感じではない。

 大体、家族であれば家の中に上がっているはず。

 とはいえ、あそこまで堂々としている不審者もいないだろう。


(しかしあの車は怪しすぎる……)

 神慈達の身を案じている月香としては、確かめないわけにはいかなかった。


「あの」

 恐る恐る門を開け、顔色を窺いつつ声を掛けてみる。


「どちら様でしょうか」

「そ、それはこちらの台詞なんですが。始祖――神慈さん達とどういったご関係で?」

「仕事上、私の身分を明かすわけには参りません。どうかお引き取りを」

「わ、私は神慈さんとも、神慈さんのお母様とも面識があります。会わせて下さい」

「どうかお引き取りを」


 とりつく島もない。

 ここまで強情だと、何か後ろめたいことがあるのではと勘ぐってしまう。

 せめて家の中を確認しないことには帰れない。

 メディウムである月香なら、強引に彼の意識を奪うことができるが、その後のことを考えると無闇矢鱈と一般人をパペットにしてしまうのは気が引ける。


「沙癒里さんと会わせて下さい。あなたは怪しいです」

「沙癒里殿はいらっしゃいますが、会わせるわけには参りません。後日また、神慈殿がご一緒のときにいらして下さい」

「それでは遅いかもしれないのですっ」


 月香は遂に我慢できなくなって、老人の横を強引に通り抜けようとした。

 が、すれ違い様に首を殴打され、一瞬でタイルの上に叩きつけられてしまった。


(かはっ、か、体が……声も……? これでは視線も合わせられない……!!)

「ふぅ……やはり敵は多いようですね」

 溜息と共に零れた老人の独り言に、階段下で誰かが答えた。



「お役目ご苦労様。運転手さん」



「……おや、あなたは」


 月香の位置からはその人物の姿を見ることはできないが、老人の反応は明らかに顔見知りに対するものだった。

 あれほど厳戒態勢だった彼が、気を抜いてしまったのが何よりの証拠だ。

 そして、その直後だった。


「ドミネイト」


 女性らしき小さな声が聞こえたのと同時に、老人ともう一人の女性? はゆっくりと月香の隣に倒れ込んだ。


(え――。どういう……こと? まさか、この人はただの護衛……?)


 月香の不安を煽るように、程なくして女性? だけが立ち上がった。

 首すらも動かせず、半ば意識を失いかけている月香の耳元に、謎の人物の影が迫る。


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