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アボーテッド・チルドレン  作者: 襟端俊一
第二章 母、憤る
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 翌日の火曜日。

 神慈は朝のHRで、担任教師から衝撃的な情報を聞くことになった。


「えー……これは中等部の話なんだが。二年の熊音子愛という女生徒が、昨日から家に帰っていないらしい。誰か、心当たりのある生徒はいないか?」


 答える生徒は居なかった。

 冷や汗を大量に流しつつ机に突っ伏していた神慈も、頑なに何も喋ろうとしない。正直、黙っているのは危険な賭けだったのだが。

 子愛がメディウムだということを大っぴらにしていたとしたら、瞬く間に同じメディウムの神慈や司書殿に疑いが掛かる。

 その上で黙秘を貫いている神慈は、何処からどう見ても怪しさ満点だ。


「まあ、何か分かったら職員室まで報告してくれ。親御さんも心配していることだしな」


 幸いにして、神慈が疑われることはなかった。

 だが子愛の親御さんが心配しているという言葉が神慈の胸を深く抉った。

 自分のためにも、子愛のためにも。

 パペットの扱い方を知らなければ。


 一時間目を抜け出した神慈は、急いで芸術棟へ向かった。

 こういうとき、昇華学院の自由な校風は本当にありがたい。

 昨日と同じ女性に話を通し、エレベーターで最上階へ。


(……本当にいつでもいるんだな)


 一応確認を取ったところ、司書殿は今日も第三図書室に引きこもっているご様子。

 受付の人が何故か含み笑いを浮かべていたので問い詰めると、司書殿と神慈が第三図書室で愛を育んでいると噂になっていることが分かった。

 女性というのは、何でもかんでも恋愛に結びつけて想像するのがお決まりらしい。

 エレベーターの開閉と共に、神慈は第三図書室に足を踏み入れる。

 第三図書室の惨状は相変わらずだった。

 入り口に関しては、より一層侵入者を拒むように本が積み上がっている。


(気付いてないみたいだし、隙間から覗いてみようかな。こっちに気付いてくれると良いけど)


 司書殿への興味は、昨日よりも更に増していた。

 相手は神慈と同じメディウムだ。

 強引に干渉するつもりなどないが、今日ばかりは詳しい話を聞くまで帰れない。

 とにかく情報が欲しかった。

 子愛の言っていたリーダーというのが、司書殿である可能性だってゼロではないのだから。

 あちらの視界に映らないよう身を屈め、なるべく物音を立てず壁に近付くと、片目が収まるほどの隙間を見つけた。

 こっそりと中を覗き込んでみる。


「あっ」


 そこで神慈は見てしまった。

 指定の制服の一つであろう服を脱ぎ、今正に桃色のナース服に着替えようとしている第三図書室の司書の姿を。


「……」


 神慈の声に反応した少女は半裸の状態で立ち上がり、こちらに向かって堂々と歩いてきた。

 意図してやったことではないにせよ、状況的に見れば神慈は女湯を覗いたようなもの。

 相応の叱責は覚悟したが――



 トン、と。

 優しくも、無慈悲に。

 少女は、本の壁を押した。



「―――」


 天井まで積み上がっていた本。

 少女の身長ではとても届く高さではない。

 恐らくは、たった一人で椅子に乗ってまでして作った本の壁。

 それはいとも簡単に崩れ、本の雪崩となって神慈の身に襲いかかった。


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