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実験開始


 現在時刻7時15分。第428次実験開始まで残り15分。


 辺りは日が暮れて、薄暗い闇に包まれている。そんな中試験体908は誰かを待つように河原に佇んでいた。

 周りからはゴポゴポと流れる川の音だけが支配し、他の音は何一つ聞こえてこない。そんな中で試験体908は近くに落ちている小石を掴んでは投げ、掴んでは投げを繰り返していた。

「驚愕。なるほど、『水切り』とは知識では知っていましたが、実際に体験してみると案外難しいものなのですね」

 ……などと独り言を呟きながら試験体908は更に小石を川に向かって投げつけていく。


 ジャリ。


 そんな時、誰かが砂利を踏み分けながらこちらに向かってくる音が聞こえた。


「なにやってんですかぁ? オマエは」


 小石を投げる手を止め、声のした方向へと振り返る試験体908。

 そこには毒々しい銀色の髪、病的なまでの白い肌を携えた人物が立ちつくし、紅蓮の瞳でこちらを見据えている。


 試験体000。


 最高の身体能力、学習能力を兼ね備え、最強の異能を操る今回の対戦相手。彼の姿や声、ある程度のことは知っていたが、こうして『実験相手の立場』として対峙するのは初めてであり、おそらく最後であった。

「解答。数時間前に出会った子供達に教えてもらった『水切り』というのをやっていました」

 試験体000は眉間にシワが寄った顔を珍しくキョトンとさせると、

「はっ、自分が殺されるってのに相変わらず緊張感がねェ野郎だ」

 呆れ返ったかの様に頭をボリボリと掻く。

「提案。試験体000、あなたも一緒に『水切り』をしませんか?」

 ポチャーン、と試験体908が投げた小石は音を立てて沈む。

 試験体000からの答えはなかった。

「疑問。それにしても上手くいきませんね、どうやったらあのように何回も水面にバウンドさせることが出来るのでしょうか」

 ぶちりながら、試験体908はまた小石を掴む。と、

「貸せ」

 いつの間にか隣りに来ていた試験体000は試験体908から小石を取り上げて

「こぉやってやんだよ……『回転』ッ!!」

 ブン! と川に向かって思いっ切り投げ、異能の力により運動量が格段に上がった小石は水面で何十回もバウンドして大きな波紋を作りだしていった。

「称賛。凄いですね、向こう側までつきましたよ」

 パチパチと拍手する試験体908をうっとうしがる試験体000はぶっきらぼうに言い捨てる。

「これで満足しただろ? さっさと始めんぞ」

「吐露。そうですね……最後にいい経験が出来て満足です」

 そんなふうに語る試験体908の表情は、どこか哀愁を帯びているかのように見えた。


 時刻は7時25分。

 試験体000と試験体908はそれぞれ割り当てられた場所につく。

「確認。実験開始まで残り5分です。用意はいいですか」

「テメエこそ、覚悟は出来てんのか? 殺される為の…………覚悟をなぁ」

「……出来てる……と言ったら嘘になりますね」

 試験体000の問いに試験体908ははっきりとしない返事を返した。

「テメエ……そりゃあ、どういう意味だ。まさか人形の分際で怖じ気づいて命が惜しくなっちまったっていう訳じゃあねえよなぁ?」

「怖じ気づく、という感情は理解しかねますが。もしかしたらこのモヤモヤがそうなのかもしれませんね」


 気がつくと実験開始まで残り数十秒といったところだった。


 ――――残り10秒


『お前になんかあったら悲しむ人だっているだろ』


 あの少年の言葉を思い出す。


 ――――残り7秒


『私は貴方達を作った研究者の一人なのよ? つまり貴方達の母親と言っても過言じゃないの だから貴方達に何かあったら悲しむのは当然よ』


 佐伯の言葉を思い出す。


 ――――残り4秒


『この風船はここにしかない、世界に一つしかない風船なんだよ? いくら替えを用意した所でその風船はこの風船じゃない、これにはなれないの』


 あの少女の言葉を思い出す。


 ――――残り1秒


 鞄から取りだした機関銃を構えると、数十メートル先の試験体000を見据える。


(私は……私は……)


 ――――残り0秒


 試験体000は口が裂せそうなくらいに両端をつり上げて笑った。


「さて、楽しい実験の始まりだぁ。せいぜい逃げ回って一秒でも長生き出来るよう努力すんだなッ!! 『飛翔』からの『突撃』」


 試験体000の足元の小石が浮かび上がり、異常な程の運動エネルギーを纏って試験体908に所に飛び込んできた。試験体908はそれを伏せてかわすが、石の一つが肩を掠め、ブラウスを引き千切る。

「ヒャハ……! いいねえいいねえ!! その顔最高だゼェ!!」

 この場所は試験体000にとって、独壇場であると同時に処刑場。足元に落ちている小石の一つ一つが異能で操ることにより、弾丸となりうるのだから。

 試験体908に勝機はない、ただこの先に待っているのは『死』のみだ。血が滲む肩を抑えながら試験体908は試験体000を見つめる。

 彼の表情は狂気に歪んでいて、さながらこういう風に言ってる様に見えた。


 ――――さぁ、愉快で素敵な虐殺ショーの始まりだ。

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