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最凶の個体


「――――たくッ」

 最強最悪のクローン、試験体000は廃墟の中で吐き捨てる様に呟いた。

「あァ、めんどくせェ……これで何回目の実験だ? 正直テメエ等みたいな雑魚を殺すのも飽きてきたンだが」

「今回の実験が第427実験になります」

 試験体000と対峙している少年はあっさりと答えてきた。最強の個体と対峙しているというのに、そこには緊張も、戦慄も、混乱も感じ取れない。ただの投げれ作業のように。

「ケッ。ご丁寧にどうも」

「ありがとうございます」


 ――ここで殺されるというのになぜこの少年はこうも客観的になれるのだろうか。不意に試験体000の脳裏にそんなことがよぎった。

 自分だったら嫌だ。絶対に逃げる。たとえ首に取り付けられてる爆弾で死ぬことになっても、数々のクローンを殺してきた相手になぶり殺しにされるよりかはマシだ。

 だというのに目の前の少年は逃げない。人間にもとより備わってる危機管理能力と言うものが欠如しているのか。

「なあ……」

「なんでしょうか」

「テメエは俺に殺される為だけに生まれてきて、どう思うんだ」

 試験体000は何故こんな事を聞くのか自分でもわからなかった。さっさと実験を終わらせたいなら無駄口を叩かず、始まった瞬間に瞬殺すればいいだけの話。

 それなのに聞く口は止まることを知らない。効率以上に大切なものがそこにはあるのかもしれなかった。

「どう……と言われましても、与えられた役割を果たすことに個人の感情は伴いませんのでどうとも言えません」

 試験体000はそれを聞いて顔をうつむけ、軽く口元を歪める。それは何かを諦めた苦笑いだったのか、早く殺したいという殺人衝動の表れだったのかはよくわからない。


「それでは実験開始の時刻です」


 言うか早いか少年は軽量なアサルトライフルを手に弾丸を撒き散らした。

 ドッドッドッドッ!!! という耳をつん裂く轟音が響きわたると同時に放たれる弾丸。その弾丸は一ミリの狂いもなく一直線に試験体000へと向かっていく。


「――――ほんと、学習しねえな」


 弾丸と試験体000の距離は残り数センチもない。だが試験体000は億劫な表情を見せるだけで、その場を動くことはなかった。


 否――――


 動く必要がなかったのだ。


「この俺にちゃっちな銃が効かねえってことをよッ!! 『反射』!」


 少年が放った弾丸は試験体000を貫くことなく、全てが少年の所に、まるで主人を見つけた飼い犬の様に、来たときと全く同じ弾道を通って戻ってきた。


 これが最強に相応しい異能の力。彼が認識した物体は彼の言葉通りに運動を変更する。もし彼が『爆発』といえば弾丸はあっという間に爆散し、『消滅』と言えば塵も残さず消える。

 最強と呼ぶに相応しいこの能力を行使して、試験体000は今までクローンを虐殺してきた。クローンのほとんどは『反射』して戻ってきた弾丸に対処出来ずに直撃し、そこで実験終了。

 今回もまたそうなるはずだった――――が。


「~~~~ッ!!!」


 自分の方へと戻ってきた弾丸を、少年は紙一重のところで回避した。今回の個体は予め試験体000の戦闘をパターンを解析し、どうなるかを読んでいたのだ。

 いつもとは違った展開に試験体000は少し笑みを零す。

「へェ、その反応の早さを見るとォ、こうなることは最初からわかってたよォだな」

「今までの戦闘から少しは学んでいるので」

「あっ、そう」

 乾いた言葉。

 それを言い終えたところで、

「だから……どぉした!」

 『加速』と呟き、一気に距離を詰める。

 次の瞬間には掬いあげるかのような動作で右手を振るい上げ、少年のか細い首をつかむ。

「ガッ! グァ……」

 首を掴む試験体000の腕は、除々に角度を換え、最終的には直角に腕を突き出す様な形で少年のからだを持ち上げていた。

「ほぉら、この殺り方は前の実験でもしたぞォ、早く対処してみろっつの!!!」

「ガハッ、ゲホッ、ゲホッ…………グッ、ガアアアアア!!!」

 首を掴まれ、言葉を出すことも困難な少年は最後の力を振り絞って、額の辺りから炎を出現させた。この炎は少年の異能。それも弱く、か細いため火力はほぼないといってもいい。それでも試験体000の動きをわずかにでも緩められると思った。


 が。


「消滅」


 それはあっさりと打ち消されてしまった。

 もはや言葉とはいえない、ただ純粋な悲鳴だけが廃校となった校舎内に響き渡る。

「はっ、もぉ終わりかよ 学習したっつってもこんなんじゃちっとも楽しめねぇ」

 ジタバタと激しく抵抗する少女に試験体000はがっかりした口調で告げ。


「――――もォいい、死ねよ、お前」


 ゴキリ。

 首の骨がへし折られ鈍い音が響く。同時に先程まで激しく抵抗していた少年はピタリとも動かなくなった。


「実験終了てとこか、こンなんじゃ暇潰しにもならねぇな」

掴んでいた手を離すと、少女はそのまま力なく床に崩れ落ちる。その亡骸を試験体000はただそっと見下していた。

「……、」

 そんな中、後ろから声が聞こえてきた。

「お疲れさまです、試験体000」

 後ろを振り返ってみると、今手に掛けた少年と似たり寄ったりの容姿をした少年少女達がぞろぞろと入ってくる。

「今日はこれで終わりだったか?」

「いえ、まだ430実験が残されています」

「ちっ、今日も帰るのが遅くなりそうだな」


 試験体000は横目で窓の外の景色を見つめる。時刻は午後五時を回っていて、空は血の様に赤く染まっていた。


 現在時刻:午後5時26分。第428次実験開始まで残り2時間4分。


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