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狂気の笑みは闇とともに

 そこは見た目だけで言えば何の変哲もないごく平凡な研究所だ。普通に職員がいて、普通の仕事があり、普通に日々を過ごしていく、そんな光景が容易く連想できるような。


 しかし実際は違う。


 研究所と思われる長い長い廊下を歩く一〇人の人影。窓からさす光が皆無なことから日はすっかり沈んでいることが窺える。

 これだけではおかしい状況とは言えない。だがその一〇人の内約が、半分が白衣を纏った研究者で、もう半分がそれに付き添う首輪をかけられた少年少女であると言えばこの状況がどこまでも異常で、どこまでも狂気の沙汰であることがすぐに分かるだろう。

「さて今回はどちらが勝利してるかね。僕は試験体000に掛けるよ」

 年配の男性が、顎に蓄えたヒゲを撫でながら言う。

 すると、好青年といった風貌の若手研究員がそれに対抗するように言い返す。その言葉に従うかのように隣の首輪をかけられた少女も小さく頷いてみせた。

「いえ、僕の“作った”試験体634が勝つと思います。そろそろ試験体000の無敗記録を打ち破らないといけませんからね」

「ま、結果は見てからのお楽しみということだ」

 研究者達がたどり着いたのは地下の一二階、ここの研究所では最下層に当たる場所だ。

 そこにあるのは巨大シェルターの入口だった。幾重にも連なって封じられたその扉はまるで何かの禁忌を封印するパンドラの箱のようにも見える。

「開けるぞ」

 暗所番号の入力とともドアが開く。すると気圧の変化か、ビュウと嫌な風が流れ込み、研究者達は反射的に目を閉じた。

 そして。

「うわ……あいつら照明まで破壊しやがって。こっから先は懐中電灯で照らしていくしかなさそうですね」

 再び目を開いてみれば、その先にはただ深く暗い闇が広がっていてた。

 両手で懐中電灯を握りしめ、一歩足を踏み出すと、水たまりを踏んだかのようにピチャンという音が室内に木霊する。室内だというの雨が降っていたかのように床一面が湿っていたのだ。

 しかしこの部屋には水溜りができるはずがない。いくら今日雨が降ったとはいえ、ここは地下の一二階だ、 雨漏りなんてありえない。


 そう。


 そこにあったのは水たまりではなく、真っ赤な真っ赤な液体――――血である。 

「おっ。やはり勝負は着いていたか。どうやら敗者は君の試験体634のようだな」

 研究者の一人が顔を綻ばせる。目の前に通常ではありえないほどの大量の血が今もなお流れ続けているというのに、そんな非常識があたかも常識だと言わんばかりに。

 研究者達は血溜りの中心に目をやると、そこには真っ赤に咲いた死体があった。

 別段、それに悲鳴もあげなければ驚いたりもしない。試験体634を作ったと言った彼ですら、ゲーム内での自分のキャラが死んだだけのような薄いリアクションしかとらなかった。

 ある程度の情報をメモ帳に記すと、研究者達は作業に取りかかる。

 その作業とは簡単に言ってしまえば死体の掃除。もちろんそれをするのは研究者に付き従う子どもたちなのだが。

 首輪をかけられた子どもたちは死体を寝袋へと詰め込み、もう一方では固まらせた血の欠片を一つずつ回収していった。


 そんな時であった。


「おいおい遅いじゃねえか……ってまだ11時14分か、そういや終了予定時間は11時20分だったな。――……あーあ、もっといたぶって殺すべきだっか? 失敗、失敗」


 ヒシヒシと。

 ヒシヒシと、狂喜に満ちた声が室内に響く。その声はまるで意図的に人を不快にするかのような、存在そのものが不協和音。

 研究者達は作業を止めるように指示し、声の出処を振りかえってみた。薄暗くてよくわからないが、その声の主は半壊した壁に腰掛けているらしく、コンクリの壁が小さく音をたててパラパラと崩れ落ちる音が定期的に聞こえてきた。

「やあ、試験体000。今回も君の勝利だったね。まったく、本当に君は僕の期待を裏切らないでくれる」

 中年の男性が皮肉を込めてその方向へとライトを照らす。

 すると月を覆っていた雲が晴れていくかのように、光のもとに試験体000と呼ばれる少年が姿を現した。

「キヒっ……当たり前だろ。何つったって俺がこの人類で最強の生物なんだからなぁ……!」

 その少年は狂気に満ちた笑みを浮かべ、ただ研究者達を見つめていた。透きとおるかのような銀髪とは対照的に燃えるかのような真紅の瞳で。


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