ケンカ
2,3時間クオリティですので、暖かい目でみてください!
「ユラ遅いな。もうライブ始まっちゃうよ…」
その十五分後……。
「やっと居た!あー、遅れちゃったね……」
悪びれる様子も無く、ユラは言った。
「遅れちゃったね、じゃないよ!私の誕生日のためのライブなんだよ?!」
今日のライブを見る約束をしていたのは、私の誕生日を祝うためでもあった。私の大好きなユニット・テトラの。チケットが手に入ったのが奇跡みたいなものなのに…!
「すごく楽しみにしてたのに!」
「いや…、ホントにごめん」
今度はいささか反省の色が見て取れた。しかしそれで、私の怒りが収まる事も無かった。
「何でよ?それでも友達なの?私のことそんなに大切に思ってくれてなかったの?」
ちょっと言い過ぎたかと思ったが、それでもこのくらい言わないとユラには効果が無いと思い直した。
「ひどい。そんなに言わなくてもいいんじゃない?何してたかも知らないくせに!」
「じゃあ、何してたのか言ってみてよ!」
「…もう、タエなんて知らない!」
ユラは早歩きをして去ってしまった。
仕方なくライブは一人で見ることにした。
(こんなんだったら、最初から一人で見てればよかった…)
好きなユニットのライブを見ているはずなのに目からは幾度となく涙がこぼれてきた。
最悪の誕生日になってしまった。
数時間後、ライブが終わり一人でトボトボ出口に向かった。
「羽朱乃タエさんは居らっしゃいませんか?」
ライブ会場から出ると、私の名前を叫んでいるスタッフさんがいた。
近づいて声をかけてみる。
「それ多分、私ですけど…?」
すると、そのスタッフさんは微笑んだ。
「あぁ、やっと居たよ。あ、ハイこれ。君の友達からだよ」
そう言って受け取ったのは、『タエちゃん誕生日おめでとう テトラ』と書かれた二人のサインだった。
「それね、君の友達が二人のサインをもらおうとしてて、僕が止めたんだ。そこで二人にあって、そのことを話したらたまたまサインくれたんだよ。ラッキーだね。それで、友達の方は僕にライブ終わったら呼んで下さいって言って、断ろうとしたら、すぐ走って行っちゃったんだ。困ったもんだよ」
スタッフさんは苦笑しながら言った。
きっと、サプライズにしたいがために、私に何も言ってくれなかったんだ。
あの時の「やっと居た」っていうのは、私を探してたんだ。ユラ、方向音痴だから。普通に歩いても楽屋側から待ち合わせの時計台までは五分も無いのだが。
一気に後悔が込み上げてきた。
その夜、ケータイを手に取ってみたものの、うまい謝罪の言葉が見当たらず、その日の内に結局仲直りすることは出来なかった。
次の日は学校だった。今日こそ謝ろう。そう決めていたのだが…、私がユラに話しかけようとするたび、その気配を察知したユラはさっさと何処かに行ってしまうのだった。
私がせっかく謝ろうとしていたのに。またふつふつと怒りが湧いてきた。
その日も仲直りすることはなく、それから一ヶ月くらいお互い話すことも、メールをすることも無かった。
そんなある日。クラスメートのある話を耳にした。
「ユラちゃん、八日の日引っ越すらしいよ?いつか遊びに行きたいな~」
え?引っ越す?この一ヶ月、ろくに話もしていなかったから知らなかった。
でも八日って、もうあと二日しかない。それまでに謝らないと、私は一生後悔する…。
頭では分かっていても、実行に移すのは困難を要した。やっぱり、あの日の内に謝っていれば…。そんな後悔が、脳裏をよぎった。
そうこう焦っている内に、八日の日を迎えてしまった。その日は日曜日で、学校は無い。
私は朝早くに自転車にまたがり、ユラの家に向かった。
着いてみると、引越し屋の大型トラックが、ユラの家の前にあった。そしてそこには引越しを手伝うユラもいた。しばらくはその様子を見つめていたが、用意を済ませて車に乗り込む姿を見ると、我に返って今謝らなければ、決心を固めた。
「ユラ!私何も知らなかった!全部私が悪いの。許…して…!」
道の反対側から叫んだ。最後の方は涙で震えて聞こえたのかは分からない。ユラは驚いた顔をしている。ユラの親は私に気付いておじぎをすると、車を走らせてしまった。やっぱり聞こえなかったんだ…。
私は再び自転車に乗り、車の後を追いかけた。ユラへお詫びの言葉を叫びながら。
そろそろ追いつけなくなってきた頃、車はある曲がり角を曲がって見えなくなった。
せめてあの曲がり角まで行って、見送ろうということにした。
曲がり角まで来てみると、なんとその車は曲がってすぐの新築の家の前に停まっていた。
「え…」
そこが引っ越し先だったのだ。
まぁ考えてみればおかしなところはあった。クラスで転校することが話されなかったし。
そして、私は車から降りてきたユラと抱き合った。
「バカ」
小さく囁いた。
「え?何??」
「何でもないよ!」
空は青く澄んでいた。
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