封印の石
「レーン!!」
マジックバイクで出勤中のレンは、後ろから聞きなれた声がして止まって振り向いた。
「おはよ!」
レンの名前を叫んだのはレンの同僚の乙葉姫花だった。
「おは・・って何やってんだよ。おい」
挨拶を返そうとしたレンは、姫花のとった行動に慌ててツッコんだ。姫花は、レンのマジックバイクの後ろ座席に置いてあったレンの荷物を持ち上げて抱えてその場に座りながら言った。
「え?歩いてくのめんどいから乗せてもらうよ?」
「ふざんけんな。降りろ。誰がこんなパシリみたいなこと・・」
「はいはい、早く行かないと遅刻!!!スタート」
「っておまっ・・・」
拒否したレンの言葉を無視して姫花は、後ろからアクセルペダルを踏むと、マジックバイクは、ブォォンと大きな音を立てて急発進した。そのせいでレンはバランスを一瞬崩したが持ち直すと、舌打ちして、姫花に文句を言った。
「あぶねーだろ。てか、俺、一言も乗っていいなんて言ってないぞ!」
「だって、マジックバイクも使えない上に瞬間移動魔法も使えなくなったんだよ」
姫花は、まじめに訴えた。
「・・・。いや、それは、てめーの責任だろ」
一瞬、詰まったが、レンは冷静に反論した。
そんな不毛な口論をしていると後ろから並走してきたマジックバイクがクラクションを鳴らした。2人がそちらの方へ振り向くと、そのバイクの運転手は、戸羽だッた。
「よ。お前ら!朝から仲がいいな」
戸羽が笑いながら話すと、姫花は、肯定し、レンは否定した。
「まぁ。それなりに♪」
「違いますよ!こいつが勝手に乗り込んできたんです!」
3人は無事に魔法省に到着するとレイカが走ってきた。
「戸羽!急いでください!招集です!」
「は?聞いてないぞ」
「今かかったんです。緊急招集。管理職はみんな」
「・・・分かった。お前らは、部室で待機してろ」
レイカの知らせに、戸羽は不審そうな顔をしたが承諾し、冷静に3人に指示をだした。
「「「はい」」」
レイカと姫花とレンは、書類の整理をしながら話をしていた。
「なんなんですか?緊急って」
姫花がレイカに聞くとレイカは書類を見ながら答えた。
「知らないわよ。あなたたちが着く前にここに情報部連絡係が来て、到着次第特別会議室に来るように伝えろって言われたの」
「なんというか、管理職だけといっても、朝一の緊急会議で、しかも重要機密事項しか話し合わないと言われている特別会議室でのってそうとうまずい気がしますね」
レンが必要のなくなった書類を処分しながら3人の気持ちをまとめるように言った。
しばらくすると、眉間にしわを寄せながら戸羽が帰ってきた。3人はそんな戸羽の顔を見て直感して以下のことをそれぞれ心の中でつぶやいた。
(げ。まじでやばいことになったんだ。やだなー、めんどくさいことになるんだろーなー)
「・・・。おい、思ってること顔に出てるぞお前ら」
戸羽が3人の顔を見て呆れながらツッコんだ。
「「!?」」
姫花とレンは図星をつかれ固まったが、レイカだけは冷静に切り返した。
「それで、なんだったんですか?問題大ありって感じですけど」
「その通りだよ」
戸羽が断言すると姫花は、項垂れた。
「あぁぁぁぁ・・・・なんで次から次と・・・」
そんな姫花を無視してレンは戸羽に話しかけた。
「それで、内容は?」
「まぁ、待て。そろそろ・・・あぁ来た来た」
戸羽がドアの方を見るとそこに宇佐美が立っていた。
「どうも、みなさん。ここで会うのは初めてですよね」
「なんで、宇佐美が・・・?」
項垂れていた姫花が顔をあげ尋ねると宇佐美が左手を掲げにこっと笑い、呪文を唱えた。
「Lock the room」
「なんで、この部屋に結界を・・・狙われているのか?」
「いや、こいつの魔法は、侵入者や攻撃回避のためじゃない。情報の漏れを防ぐ魔法。この部屋にいるもの以外には知られたくない何かがあるのね?宇佐美」
レンの発した疑問に姫花が冷静に答えながら宇佐美に確認をとった。
「そう。俺の得意魔法は変身魔法だけじゃない。ってまぁ、僕の話はどうでもいいや。本題に入るよ。・・・封印の石が盗まれた。」
宇佐美は真顔で言った。隣で戸羽はため息をついた。
「・・・」
3人はさすがに面を食らった。長い長い沈黙だった。その沈黙をやぶったのは姫花だった。
「あの、確認したいんですけど、封印の石ってやっぱり、あの封印の石ですよね?」
「そうだ。あのサタンが封印されていた石だ」
「・・・はぁ。」
戸羽が姫花の確認に大きくうなずき答えると、レンがため息をついた。
「で?なぜどういった経緯で誰が盗んだのか分かってるんですよね?もちろん」
今まで黙っていたレイカが絶対零度の表情で戸羽と宇佐美に聞いた。
「・・・・・・・それが・・・・」
宇佐美と戸羽はその表情と声色に言葉を失いかけたが必死で説明した。
「いやね、ほら内部の人間しか盗めないんだよ石って、いろんな仕組みがあって、しかも内部の人間っていっても20人以下に絞られたんだよ?」
「そうですよ。それで盗まれたのが深夜らしいんですけど。高度な睡眠魔法で警備員がやられてしまって。」
汗だくになりながら必死に二人がレイカに話すとレイカが鎌を取り出して言った。
「天下の魔法省が何なめたこと抜かしてんだコラ」
「「ひ~」」
そんなあまり緊張感のない(ある意味あるが)やり取りの隣でJの2人は冷静に分析していた。
「身内の敵で、しかも封印の石の在処を知ってた人物ね。たしかに限られる」
「しかも、その限られた人物は高度の魔法が使えるんだろ?てか在処知ってる時点でA以上だな」
「でも、天辺の奴ならある意味魔法なんて必要なさそうじゃない?警備員なんて命令で黙らせたり移動させたり、ちょっと用があるとか言えば盗めそう」
「じゃあ、その20人の中で下の方の・・」
「権威はあるけど絶対じゃないやつね。で、宇佐美、あんたは何しに来たの?早く情報出して、戸羽さんも私達に指示だしてくださいよ」
姫花がレンとの分析を終えるとレイカに怒られていた二人に声を掛けた。
「あーはいはい。これがその20名の写真と書類。あと最近世間で騒がれてて魔法省のブラックリストに載っている、いくつかのサタン復活を願う団体です!・・・それじゃあ、僕はこれで!あ、一時間後に魔法とけちゃうんで、それまでに話し終えてくださいね!戸羽さん!では!!」
「・・・ち逃げやがった」
全力で逃げるように去っていった宇佐美の後ろ姿に戸羽は舌打ちをした。しかしレイカが間髪入れずに戸羽に冷ややかに言った。
「いいから、さっさと話す」
「あー・・はい」
戸羽は頷くと、姿勢を正して今回の任務について話し始めた。
「実は、今回の任務は内部の上層部の犯行ということで、特別攻防部隊からは、俺たちの班とスコットがいる大久保さんの班と仙崎の班。一般隊からは睦月の班のみ。あとは情報部の一部のメンバーとプラン部っていう少人数メンバーだ。」
「内容は?」
レンが促す。
「前にお前らが活躍した昇格式兼パーティーを3日後の日曜にやり直すことになったんだ。レッドヴァンパイアの侵入もあったし。今度は、新しい組織編成の後だから顔合わせという名目で。おそらくそこで封印が解かれるから阻止するんだ」
「なんでそこなんですか?根拠は?」
姫花が問う。戸羽はその問いに問いで返した。
「魔法省に入った時、サタンの復活は望まないと誓ったのをおぼえているか?」
「はい」
「あれは、封印の石に直接関係していて、その誓いを立てた人間は破ると死ぬんだ。だから外部の者しか解けない。そして封印の石は魔法省内にしか運び出せないようになっていて、外部の者を招ける唯一の機会がこのパーティーなんだ」
「ふーん。だからブラックリストなのね」
頷きながらレイカは宇佐美の持ってきたブラックリストを眺めた。
「そう。事前に目星をつけること、そして阻止することが一つ目の課題。それでもう一つ。任務がある。俺らの班が選ばれた理由でもある」
「「?」」
「封印の石を作った西園寺家に報告し、封印の石の解き方を聞きに行く」
「・・・俺がいるから選ばれた?」
レンが小さな声で言った。
「あぁ。でも、それだけじゃない。封印した者の娘もいるしな」
「あぁ、私も」
淡々と姫花は納得した。
「で、お前ら行って来い!」
「「え」」
「俺、この後会議とかでて、あとこの間言ってたひきこもり責任者引っ張り出してくるという任務があるから無理だし。レイカには他の班と連絡取ったりしてもらうから」
「「えーーーーーーーーー」」