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決定

残暑の厳しい9月の朝、乙葉姫花は、目を覚まし、いつものように魔法省の制服に着替えていた。制服は、胸元の大きな赤いリボンが合うピンク色を基調としたどこかの学校のような制服だ。姫花は姿鏡の前で昨日もらったJのバッチを手に取って見つめた。そして昨日の出来事を思い出し始めた。


 昨日、昇格式を兼ねたパーティーで、レッドヴァンパイアの襲撃事件が起こった。セキュリティーが完璧な会場で起きたこの事件は、侵入方法からすべてが謎に包まれたままであった。そんな襲撃事件でテレパシー魔法を発動させ活躍した姫花とレンは、会場中から拍手を送られた。そんな二人の肩を戸羽が後ろから掴んだ。レンは笑顔で、姫花は泣きそうな顔で振り向いた。

「よぉ、お二人さん、良くやったなぁ。・・・乙葉ぁ、お前、よくも俺をおっさん呼ばわりしたな」

「とっさで、つい!」

笑顔だが目が笑っていなく、黒いオーラをまとった戸羽に焦りながら答えた。

(なに・・この人・・怖いてか、私より強いのがわかるから反抗できない。)

「ついじゃねーよ!・・・まあいい。俺のことをおっさん呼ばわりした瞬間からお前の運命が決まった。俺の班で馬車馬のようにレンと共に働いてもらう」

「げぇぇぇ」

戸羽がニヤリと笑いながら姫花に言うと姫花は嫌そうな声を上げた。そんな時、会場の一部がその命令に待ったをかけた。

「ちょっと待て戸羽。西園寺君に関しては前々から話は聞いていたが、乙葉さんについてはちょっと身勝手すぎないか」

「そうだぞ!戸羽!ずりーぞ」

戸羽に対して待ったをかけた人は何人かいたが戸羽の前に出て反論できたのは二人だけだった。戸羽はその二人を一瞥して冷静に答えた。

「テレパシー魔法を使える二人は一緒にいた方がなにかと便利だろう。なにより、この魔法を現在使えるの俺とレイカしかこの魔法省にはいない。この魔法のコツなどを教えることもできる」

そう戸羽が言い終わると反論してきた二人のうち、長い金髪を一本にまとめた西洋人みたいな顔をした男性がにらみながら言い返した。

「彼女の力はテレパシーだけではない。攻撃魔法も今見た通りだ。彼女の力は君以外の班でだって十分役に立つ。」

もう一人のいかにも体育会系の巨大な体をした角刈りの男性も負けずと言った。

「あーゆーガッツのある奴は俺の班に向いてるぜ」


 姫花は、「いやガッツねーし。」と小さくつぶやき、テレパシーでレンに話しかけた。

『ねぇ、この状況、何??てか、レンは、戸羽さんで決まりなんだ?』

『お前の取り合いだな。あぁ。昔からの知り合いで、Jになったら戸羽さんの部下になるって決めてたから。」

『取り合いって・・・。まぁ選択肢は3つってことね。で、レンのおすすめは戸羽さん?』

『おすすめってゆーか、知っているのが戸羽さんだけだから。それに俺もこのテレパシー魔法は使えた方がいろいろ便利だと思う。あぁ、あと、お前の上司・睦月さんとも友達だろう?でも、戸羽さんはKの中でも上位だ。なのに反論できるってことは、あの二人はそれなりの実力者なはずだ。』

レンの言葉に姫花は余計に悩んだ。たしかに戸羽は悪い人物ではないし、なにより根拠はないしよくわからないがこのテレパシー魔法のおかげで本当の自分をレンにはさらけ出せている。そう思うと、レンとは離れがたい。しかし、これ以上目立って出世したくないという思いもあり、そう考えるとこのテレパシー魔法は目立つ原因なる。なにより姫花には、戸羽以外の情報が少なすぎた。

 しばらく姫花は項垂れていると、やたら魔法省の優秀な人物(特に男)の個人情報を知っている知り合いを思い出した。姫花は、例の三人のやり取りを最前列でみていた、その知り合い・小川梨乃のところに急いで向かった。

「梨乃!ちょっと!」

姫花がさっそくこっそり近づいて声を掛けると梨乃は驚き大きな声で話そうとした。

「姫花!あんた・・・ふが」

慌てて姫花は梨乃の口を両手で塞いだ。そして小さな声で言った。

「黙って聞いて、小さな声で答えて」

その身勝手な命令に反感を持ちながら、姫花の眼力に負け梨乃はしぶしぶ頷いた。

「こんな状況下で、私、Jになんかなりませんとか言えないから、Jにはなってやるわ。でもこれ以上の出世は避けたいの。いろいろメリットがあるのはとりあえず戸羽さんなんだけど、あとの二人については知らな過ぎる。梨乃は知ってるでしょ?なんなのあの二人?」

姫花は一気にこそこそと質問した。

「右の西洋風の顔の人は、スコット・ウィリアムさん。ご両親が西洋のアネリア共和国の人なんだって。あぁ、あとあんたが助けた女の子のお父さん大久保さんの部下で、氷系の攻撃魔法がすごく強くてKの中でも優秀な人。でもちょっとストイックなところが難点。完璧主義すぎて部下に無茶させて過労で倒れる人続出って聞いたわ。あと神経質」

よくもまあ知っているなぁと感心しながらウィリアムは心の中で却下した。

「で、左の熊みたいなのは?」

「熊って・・。見ての通りザ・体育会系な人。名前は、仙崎大地。おおらかな性格でかなり熱い。Kで彼もまたその中でも上位・・」

「もういいわ。ありがとう」

姫花は、仙崎が見たまんまめんどくさい人と分かり、梨乃の仙崎の説明を途中で遮った。

「オーケー。私、戸羽さんにするわ」

「うん、私も戸羽さん派♪」

梨乃は姫花の消去法による決断に賛成をした。

 

 姫花は、意を決していまだにもめている戸羽たちの前に出た。

「私、できるなら戸羽さんの班で働きたいです」

三人を含め会場中が姫花に注目した。

「本人も希望している。決まりでいいだろ?」

戸羽はしてやったりと言い顔で二人に言い放った。同時にウィリアムに姫花は睨まれた。仙崎はブツブツと文句を言い始めた。

あまりに冷たい睨みに姫花は慌ててレンの後ろに立ち言い訳を始めた。

「やっぱり、レンといた方がいろいろ便利だと・・・」

ウィリアムは続いてレンの方睨んだ。レンも冷や汗をかきながら、苦笑いをした。

『おいっ姫花!!ふざけんな、なんで俺まで))汗』

『だって怖いんだもん』

戸羽とウィリアムが睨み合い、姫花とレンはあたふたした。

 

 戸羽たちのやり取りが始まる前、桜庭レイカは、レンによって氷にされたレッドヴァンパイアを破壊し人質にされた片平を解放すると、レイカの魔法武器の大きな鎌を片平に向けた。

「あんたみたいな馬鹿、私のプライドにかけて絶対昇格させない。むしろ降格させる」

呆然としている片平にレイカは冷たく言い放つと、彼女の上司であるジョージに連絡をした。


 凍りつくよう会場にレイカの声が響いた。

「本人も希望しているし、戸羽班の責任者、ジョージも二人の意見を尊重するように言っています。ウィリアムさん、あなたの上司も」

ウィリアムが振り向くと大久保がため息をついて言った。

「ウィリアム、構わない。彼女の意見を尊重させよう。これで借りはなしだ。乙葉」

姫花は慌てて頷いた。

大久保とウィリアムは悔しそうに出口へと向かった。仙崎は既に諦めていたらしくいつの間にかいなくなっていた。

 その後、姫花とレンは正式に昇格し、戸羽班へ入ることに決定した。


 そんな昨日の出来事を思い出しながら姫花はJのバッチを左の襟につけた。そしてテレポート魔法で本庁へと向かった。

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