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テレパシー

魔法省では、超有名ホテルのホールを貸し切って昇格式を兼ねた大規模なパーティーが催されていた。そんな華やかなパーティー会場に似つかない不機嫌な顔をした少女が一人いた。その少女は、J昇格者の乙葉姫花。


「姫花、いつまでそんな顔してんの!てゆーか、いい加減、逃げるの諦めなさいよ」

「・・・。卑怯よ、宇佐美から私の居場所聞き出すなんて!てゆーかこのドレスのどこにGPSついてるのよ!?」

「私が監視役を引き受けることになったんだから、あらゆる手を使うわ。ドレスにはついてないかもよ?まぁ、企業秘密よ。」

 薄いピンク色で胸元に大きなリボンをあしらったドレスを着た姫花と淡い水色のシンプルなドレスを着た梨乃が本日、3度目となる押し問答をホール前でしていると“キャー”という黄色い声が響いた。

「「なに?」」

姫花と梨乃が同時に黄色い声の方向をみるとたくさんの女性がお洒落な黒縁メガネをかけた茶髪の20代くらいの男性をとり囲んでいた。

「あ!片平喜一さん!」

梨乃が驚きながら男性の名前を言った。

「誰よ・・・」

梨乃の無駄な知識に姫香は呆れたようにボソッと言った。

「J昇格者の一人よ!レン君と姫香と彼!たしか、レン君と姫花は同い年の19歳で、片平さんは、24歳で先輩ね。結構モテるのよねー、女子に優しいから」

 梨乃が片平に見とれている隙に姫花は非常階段から脱走するため駆け出した。そしてついに非常階段のある通路に出たところ「乙葉」と声を掛けられた。

「!?」

 姫花が梨乃ではないこととあと少しで脱走できるところだったことに驚きと怒りを感じながら振り返ると、レンが立っていた。そして姫花は全力でレンを睨んだ。そんな睨みに気づかずにレンは話を続けた。

「これ、左胸につけろって。睦月さんが渡すの忘れてたらしい。あと、そろそろ式始まるから戻れよ」

そう言いながらレンは「J昇格者」と書かれた薔薇のついたバッチを渡した。

「・・・!!!」

レンの話しかけたタイミングと内容にさらに怒りを感じ、姫花が文句を言おうと口を開こうとしたとき「やぁ」という爽やかな声が通路に響いた。

爽やかな声の持ち主は、片平喜一だった。

「やぁ、乙葉さん、西園寺君。何の集まりだい?」

「集まりとかじゃないよ。ただ、これを渡すの頼まれてたから。たまたま」

レンがひらひらとバッチを見せると片平がクスッと笑った。

「構わないよ。言い訳なんてしなくて・・。君たちは不安なんだね」

「ちょっと、この人は別に言い訳したわけじゃなし、なに、その言い方」

姫花が抗議するとさらに笑みを浮かべて片平は話し続けた。

「そんなムキにならないでよ。逆に怪しい」

((なにこの頭いかれた人))姫花とレンは同時に思った。

「君たちは身内のコネでJに最年少昇格したんだろう?それは不安だよね。実力で昇格した僕は、少々不快だが、まぁしょうがない。僕は心が広いし、なにより優しい。なんかあったら助けを求めてくれてかまわないよ」

片平が言い終わるか終らないかで二人はその場を去ろうとした。それと同時にホールから悲鳴が聞こえた。

「レッドヴァンパイアだーーー逃げろー」

「きゃー」

 三人は急いでホールに戻った。ホールに戻ると大勢の人が逃げ惑っていたが、姫花達がホールに入った瞬間円状のホールにある3つの扉が急に大きな音を立てて閉まった。

レッドヴァンパイアは、黒いフードをまとった人型の魔物で、知能が高く、2体以上で行動するのが特徴だ。レベルは、A~Eの中のCにあたる。この情報は、魔法省に勤め、戦闘を経験している者なら承知のことだった。そのため、1体しか姿が確認できていない今、誰も動けなかった。そして最悪なことに、確認できている1体は、5歳くらいの女の子を人質として抱えていた。

「優子!!!!」

白いドレスを着た30代くらいの女性が泣き叫んだ。その隣で彼女の肩を押さえて心配そうな顔をしている無精髭を生やした厳格な顔をした男性は、Aの大久保慎太だった。そのことから、人質の少女が大久保の娘・優子だということがホール内の人々に伝わった。

 (・・・。何体いるかわからない上に人質なんて・・・迂闊に動いたらどうなるか)

誰もがそう思っていたその時、

「たった一体に何を躊躇してるんですかー!ファッ・・うわぁっ・・ぐ」

片平が正面にいる人質を抱えたレッドヴァンパイアに飛び掛かった。しかし隠れていた2体が出現し、右側にいたレッドヴァンパイアに取り押さえられた。

(・・・・。馬鹿)

姫花とレンを含めた誰もが一瞬で思った。

 片平のせいで状況はさらに悪化したが、レッドヴァンパイアが3対ということが分かった。姫花とレンは頭の中でこの状況についてさらに分析し始めた。

(この状況下で声を発したらすぐにばれる。でも人質が二人いるから。攻めるなら二人以上がベストってゆーか、二人以上じゃないと誰か死ぬ。テレパシー魔法が必要)

レンは戸羽とレイカを目で追った。二人ともレッドヴァンパイアの正面に立っていて悔しそうな顔をしていた。姫花とレンは、心の中で叫んだ。

((誰か!!!))

お互いの頭の中に声が響いた。二人は顔を上げ目を合わせた。

『乙葉?』

姫花は頭の中に届く声に頷いた。

『ナイスポジション!!』

『いや、確かに場所は良いが、Jになりたての二人で、どうやって・・』

『私が隙を作って、人質を解放する!あとはよろしく。私、防御魔法苦手なの』

『おい、待て・・』

話をすごい速さで進める姫花に待ったをかけると姫花は思い出したように聞いた。

『ねぇ、名前は?』

『え・・西園寺』

『長い!下は?』

不満そうな顔しながら姫花は言った。

『?レン』

『レンね!私のことは、姫花でいいわ。たぶん大丈夫。やれるわ』

レンはその言葉に頷いた。姫花がレンという名を言った瞬間レンと姫花の間に急に絶対的な信頼感が出てきた。そして、お互いがなにをするのか、何を考えてるのかが一気に流れ込んできた。

 姫花は、目を瞑って「anchorアンカ」とつぶやき、自身の身長と同じくらいの上部がハート形になっている錨型の武器を出現させた。そして「jumpジャンプ」と唱えて一気に正面のレッドヴァンパイアの前まで飛んだ。そしてハートの方をレッドヴァンパイアに向け「shiningシャイニング」と叫ぶと辺り一面が白く光り、何も見えなくなった。その隙に姫花は人質の少女を奪い取り抱えたまま距離をとった。しかしあまり時間を稼げないことは分かっていたため、近くの人に少女を渡そうと周辺をみると、戸羽と目があって姫花は叫んだ。「おっさん!」と・・・。そして泣き叫ぶ5歳児を戸羽にむかって思いっきり投げた。

「おっさん!?てめー俺はまだ20代だぼけー!覚えてろよ乙葉!!」

5歳児をしっかりと受け止めると戸羽は、怒鳴った。

 レンは姫花がすることを分かっていためshiningの魔法の直前に片平を人質にしていたレッドヴァンパイアをfreezeフリーズを使って凍らせた。そして急いで姫花のもとへ向かった。

 姫花はあまり距離をとれなかったため、レッドヴァンパイアが攻撃を姫花にし返そうとした。ホールで は、「危ない、乙葉さん」「危ない」という声がいくつも発せられた。

 戸羽に少女を受け渡していたため背を向けていて、防御ができない絶体絶命の姫花が「レン!!」と叫んだ。それと同時にレンは、「shieldシールド」と叫びレッドヴァンパイアと姫花の間に大きな透明な壁を左手で出現させ、右手で姫花を抱きとめた。

「ナイスっ!レン!」

姫花がレンの首にしがみつきながら言った。

「無茶しすぎ。姫花、次行くぞ。どっち?」

呆れたようにレンが言い返し、左と正面の2体のレッドヴァンパイア、どちらを倒すか聞いた。

「もちろん、正面。blue thunder lanceブルーサンダーランス

姫花は答えると、すぐに攻撃に移った。青い雷をまとった錨型のスティックは、みるみる先が鋭利になって槍のようになっっていき、姫花は勢いよく切りかかった。

レンも「fireファイア archeryアーチェリー」と同時に火をまとった弓矢をだし、左のレッドヴァンパイアを射抜いた。

 二人の攻撃と同時にレイカはレンが凍らした右にいたレッドヴァンパイアを大きな鎌で破壊した。会場が一斉に沸いた。姫花とレンはハイタッチをして満面の笑みを浮かべた。



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