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前夜

登場人物


乙葉姫花おとはひめか…19歳。魔法省戦闘部一般隊第1部隊所属。今年のJ昇格者(昇格試験免除)現階級10。


小川梨乃おがわりの…19歳。姫花の同僚。現階級8。


睦月正二むつきしょうじ…28歳。姫花と梨乃の現上司。戦闘部・第一部長。現階級K。


宇佐美裕輔うさみゆうすけ…23歳。魔法省情報部。「Utopia」でバーテンダーをやって情報収集をしている。現階級J。


西園寺レン(さいおんじれん)…19歳。J昇格者の一人。魔法省戦闘部一般隊第7部隊。現階級10。


戸羽修とばおさむ…28歳。魔法省戦闘部特別攻防隊所属。現階級K。


桜庭レイカ(さくらばれいか)…26歳。魔法省戦闘部特別攻防隊所属。現階級Q。


 西園寺 レン、19歳。名家・西園寺家の次男。西園寺家は、魔法省創立前に活躍した祓い屋で、数々の邪悪な魔物を倒してきたといわれている。現在は、寺院の運営をしながら人脈を頼りに貿易会社としても実績を残している。そんな一家の一員として恥じぬようにレンは現在まで努力に努力を重ねた。それは、魔法に関してだけではなかった。そのおかげか、彼の評判はすこぶる良かった。彼について尋ねると皆、このように答える。


「いつも何事においても一生懸命で、名家出身で、さらに魔法使いとしても優秀なのにどこか謙虚で、人に優しくて・・・そう!まるで聖人君子!!あとカッコイイ!!」


 一方、本人は、この評判にいささか嫌気がさしていた。そのような自分を作ってきたのは、ほかでもないレンであることにすらムカついていた。

(聖人君子であらなきゃいけない。だから俺は、こうしてきたのに。今更、本当の自分なんて出せないよな。)


「あ~!西園寺!」

耳慣れた同僚の声がして振り返ると、レンに向かって手を振っていた。仕方がないので来た道を戻って同僚のもとに向かった。内心、(ふざけんな、てめーが来い)と悪態をつけながら。


「どうした、佐藤?」

到着すると内心とは裏腹ににこにこしながら尋ねた。

「お前スゲーよ!J昇格だってよ!なんだよ~俺らの中で受かったのお前だけかよ~やるよなぁ」

「本当?そっかー、運がよかったな~。佐藤たちも頑張ってたから大丈夫かと思ってたのに・・・」

 残念そうにレンは話しているが内心では、(ふざけんな。俺がJ昇格しないわけねーだろ。実力だよ実力。おめーらみたいなクズが受かってたら、魔法省を疑うわボケ)と言っていた。

「まぁ、お前が受かることは良いんだよ。みんな納得だぜ。でもさー、あの乙葉姫花が試験免除で昇格だってよ~。やってらんないよな~」

そんなレンの本心に気づかない佐藤は、不満そうに言った。

「乙葉?だれ?」

「なに、お前、知らないの?」

不思議そうな顔をするレンに佐藤は詳しく説明し始めた。

「じゃあ、乙葉 洸哉は知ってるか?」

「あぁ、たしか暗黒時代、邪悪な魔物を作り出して暴れていたサタンの時代…、に活躍してた魔法使い」

「そう!経歴は謎に包まれている伝説の最強の男!!」

「たしか、亡くなったよな。まぁ、だからこそ伝説なんだろうけど」

「あぁ、サタンの長期封印を成功させたと同時に」

「で?」

レンは、話を促した。

「だから、彼が乙葉姫花の身内なんだよ!たぶん、年齢的に父親か叔父!」

「魔力は遺伝によるから、結構強いだろうな。彼女も」

冷静に分析するレンに佐藤は、身振り手振りを加えてさらに熱弁し始めた。

「そう。そうなんだよ!!たしかに強いんだ。俺もこの間、第1部隊と合同で魔物退治に行った時に見たんだけどすごかった。しかも超可愛いし!!」

「なら、試験免除でも納得じゃないか?」

レンが聞くと佐藤は大げさにため息をついた。

「それがよー、めっちゃ性格悪いの。人を馬鹿にする感じ。でも、出世意欲はないらしくて・・・。なんなんだろうな~。だからアイツと仲良くしてる人たち尊敬するぜ。レンと大違い」

「・・・。仲良くしている人は、いるんだ」

「あ~、第1部隊はみんなアイツに優しいけど・・・。特に小川梨乃ちゃんと睦月第1部長かな~」

「へぇ」

 佐藤と別れ、食堂にレンは向かった。レンは、佐藤が思うように姫花のことを憎く思わなかった。むしろ羨ましかった。

(彼女は、乙葉洸哉の娘か姪。なら実力は本物なはずだ。自分よりも格下の奴を馬鹿にするのは当たり前だろう。それに無差別じゃない。同じ部隊の者たちは彼女を嫌ってないし、あの睦月さんを尊敬しているならちゃんと分かってる。悪態をついてもいい奴らを。ある意味器用だな。)

 そんなことを考えていると後ろから肩を叩かれた。

「よぉ、レン。久しぶり。あ、おめでとう」

「戸羽さんっ」

 戸羽修は、実家が近所でレンにとって兄のような存在だった。だから本当のレンを知っていた。

「相変わらずの外面だな~。本庁から久しぶりに出て来てお前の評判聞いた瞬間吹き出しそうになったよ」

「失礼っすね」

笑ながら話す戸羽にレンは睨みながら言った。

「ハハハ。そうだ、レイカもお前に会いたがっててな、今晩、暇だったらUtopiaに行かないか?」

ここ最近偽りの自分に疲れていたレンは、喜んで「はい」と言った。


 仕事が終わるとレンは、戸羽と共にUtopiaに向かった。Utopiaの前でレイカが待っていて二人に手を振った。

「久しぶりレン。昇格、おめでとう」

「久しぶりです。レイカさん。あざっす」

「おいおい、中で話そうぜ」

にこにこ笑い合い、このまま立ち話になりそうな気がして戸羽は二人を中に引っ張った。


 中に入るとソファー席にレンは連れて行かれた。戸羽のお気に入りらしい。

「睦月も誘ったんだけど、いいか?」

戸羽は一応、レンとレイカに確認をとった。

「えぇ」

レイカが即答するのと反対にレンは「睦月」という名前を聞き姫花のことを思い出し黙ってしまった。

「どうした?レン、なんかまずいか?」

心配そうな戸羽の声にはっとして慌てて首を横に振った。

「全然、問題ないっす」

「そうか。あぁ、注文するか」

戸羽はレンの様子に少し心配したが、とりあえず酒を注文することにして宇佐美を呼んだ。

「久々ですね。戸羽さん、桜庭さん。そしてレン。おめでとう」

宇佐美をニヤッと笑いながら話し始めた。

「なんだよ、そのニヤつき。きもいぞ。いいから、ビールと・・・」

「シャンパン」「俺もビールで」

戸羽が目くばせするとレンとレイカが即答した。

「桜庭さん、洒落たもん飲みますね」

 宇佐美は、注文を受けるとそう言い残し去って行った。そしてすぐ3つの酒を持ってきてレンに向かって話し始めた。

「レン、カウンターに座っているのが、君の同期、乙葉姫花だよ」

レンは思わず身を乗り出した。

「はは。そんなに興味ある?」

「べっ別に。今日、初めて聞いたから、どんな奴か気になっただけだよ」

宇佐美に笑われてレンは我に返って恥ずかしそうに言った。

「へぇ。彼女が例の」

面白そうに戸羽が言った。

「そういえば、睦月さんは?」

レイカは、思い出したように戸羽に尋ねた。

「あぁ。そうだった。ぜったいアイツ忘れてやがるな。ちっ。呼んでくる」

戸羽はビールを一気飲みして立ち上がり出て行った。

宇佐美がカウンターに戻るとレイカとレンはたわい無い話をした。


 戸羽は、睦月の部屋に入ると呆れたように睦月に向かって話し始めた。

「おーーい、占いかよ。何やってんだよ。酒飲む約束だろ」

そんな戸羽を見もせずぬに睦月はカード占いを続けながら返事をした。

「あー。ごめん。忘れてた!」

「誠意を感じねぇ。てか、何占ってるんだよ」

「僕の大事な部下のちょっと先の未来。」

誠意を感じねぇの意見は見事にスルーして、睦月は答えた。戸羽は、姫花だとすぐにわかって占いが終わるのを黙って見ていることにした。

 睦月は、しばらくするとにこっと笑い顔を上げた。

「で、よかった?」

戸羽は占い結果について聞いた。

「うん。こうなればいいなって思う」

「良かったんだな。なるだろ。お前の占い当たるもんな。行くぞ」

「あぁ。でもこれには、ちょっと僕の希望が入ってるから心配」

そう答えながら睦月は、荷物をまとめて戸羽とUtopiaに向かった。


(多分、明日、いろんなことが起こる。)









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