Utopia
魔法省の階級表記(上から上級階級)
A
K
Q
J
2~10
姫花は、仕事を終えると魔法省の敷地内にある「Utopia」というバーに梨乃と一緒に向かった。二人が中に入るとカウンターに立つ、金髪をワックスできれいに整えた男性のバーテンダーが手を振った。
姫花と梨乃は彼の前のカウンター席に座った。
「いらっしゃい。姫花、梨乃ちゃん」
「宇佐美、いつもの」
「裕輔くん久しぶり!」
宇佐美裕輔というバーテンダーは、同時に話す姫花と梨乃に笑いながら、カクテルを用意した。
「来るんじゃないかって思ってたよ、姫花。あ、そうだ!おめでとう、梨乃ちゃん」
宇佐美は、姫花にリトル・プリンセスというカクテルを、梨乃にはピンクレディーを出した。
「分かってたなら話が早いわ。どういうこと?」
姫花は、カクテルを飲みながら言った。
「人手不足だよ」
「その割には、J昇格者は、3人。人手不足ならもっと昇格させるべきでしょ?」
「人手不足って、有能な魔法使い不足って意味だよ。ろくな力もないのに昇格なんてさせられないよ」
「・・・。でも・・」
「ストーップ!!二人とも!」
姫花と宇佐美が話を続けようとすると梨乃が慌てて止めた。
「なによ、梨乃」
「ちょっと、姫花!裕輔君に何話してるの!てゆーか、なんで裕輔君いろいろ知っているの?」
姫花がめんどくさそうな顔をすると宇佐美が笑いながら答えた。
「いろいろ知ってるのは、俺も魔法省の関係者だからだよ。姫花、言ってなかったの?」
「気づかないとは思わなかったの。今までだってここで魔法省のことしか話してないから」
姫花がめんどくさそうに言うと梨乃は「えー」と叫んだ。
「魔法省関係者!?どういうこと?私、てっきり裕輔君はこのバーでいろいろ話す魔法省の人たちから魔法省についての話を聞いてるだけかと・・」
梨乃は頭を抱えながら話した。
「あながちまちがいではないよ。宇佐美は情報部だからね」
「じょっ情報部!?」
「ちょっと静かにね、梨乃ちゃん。あんまり広まられると困るから」
宇佐美が大声を出す梨乃に注意すると梨乃は口に手を当てて謝った。
「ご、ごめんなさい。で、でもびっくりしちゃって。あの、お金足りないからここで働いてるの?」
「ハハハ。違うよ。あ、注文きたから姫花、説明しといてね」
と言い姫花の肩を叩いてほかの客のほうへ宇佐美は向かった。
残された姫花は、梨乃に宇佐美について説明し始めた。
「情報部っていうのは、魔法省外部のことだけ調べれば良いってわけじゃない。内部についても情報収集が必要なの。で、手っ取り早いのがここ。魔法省内で秘密を暴露するバカはいなくてもお酒を飲んだらついつい漏らしちゃうかもしれないでしょう?それを狙って情報部はここに隊員を派遣しているわけ。宇佐美はその一人よ」
「そっか!すごい!でも姫花が知っているっていうことは、ほかの人も情報部が聞き耳立ててるってこと知ってるんじゃないの?そうしたら意味なくない?」
「魔法省に勤めるものは、仕事柄あんまり遠くに住めないでしょ?事件があったらすぐに招集かけられるから」
「うん。だからほとんどの人が寮で、家族持ちの人達は、隊舎だったり近くに住んだりしてる」
「情報部は馬鹿じゃないわ。ここら辺の飲食店すべてにランダムで隊員を派遣してる。とゆーことは、どこに行っても聞かれる可能性がある。そしたら、どこに行っても同じ。お酒飲むなら近くて美味しいところがいいでしょ?」
「そっか。だから、お客さんいっぱいいるんだ!秘密なんて話そうと思っていなくても言っちゃう時とかあるもんね。」
「そーゆーこと。あ、言っとくけど宇佐美は変身魔法が得意だから一つの姿がばれても痛くもかゆくもないわけ」
「え。じゃあ、あれって本物の姿じゃないかもしれないわけ?」
梨乃が青ざめながら言うと宇佐美が戻って来て「そーゆーこと♪」と梨乃の耳元でささやいた。
「キャー!」
梨乃は真っ赤になりながら叫んだ。そんな梨乃をくすくす笑いながら宇佐美は話を続けた。
「姫花、彼が君の同期の“西園寺 レン”だよ」
そういいながら奥のソファーで飲んでいる3人の男女のうち、薄茶で軽い巻き毛の目鼻立ちの良い青年を指差した。
姫花が興味なさそうに「あっそう」うなずくと、梨乃は慌てて3人を見て姫花の腕を叩きながら話し始めた。
「ほんとだ!レン君だ!カッコイイ!あ、一緒にいる人たちってKの戸羽 修≪とば おさむ≫さんとQの桜庭 レイカさん!!」
「よく知ってるね」
「二人は、テレパシー魔法が使えるから私の憧れなんです!!私もテレパシー魔法使える誰かと出会いたいなー!!ロマンチック!!」
梨乃が意気揚々と話すと姫花はグラスを置き、カクテル代を隣に置いた。
「え!?もう帰るの?」
「うん、ちょっと疲れた。宇佐美、明日抜け出す方法ないんでしょ?」
「あぁ。お前には監視がつくらしい。諦めて出なさい。昇格式兼パーティーに」
姫花が大きくため息をつくと梨乃が呆れながら聞いた。
「睦月さんなんかいいこと言って、あなた諦めたのかと思ってた」
「誰が諦めるか。なんとかするわ。てか、睦月さんは、なんか良いこと言っただけ。根本的解決になってない」
姫花が仁王立ちして言うと二人は心の中で(いや、逃げるのも根本的解決になってないだろ)とツッコんだ。
姫花が帰ると二人はテレパシーについて話を続けた。
「テレパシー魔法ってどうやったら使えるんだろう。私、姫花と使えたら本当のあの子の気持ちわかるのかな。」
「はは。梨乃ちゃんは優しいね。でも、あの魔法は、相性とか親しいだけじゃなくて、心の中で求めているものが合致した時にできるものらしいよ」
「求めているものが同じだったらいいの?」
「いや、それもあるかもしれないけど、一方がもう片方の求めているものを持っていて、その逆も同時にあったら、それも合致だと思う」
「難しい。でもじゃあ、姫花には無縁かもね。あの子完璧だし」
「どうかな。可能性はあると思うよ。完璧な人間なんていないし。なーんてね。俺、アイツに世話になったから甘いんだよね。」
「え?どうゆうこと?」
梨乃が乗り出すと宇佐美は、空笑いして話を変えた。
「あ、そうそう、昨日、梨乃ちゃんの元彼きたよ」
「ぎゃー。やだー」
(姫花・・・。テレパシー魔法使えるといいな。そしたらほんとのお前をさらけ出せるだろうにな・・・)